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265話 ヒムカと茶器


「まだ結構時間があるな……」


 お茶菓子にジャムは用意した。まあ、何故かワインジャムになったけど。ワインの酸味みたいなものが加わってくれればいいなーと思っただけなんだけどね。


「カップ……。いや、茶器か?」


 でも本格的な茶器ってよく分からんしな。泡立てるやつとか、茶葉を掬う匙みたいなやつとかだろ?


 いや、ハーブティーだから日本の茶器じゃないか。洋風なら洋風でコゼーとか色々必要だろうが、ポットとカップくらいでいいか?


 他に何か必要だっけ? 前にお洒落なカフェに入った時のことを思い出すんだ俺。何か色々と出てきたはずだ。


「えーっと、カップとソーサー、ティースプーン、ティーポット。あとは砂糖が入った……シュガーポットだっけ? ミルクピッチャーもあったな」


 でも砂糖はまだないからシュガーポットはいらないだろう。となるとハチミツ? ハニーポットってやつか。海外の映画で見たことある。木で出来た螺旋状の変な棒で、ハチミツを掬うシーンがあった。あれもスプーンと呼んでいいのだろうか?


 思い出せるのはそんな物かな。


「……よし、作るか!」


 実はヒムカの陶磁器作製に必要な粘土は、第3エリアに行った時に入手済みである。普通に露店で売っていた。しかもまだ使う人間が少ないらしく、メチャクチャ安かったのだ。


 粘土、水、釉薬が必要という話だったが、アリッサさんは釉薬は塗料などでも代用可能と言っていたし、材料は全て揃っている。


 ロクロセットも購入した。一番安いロクロセットは結構安かったし、ヒムカの練習用になると思ったのだ。面白そうだったら、いつか俺が使ってもいいしな。


 あと必要なのは窯なのだが、これは取りあえずレンタル生産場に行けばいいだろう。


「ヒムカ!」


 納屋の中でサクラの木工作業を眺めていたヒムカに声をかける。


「ヒム?」

「茶器を作りにレンタル生産場に行くぞ!」

「ヒームー! ヒムム!」


 すると、ヒムカが何やら手を突き出すポーズをした。待ったをかけているようなポーズだ。いや、実際に俺に少し待ってほしいと訴えかけているようだった。


 そして、何やら茶色い物を取り出してテーブルに並べ始める。


「え? もしかしてもう作ってるのか?」

「ヒム!」

「作るのに時間がかかりそうなポットまで!」

 

 なんとヒムカがいそいそと取り出したのは、12個のティーカップとソーサーのセットであった。ティーポットも2つある。どうやら暇な時間に準備を進めていたらしい。


 ヒムカがドヤ顔で胸を張っている。心なしか頭がこっちに向いているのは、撫でろというアピールか?


「えらいぞ!」

「ヒム!」


 要求通りに頭を撫でてやったら、ご満悦な表情である。しかし、これは褒めてやってもいい仕事だった。


 これなら焼くだけですぐに茶器が作れる――かもしれない。いや、初めてのことだから失敗する可能性もあるし、用意できたらラッキーくらいに思っておこう。


 ヒムカの茶器がダメでも、サクラの木製カップがあるし。


「あ、そうだ。ハチミツスプーンとかティースプーンをサクラに作っておいてもらおう。ついでにハニーポットも」


 木製品は木製品で需要があるだろうしね。ヒムカの陶磁器作製が成功しても無駄にはならないだろう。


「じゃあ、サクラ。俺とヒムカはちょっと出かけるから、色々と作っておいてくれ」

「――!」


 サクラは可愛く拳を握りしめ、俺の言葉にうなずいてくれる。安心して任せられるな。


 ということで俺はヒムカと、仕事を終えて暇だったクママを連れてレンタル生産場にやってきた。


 始まりの町の中央区画にあるんだが、建物自体はそこそこの大きさだ。とても何百人もの生産職の需要を満たせるとは思えない。


だが、内部は見た目以上に広く――というか無限なので、順番待ちをしたりする必要はなかった。


 受付で使いたい施設の備わった部屋を選び、1時間レンタルを申請し、お金を払い、受付脇の扉を潜ればもう生産室である。


「よし、窯とかロクロとか、陶磁器を作るのに必要な設備は揃ってるな」

「ヒム!」


 とりあえず俺はヒムカにミルクピッチャーだけ作ってもらうことにした。粘土に水を混ぜて、コネコネした後にロクロで成形していく。器用なものだ。


 俺にはスキルがないけど、陶磁器作製スキルがあればオート作製で綺麗な形にできるらしい。


 あっと言う間に取っ手の付いた水瓶風の形をしたミルクピッチャーの原型が完成した。


「ヒムー」


 額の汗を拭う仕草をするヒムカ。結構集中力を要するのかもしれない。


「釉薬はどうする?」

「ヒム!」


 ヒムカが指をさす場所には、大きめの瓶が置いてある。中にはトロッとした液体が満たされていた。最低ランクではあるが、一応釉薬も用意してあるらしい。


「なるほど……。なあ、この塗料と、この最低品質釉薬。どっちがマシだ?」

「ヒム!」


 ヒムカが迷わず塗料を指差した。塗料の方が品質は上ってことか。


 ただ、釉薬の出来上がりも見てみたい。とりあえず5セットずつ、釉薬と塗料で焼いてみることにした。


 品質は塗料の方が良くなるかもしれんが、俺が重視するのは見た目だからね。


「じゃあ、焼くか」

「ヒム!」


 大きなヘラのようなものにティーカップなどを載せると、そのまま窯の中へと並べて行く。ちょっとピザ職人ぽいな。


 さらに石炭をガンガン投入していた。リアルだと最適な温度っていうものがあるはずなんだが、ゲームの中だと火力が高ければ高い程いいらしい。


 すると、ヒムカが窯の前に立つと、窯の扉に取り付けられた覗き口をじっと見つめた。そのまま腕を組んで微動だにしない。


 職人ぽくてかっこいいが……。


「もしかしてずっとこのままなのか?」


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