266話 品評会参加
「いやー、バッチリだったなヒムカ」
「ヒム!」
俺とヒムカがレンタル生産所から畑に戻ってくると、ちょうどアメリアがやってきたところだった。
約束通りに戻ってこられてよかった。
「やほー! 迎えに来たよー。準備できてる?」
「ああ。バッチリだ」
「うんうん。じゃあ行こうか! 白銀さんが一緒だったらきっとみんな驚くよ!」
あれ? 今の言い方だと……。
「なあ。もしかして俺が参加する事、他の人に言ってないのか?」
「うん。みんなをびっくりさせようと思ってさ!」
「それって俺、参加できるのか? 行って、参加できませんでしたってならないよな?」
「大丈夫だよ! 前も言ったけど、ゆるーい集まりだから。毎回飛び入り参加者がいるもん。皆で持ち寄ったハーブティー飲みながらお喋りする感じ?」
なら大丈夫かな?
「それにしても、ゆるいのか」
品評会って言ってたから、順位を付けたりするのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
「うん。でも今回は何か新しいことをするとか言ってたけど、参加できないなんてことは無いはずだから」
どうも品評会と言うよりはお茶会と言う方がふさわしい雰囲気であるらしかった。
「あ、そう言えばうちの子たちは連れて行って構わないのか?」
「だいじょぶだよ。私もウサぴょんたち連れてきてるし」
今のアメリアは兎3、ノーム2構成である。他にもテイマーが居るらしく、その従魔と遊ばせるのが目的であるらしかった。
「じゃあ、俺も皆を連れていっていいのか?」
「ぜひぜひ」
それから30分後。
「みんなー、来たよー」
「アメリア。久しぶり」
「今日は知り合いを連れてきたんだけど、参加オッケーだよね?」
迎えに来てくれたアメリアに連れていかれたのは、始まりの町の中央区にある会議所と呼ばれる建物だった。
ここはその名の通り、レンタル会議室を借りることができる場所らしい。長机に簡素な木製の椅子が並べられた、質素な部屋である。天井にはランプが吊るされ、ファンタジーと言うよりは、昭和レトロ感が強いかな?
レイドボス前の作戦会議や、ホームが狭いクランが緊急会議などで使用することが多いそうだ。会議なんて外でもいいじゃんと思ったが、他のプレイヤーには秘密にしている情報もあるため、利用するプレイヤーは結構多いらしい。
「勿論。そちらは――え? その妖精さんに、樹精ちゃんは……」
「白銀さんでーす」
「まじで?」
会議室には10人程の人がいるんだが、全員こちらを見ていた。アメリアを見ているのか? まあ、ノームを3体も連れているし、目立つのだろう。実際、ノームの人気は結構高いとアメリアが教えてくれたのだ。
それにしても、席がいっぱいなんだけど……。
「アメリアに連れてきてもらったんですけど、急に参加できますか? 席が埋まっちゃってるみたいなんで、ダメなら帰り――」
「そ、それは大丈夫です!」
俺の言葉を遮る勢いで叫んだ女性プレイヤーが、何やらテーブルに出ているウィンドウを操作した。すると、部屋は一回り大きく拡張され、机と椅子が出現する。なんと、人数に合わせて部屋の大きさを変えられるらしい。便利なシステムだね。
ただ、これなら飛び入り参加が何人いても受け入れられるだろう。
「ささ、こちらにどうぞ!」
「え、そんな真ん中でいいの?」
主催者席なんじゃないの? だが、周りの人も勧めてくれるので、とりあえずそこに座っておいた。俺がこんな席でいいのかね?
「えーっと、今回はお茶はお持ちですか? それとも試飲だけ?」
「あ、ちゃんとハーブティー持ってきたぞ」
でも、今の言い方だと試飲だけでも参加できるらしい。本当にゆるいお茶会みたいだ。
「これと、これね」
「ええ? 2種類も? しかもこんなにたくさん?」
「ああ、人数分に足りそうでよかった」
一応品評会と銘打っているだけあって、ほとんどの参加者がハーブティーを持ってきているらしい。初参加の人は免除されているそうだが、このためにわざわざ作ったのだし、持ってきた分は全て渡すことにした。
「ああ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は主催者の1人でアスカといいます」
「わたしがウサミだよ!」
2人女性が挨拶してくれる。どちらも料理系のプレイヤーの中ではそれなりに有名であるそうだ。
「いやー、いつかお会いしたいと思っていたんです」
「私も! こんなところであえるなんて、感激だよ!」
「白銀さんが参加してくださったとなれば、この品評会の格も上がるというものです」
「確かに!」
いやいや、そんな持ち上げられても。ああ、でもハーブティー作りではそこそこ先駆者なわけだし、少しは影響あるのか?
そんな風に自己紹介していたら、参加者が揃ったらしい。全員が席に着いて、品評会が始まる。
いつもならそのまま普通にハーブティーを飲みつつ、雑談をしたりするそうなんだが、今日はウサミから話があるそうだ。
「えーっと、前回も言っていた通り、時間の都合などで不参加の人にも雰囲気を楽しんでもらうために、フレンド限定で生配信をすることになりましたー」
「え? 生配信?」
「はい。あれ? アメリアから説明されてませんか?」
「何も……」
ゆるいお茶会だと言われて連れて来られただけだ。すると、アスカが説明してくれる。
なんでも、参加したいけど時間が合わないというプレイヤーが結構いるらしく、せめて雰囲気だけでも味わいたいと言われていたそうだ。そこで、会議室にあるライブ機能を使って、お茶会の様子をフレンド限定で配信することにしたらしい。
ログインしていればどこでも視聴可能だそうだ。料理プレイヤーにはショップを開いている人も多いらしく、その接客の合間に視聴するという。あとはダンジョンのセーフエリアとかでもいいらしい。ソロでもない限り、ダンジョン攻略を自分の都合だけで切り上げる訳にもいかないしね。
後は、先のエリアに進んでいるせいで転移にお金がかかってしまい、お茶会の為だけに始まりの町に戻ってくるのが勿体ないというプレイヤーもいるそうだ。
「レシピは共有しますけど、飲んでいる印象なんかも見たいっていう料理プレイヤーもいますし。テイマーの参加率が高いんで、単純にモンスの可愛い姿を見たいっていうプレイヤーもいますね」
「なるほど」
「もし顔出しとかが嫌だったら、今からでも参加取り止めできますけど……」
「いや、別にいいよ。フレンド限定なんでしょ?」
「はい」
だったら構わない。これが何千人もだったらちょっと躊躇うけど、ここにいるプレイヤーのフレンドだけだったらそう多くないだろう。それに料理プレイヤーやテイマーが多いなら、仲間みたいなものだ。
「よかったです。白銀さんにはぜひ参加してもらいたかったので。うふふ、妖精ちゃんを間近で……うふ」
アスカはファウのファンだったか。最近はモンスのおまけ扱いにもすっかり慣れてきたね。
因みに今回はオルト、サクラ、ルフレ、ヒムカ、ファウの人型メンバーにクママを加えた面子である。クママは以前の英国紳士風装備が印象的だったので、お茶と言えばという感じでなんとなく選んでしまった。
「じゃあ、品評会開始しまーす!」




