263話 テフテフ
通路の先は、オバケのいた部屋と同じようなサイズの小部屋であった。
ギュルルルー!
「テフ~」
腹をすかせたNPCが倒れているのも同じだ。
「蝶?」
倒れていたのは、ヌイグルミちっくにデフォルメされたモンシロチョウであった。
名前はテフテフ。姿通りの名前だな。
「テ~フ~……」
グギュルルル!
俺たちがテフテフを見ていると、ウルウルとした目と腹の音が激しく主張してくる。
「テフ~……」
「あーはいはい、分かってるよ。今食えそうな物を出してやるから」
観察する前に、食べ物をあげてしまおう。ただ、やはり好物が不明なので、オバケの時と同じ食べ物全部並べ作戦だ。
アメリアにも手伝ってもらって、テフテフのNPCの周りを食べ物で囲んだ。
「どうしたんだアメリア、変な顔して」
「いえ、さすが白銀さんと思っただけ。どんだけ料理してたらこんなにたくさんの食材がゲットできるのかしら。異常だわ」
「い、異常って……」
「あ、ごめんごめん。褒めてるのよ?」
褒めてるか? まあ、いいや。テイマーなのに料理とか畑の方がメインっぽくなっているのは確かだし……。ちくせう。
いつか俺だってアメリアみたいに戦闘方面で華々しく活躍してやる! 向かってくる敵をちぎっては投げ、ちぎっては投げ。モンスの超強力な攻撃でボスを一方的に殲滅して、「薙ぎ払えっ!」て叫んでいる動画をネットにアップしてやるんだ!
「ム?」
「フム?」
「……うん。何でもないぞ?」
まあ、いつかね。
そんなことを考えている内に、テフテフはある食材に飛びついていた。
「テフテフ~!」
「それにしても、まさかこんなものを食べるとは思わなかったな」
「うん。私も」
テフテフが興味を示したのは3つ。
苦渋草とランタンカボチャ、キュアニンジンだ。一応用意してみたチューリップの花やロイヤルゼリーなど目もくれず、その3つを貪り食っている。
口に巻いた管みたいな口がないので固形物もいけるのかな~と思っていたが、まさか普通に野菜に飛びつくとは思わなかった。羽根で器用にホールドしているな。
「テフ~♪」
この3つの共通点は、品種改良で作り出した作物であるということだった。多分、その条件で間違いないだろう。
「これって、メチャクチャ難しくない?」
「え? そうか?」
「まあ、白銀さんからしたら大したアイテムじゃないかもしれないけど、普通のプレイヤーは中々手に入らないから。売ってるお店もあるけど、だいたいは必要だから買う訳だし。その後使っちゃうことがほとんどでしょ?」
ああ、それはそうかもしれん。俺みたいに自力で育ててない限り、作物状態で持ち歩くことは少ないだろう。
「いや~、私白銀さんと一緒でラッキーだったわ」
「俺もアメリアと一緒でラッキーだったよ。前回、あのボスにボコボコにされて死に戻ったからな」
「じゃあ、今回はお互いさまってことで。あ、でもあの作物の代金は半分出すから」
「別にいいよ。それこそ畑で収穫できるものだからな。それよりも、お茶会への案内頼む」
「そこは任せておいて! それに、白銀さんが参加してくれるならみんな喜ぶしね」
アメリアと雑談をしている最中、うちの子たちは思い思いに遊んでいる。勿論、アメリアのモンス達も一緒だ。
ノームたちやルフレなど、人型精霊組+ドリモは輪になってしゃがみ込んでいる。○×ゲームをしているらしい。
さっきまでは、アメリアのモンスたち対うちの子たちだったんだが、今はサクラ&ルフレ対ノーム連合になっているな。
あ、次はサクラ対それ以外になった。どうやらサクラが強すぎて、皆で挑む感じになっているようだった。連合軍の中心がドリモになっているところを見ると、サクラに太刀打ちできそうなのはドリモしかいないのだろう。
ファウを含めたオチビさんたちは、普通に追いかけっこをしている。
飛行可能なファウが有利かと思ったが、小回りがきく小動物たちも負けていない。それに、アメリアのウサギたちはレベルも高いので敏捷力も高いのだろう。捕まりそうになっても素晴らしい跳躍で逃げていた。
「テフフ!」
そして、満足したテフテフは俺とアメリアにアイテムを渡して、オバケと同じ様に消える。この辺はどのダンジョンも一緒ってことなんだろう。
報酬アイテムはちゃんとプレイヤーの人数分もらえるようだ。
「えーっと、破れたメンコか」
「オバケはビー玉だっけ?」
やはり懐かしのレトロオモチャシリーズである。
「ああ、使い道がさっぱりわからんな」
「まあまあ、その内分かるって。それよりも、この後どうする? どうせだったら他の2つ行っちゃう?」
「アメリアは付き合ってくれるのか?」
「モチのロンよ! むしろ、こちらからお願いしまっす!」
これは嬉しいぞ。ログアウトまでもう少し余裕があるし、アメリアと一緒だったら東か南は攻略できるかもしれないな。
「じゃあ、行っちゃうか?」
「うん! 行っちゃおう!」
出遅れテイマーの新刊が5月に発売予定となりました。
以前の物と区別するために、タイトルの「その日ぐらし」が「その日暮らし」に変更されています。
詳しい情報が分かりましたら、後書きなどで報告させていただきます。
 




