253話 待ち時間
アリッサさんに情報を売ったし、今度は情報をいくつか買いたい。
東の地下通路の詳細な情報が欲しかったのだ。コガッパも気になるけど、そのつながりでキュウリの情報なんかもあればほしかった。
すると、アリッサさんが何やら取り出して見せてくれる。それは赤い、縦笛サイズの棒だった。いや、縦笛ほど真っすぐではなく少し反っているし、表面は少し凸凹している。
「これは……赤キュウリ? もうキュウリが発見されてたんですか!」
ダメ元で情報を聞いたのに、まさかこの場で出てくるとは思わなかった。
「あ、やっぱまだ知らなかった? 始まりの町で見つかったばかりなんだ。まだほとんど知られてないの。今のところ入手できたプレイヤーは10人いないんじゃないかしら?」
「え? それは凄いですね」
「新しくNPC露店が増えて、そこで売られてたの。入るには一定以上の農業スキルが必要だけど。ユート君なら入れると思うよ」
「種は?」
「作物状態で売られてるだけだね」
種が発見された訳ではなかったか。
「どうも、最近のアップデートで追加されたみたい。多分、浜風やユート君が発見した地下ダンジョンも、同時期に追加されたんじゃないかしら?」
なるほど。実は俺たちが初めて発見したってことに、微妙な違和感があったんだよね。いくら発見しづらいって言っても、誰も発見してないってあるか? 東西南北の町ではかなりのプレイヤーが活動しているわけだし、誰かが見つけていてもよかったと思うのだ。
ただ、アリッサさんの話を聞く限り、マップが追加された時期に、運良く俺が発見したって事だったらしい。それなら納得だ。
「ほら、こないだもホーム購入者が一定数を超えたってワールドアナウンスあったじゃない? あの時に、一部システム解放って言ってたし」
「ああ、そういえばそんなアナウンスもありましたね」
自分に関係ないことだったから、スルーしてたけど。実際、数日おきに似たアナウンスがある。リアルで考えたら、1日1回くらいのペースだろう。そう考えると、初期の町や、攻略済みのフィールドに新しい何かが追加される可能性もあるのかもな。
「まあ、本当のところはどうか分からないけど。それよりも、東の地下通路の最新情報、知りたい?」
「え? これだけじゃないんですか?」
「ふふん。あったり前でしょ。実はこの赤キュウリ、発見したタゴサックがコガッパに食べさせることに成功しているわ」
その時にタゴサックがコガッパからもらえたのは、潰れたベーゴマであったらしい。オバケはひび割れたビー玉だったし、懐かしのオモチャシリーズなのかね?
「そのベーゴマ、何に使うか分かっていないんですか?」
「そうなのよ。今のところ謎」
残念。使い道が分かってるんなら、地下ダンジョンへのアタックも頑張れるんだけど。意味不明なアイテムの為に死にかけるのはな~。
「この地下洞窟、私たちが攻略しちゃってもいいの?」
「いいですよ。どうせ俺には無理そうだし。とりあえず、ステータスが元に戻ったらどうするか考えます。アメリアが戻ってくれば、一緒に行ってもいいですしね」
「そう。ありがとう! ふっふっふ、誰を行かせようかしら」
その後、農業や生産に関する新発見の情報などを幾つか買い、精算してもらう。
「か、開店用に用意してた資金が……。いえ、でもすぐに取り返せるはず……。でも、うちのクランで先に攻略を、ああでも――」
「どうかしました?」
「何でもないわ!」
差し引きで情報料は55万Gの儲けだ。まあまあだな。いや、かなり高額なんだけど、精霊門バブルのせいでちょっと金銭感覚がマヒしているんだよね。
精霊門の場合はノームの情報なども込みだったからあの値段だったそうだ。
因みに、西の町の地下水道の情報が35万。北の町の地下洞窟の情報は20万。その他の情報は売り買いで相殺って事らしい。
アメリアには10万支払えばいいだろう。
「じゃあ、行きますね」
「……またよろしくねー」
妙に疲れた様子のアリッサさんに見送られながら早耳猫のクランハウスを後にした。そのまま始まりの町を歩く。
「スネコスリはどうなってるかな~」
妖怪スネコスリと仲良くなるための原っぱがどうなっているか見に行ってみたのだ。
「うーん。まだ並んでるか」
先日よりは大分短いが、まだ10人くらいは並んでいる。だが、時間が余っていることは確かだ。だったら、今の内に並んじゃうのも手かな?
「よし、並んじゃおう!」
とりあえず冒険者ギルドに向かい、草刈クエストを受注する。これを受けていないと、スネコスリは現れないそうだ。
そのまま急いで原っぱに戻った。
「みんな、いくぞ!」
「クックマ!」
「フムー!」
クママとルフレがタターッと走って行って、列に並ぶ。うんうん。並ぼうとしていた人の前に滑り込んだりせずに、ちゃんと順番を譲るのはえらいぞ。
なんか前に並んでいる人にすっごい見られている。いや、うちの子たちは目立つから仕方ないけど。見てるだけで話しかけてきたりはしないからいいや。
「待ってる間、なにしよーかなー」
他のプレイヤーさんを逆に観察してみる。普通に無言で立っている者。パーティメンバーと会話している者。その場で生産活動をしている者。その時間の潰し方は色々だ。
「錬金のレベリングでもするか」
インベントリの中を確認したら、低品質の毒草や麻痺草がそれなりに溜まっている。これを錬金で合成して品質を上げるとしよう。
「うちの子たちは――大丈夫だな」
すでに棒倒しで遊んでいる。放っておいても平気そうだ。
そして一時間後。
「次は俺たちの番なんだけど……。どうしよう」
「クマ……クマー!」
「フム~……」
「モグ……!」
棒倒しがめっちゃ白熱している。全員が福本漫画の登場人物みたいに真剣な表情で、砂の山を削っているな。
しかもギャラリーの数が凄い。30人くらいがうちの子たちの周りに輪を作って、その熱戦を見守っていた。しかも、皆の集中力を乱さないためなのか、誰もしゃべらない。
「ヤ~……ヤ!」
「……」
「ヒム……!」
「……」
うちの子たちの真剣な声だけが響く、異様な集団が出来上がっていた。あれに、もう切り上げてくれとは言い難いんだが……。
都合よく終わらんもんかね。よし、リックそこだ! ちょいとばかし砂を多めにとって、棒を倒してしまえ!
「キュ~……」
ちっ。成功したか。クママ! お前には期待してるぞ!
「クマ……!」
あー、成功か。惜しかったな。
なんて感じで3分程が経過した。やばい。もう俺たちの番になるぞ。ここは中断させるべきか?
そんな時、ドリモがふとこっちを見た。いま完全に目が合ったな。
「モグ!」
「あー」
「ほ~」
そして、ドリモが少し多めに砂を削ると、ぱたりと棒が倒れ、そこで遊びが終了したのだった。それを見届けたプレイヤーたちも、三々五々散っていく。
「ドリモ、お前……」
「モグ」
気にするなとでも言うように、ドリモが追い越しざまに俺の腰を軽く叩く。やはり、空気を読んでくれたのか! ドリモさん、まじ頼りになります!




