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258話 がんばれスケガワ


 白馬を連れた、紫の髪の騎士が近づいて来る。


「やあ、ユート君!」

「久しぶりだなジークフリード」


 紫髪の冒険者こと、ジークフリードだ。騎士ロールプレイの熱血正義漢なんだが、意外と嫌いじゃない。リアルだったら絶対に友達にはなれないだろうが、ゲームの中では頼もしい存在なのだ。今までも散々世話になったしね。


「助かったよ。君のおかげで、周りのプレイヤーたちも味方に付いてくれたようだしね」

「いや、つい言葉が出ちゃっただけだ」

「そうかい? じゃあ、そういうことにしておこうか」


 しておくも何も、本当に深い考えがあったわけじゃないんだけどな。なんか良い方に解釈してくれたらしい。


 どう訂正したものかと考えていたら、さらにクリスと、暗い顔のスケガワが話しかけてくる。


「白銀さん、ありがとうございました!」

「いや、別に……」


 クリスの仕草が完全に少女だ。思わず目をそらしてしまった。キモイとかじゃないよ? なんというか、自衛のため? すると、スケガワとばっちり目が合った。


「白銀さん……。俺、俺……」


 フラフラとした足取りで近寄って来る。まるでゾンビみたいだな。


「俺、鑑定してなくてさ……。だって、女の子だって思うじゃん?」

「いや、何も言うな。分かるぞ」

「うう、まさか男だったなんて……」


 やはり見た目だけで少女だと思っていたらしい。クリスをかばっていた時のキメ顔との落差が凄まじいな。


 スケガワと無言でうなずき合っていると、再度ジークフリードが声をかけてくる。クリスも一緒だ。


「ユート君。この後なんだが、暇かい?」

「この後?」

「ああ、もし時間があるなら、我々とダンジョンに挑戦しないかい?」

「ぜひご一緒にどうです?」


 ああ、ジークフリードとクリスはこの事を話していたのか。


「クリス君が困っていると言うのでね。僕とスケガワ君が協力することにしたんだ。それで、君もどうかと思って」

「みんなでダンジョンに潜ったら、きっと楽しいですよ!」


 うーむ、どうしよう。ジークフリードとスケガワの実力は知っている。先程ダンジョンに潜ってみた感じ、この2人が居れば何とかなるだろう。


 でも、俺もある程度消耗もしてるしな~。ネクロマンサーにはちょっと興味があるけど……。ここはやっぱりお断りしよう。そう思って、口を開いたんだが……。


「いや、俺は――」

「白銀さん」


 スケガワが凄い真っすぐな瞳で俺を見つめてきた。凄まじい目力だ。その瞳が、逃げるなんてズルイと訴えている。


 だが、俺だってクリスはちょっと苦手だ。そう思いながらスケガワを見つめ返したら、今度は俺を拝み始めた。


「白銀さん! な?」

「でもな」

「頼むよ~」

「え~」

「いいじゃんか!」

「だってさ~」

「そこをなんとか!」


 主語はなくてもスケガワと通じ合ってしまう。互いに感じていることは同じなのだろう。クリスは嫌いなわけじゃない。だが、自分の中の何かを守るために、俺たちも必死なのだ。


「おなしゃす!」


 あ、こいつ土下座始めやがった!


「ちょ、お前まだ人が結構いるんだぞ」

「おなしゃす!」


 この野郎、俺が頷くまで土下座を止めないつもりだな。いや、無視して帰ってしまったっていいんだろうが……。


「あーもう! ずるいぞ! とりあえず土下座止めろ!」


 リアルで自分と同年代だと思われるスケガワの土下座は、なぜか見てるだけで胸がいっぱいになるのだ。アバターは若いイケメンなのに、その内側から溢れ出る哀愁が凄まじいからだろうか? 逃げることが出来なかった。


「だって、だって……」

「どちらにせよ、俺は消耗してるし、付き合えないって!」

「うう。まじか!」

「残念だよ。クリス君には色々と教えなきゃいけないこともあるし、同系統の職業であるユート君の言葉も、彼の参考になると思ったんだけどね」


 どうやらジークフリードはクリスを少しばかり教育するつもりらしい。


「クリス君は完全にゲーム初心者な様だし、マナーもいまいち分かっていないようだからね」

「あー、それはそうかもな。さっきの言い合いも、相手だけが完全に悪いわけじゃない気もするし」


 感情論と理屈。暗黙の了解と、システム上許されているのであれば何をしてもいいのか? 色々と難しい話だ。


 まあ、それでもあの男は完全に言い過ぎだったけどね。多分、ヒートアップして、攻撃的になり過ぎたのだろう。


「誰にだって初心者の頃はあるし、彼のように一方的に怒鳴りつけるのは良くない。そういう時は先達として、説明してやるべきだろう」

「まあ、そこは俺も同意するけど」


 LJOをやる前に遊んでいたゲームで、俺もちょっとしたマナー違反をして怒られたことがある。VR格闘ゲームなのだが、勝者はガッツポーズをするなというマナーがあった。敗者に失礼だからという理屈だ。


 だが初心者だった俺はそれを知らず、初勝利の時に思わずガッツポーズをしてしまったのだ。そして、相手から長文で罵倒された。暗黙のマナーを調べなかった俺も悪いが「そこまで怒らなくても」と思ったことも確かだった。いや、負けて不機嫌なのは分かるけどさ、そこで俺に当たられてもね。結局すぐにそのゲームは辞めたよ。


「とりあえず、これを持って行け」

「マップデータ? いいのかい?」

「俺にはこれくらいしかできんから」

「助かるよ」


 やはりクリスのことはジークフリードに任せよう。スケガワは使い物になるかどうかわからんし。


 それにしても、周囲からメチャクチャ見られている。まあ、ジークフリードもクリスも目立つし、スケガワも有名プレイヤーの1人だから仕方ないが。


「クリスも、ジークフリードに色々と教えてもらうといい」

「わかりました」


 クリスは俺の言葉にうなずくと、その場で野次馬たちに向き直った。そして、綺麗な角度でお辞儀をする。アンデッドたちも一緒に。


「お騒がせしました! それと、ありがとうございました!」

「ヴァァァ」

「カタカタ」


 悲鳴が上がったな。アンデッドが怖いのか? いや、そんな感じの悲鳴じゃなかったぞ。むしろ嬉しそうだった。


「う、うさぎ獣人かわいい!」

「男の娘とスケルトン……ありだ」

「ゴスロリ着てくれないかな」

「いやいや、ここはアイドル風のフリフリだろう!」


 ゲーマーたちは意外と順応性が高いらしい。クリスに対して好意的な視線がほとんだ。ただ、頬を赤らめている男ども。それ以上は踏み込まないように。


 まあ、クリスも悪いやつじゃないんだよな。ジークフリードに色々教えてもらって、もっとゲームに慣れれば今回みたいなことも減るだろう。頑張れ。


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