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254話 くすぐりなめんなよ!


 俺は今、このゲームを始めて以来の難敵と戦っていた。


 勿論、いままでも強い敵はいた。速い敵。大きい敵。魔術を使う敵。ついさきほどもボスによって殺されたばかりだ。


 しかし、あえて言おう。この相手こそが、最も手ごわいと!


「ぶひゃはひゃひゃ!」

「スネー」

「ぐほひゃひゃひゃひゃ!」

「スネー」


 スネコスリとの3分間1本勝負である。


 俺は草むらに裸足の足を突っ込んだまま、凄まじいくすぐり攻撃に耐えていた。足裏やくるぶしの辺りを見えない何かが擽っている。


 多分、念動と尻尾を両方使っているのだろう。


 想像してもらいたい、指先で足裏をツツーと触られた直後に、猫じゃらしでコショコショとくすぐられ、また念動でサワサワと撫でられるのだ。


 そのくすぐったさは筆舌に尽くし難かった。くすぐっている相手を振り払ってしまいたい。しかしスネコスリを追い払ったり、その姿を見ようと草むらをかき分けると、すぐに逃げてしまうらしい。


 逃げられてしまうと、草刈りクエストを再び受領しないと出現してくれないのだ。耐えねば!


「ぐははははは!」

「スネー」


 あと1分半! ぐおおおお! まけるか!


「ヤー!」

「キキュー!」


 ファウとリックが草原に寝そべったまま体を痙攣させる俺の顔の横で、両手を握りしめて応援してくれている。こんな醜態をさらす俺を馬鹿にすることなく、引いたりもせずに健気に応援してくれるなんて、なんていい子たちだ!


 因みに、他の子たちは草刈の真っ最中である。クエストもきっちりクリアしないとね。まあ、他のプレイヤーたちはスネコスリを図鑑に登録できたら、クエストを途中リタイアしてしまうらしい。


 なにせ時間はかかるのに、メチャクチャ報酬が低いからね。俺も最初はそうしようかとも思ったが、なんか負けた気がするのだ。あと、ギルド貢献度も稼ぎたいし、ステータスが回復するまで暇でもある。ここはきっちりクリアしておこうと考えていた。


「スネー」

「げへへへへ!」

「ヤヤー!」

「キキュー!」


 リアルだとくすぐったい場合は、他の場所を抓ると良い。実は俺は結構くすぐったがりだ。整体や床屋に行った時に、他人の手が触れているというだけで不意にくすぐったく感じる時がある。


 だが、自分から店にやってきておいて、くすぐったいからと身を激しくよじるわけにもいかない。いや、以前床屋でバリカンをかけてもらっている最中にそれをやって、大惨事になったことがあるのだ。


 そんな俺が編み出したのが、痛みでくすぐったさを堪えるという方法である。太腿あたりを抓って、そちらの痛みに集中するわけだ。俺の経験上、それで6割くらいは軽減することが出来た。くすぐったさは多少残ってしまうんだが、それでもかなりマシになる。


「スネー」

「ぎょほほほほ!」


 だがここは痛覚のないゲームの中。どれだけ抓っても痛くはない。痛覚がないというよりは、一定以上の強さの感覚が弱められると言った方がいいだろう。


 抓った部分には、軽く摘ままれたような感覚はあるからね。でも、これではくすぐったさの軽減には全く役には立たないのだ。


「スネネー」

「ぶべらおおおお!」


 結果、歯を食いしばってただ耐えるしかなかった。ふと思い出したが、くすぐりって拷問に使われたりするんじゃなかったっけ? このスネコスリの試練、成功率が4割というのもうなずける話だった。


 だが、俺は耐えきった。地獄の3分間から生還したのだ。


「スネー」

「はぁ……はぁ……。やったぞ!」


 俺の目の前に、可愛らしいモフモフがいた。聞いていた通り、顔は猫っぽい。だが、体はクリーム色のフェレットだ。


「スーネー♪」


 そして、スネコスリの姿が次第に薄くなっていき、そのまま消えてしまうのだった。ただ、これは仕方ない。妖怪は陰陽師でなくては使役できない。妖怪召喚のスキルがあれば召喚可能だろうが、今のところそのスキルは解放されていなかった。


 普通のプレイヤーの場合はスネコスリと縁が結べたことになり、図鑑の妖怪欄にスネコスリが登録される。あとは、転職可能職業に陰陽師が追加され、念動というスキルが解放されるらしい。


「よし、図鑑にきっちりスネコスリが登録されているな」


 あとは解放されたスキルの念動だけど……。どうしようか。ボーナスポイントを消費すれば取得できるが、いまいち興味が引かれない。


 取得した浜風が使用感を掲示板に書き込んでいたが、威力は魔術より低いが、見えづらいので命中率は高いらしい。石などを投げて攻撃もできるそうだが、だったら土魔術を覚えるよな~。


 わざわざ取得する必要はないか。どこかで必要になったらその時に考えよう。


「さて、俺も草刈りに参加するか。2人もいくぞー」

「ヤー」

「キキュー」


 チビーズはあまり役に立たんけど、応援してくれるだけで頑張れるからな。


 その後、俺たちは始まりの街を巡りながら草刈りをこなしていった。昔と違って今はモンスが手伝ってくれるから、労働クエストが早く終わって助かる。俺とオルトだけだったら、丸1日かかってただろう。


「冒険者ギルドに戻って報告だ」

「クマ!」

「ヒム!」


 ヒムカとクママが俺の両手を取る。これも両手に花というのだろうか? 一部の人には羨ましがられるだろうけど。


 冒険者ギルドへ向かう途上にちょうど畑があるけど、寄る必要はないかな。前を通る時にオルト達に声をかければいいだろう。そう思ったんだが――。


「おいおい、どういうことだよ」

「スネー」

「なんでスネコスリがうちの畑にいる?」


 今までスネコスリがホームに現れたなんて話、きいたことがない。だが、実際に目の前にスネコスリがいる。


 チャガマの場合は本体の茶釜があるし、ハナミアラシもホームオブジェクトである社を設置した。だが、スネコスリには何もない。


「理由が分からん……。畑だからか?」


 だとしたら畑が優遇され過ぎじゃないか? ホームには出現するけど、畑じゃ無理でしたっていうのが普通だろう。


「バグ? うーん」

「スネー」

「お前、どうして畑にいるんだ?」

「スネ?」


 分からんよな。


 アリッサさんのところに行ってみようかな。もしかしたら何か情報があるかもしれん。



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[気になる点] くすぐられる美少女や美少年の絵面、想像したらヤバかった クリム◯ン絵的な?
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