251話 久々にやっちまいました
難所である急坂を登り切った後は、そこまで危険な場所は存在していなかった。まあ、敵の数が増えはしたけどね。
ただ、最後の最後、予期しなかったギミックが仕掛けられていた。
なんと、下り坂になっている道の途中で、いきなり床が消失し、プレイヤーが落下する仕掛けになっていたのだ。
罠扱いではないらしく、俺の罠察知には全く反応がなかった。
落下した先は円形の広場になっている。その中央には、白い煙のような物が立ち昇っていた。ガスか何かか?
「ヴァヴァアアアアア!」
「げっ! でかいポルターガイスト!」
白い煙で形作られた巨大な髑髏が、ユラユラと揺れながら叫び声を上げている。
ただでさえ不気味なポルターガイストが、巨大化するとよりキモイな。
鑑定すると、その巨大な煙の髑髏は、ポルターガイスツとなっている。どうやらこれがこのダンジョンのボス戦であるらしい。心の準備ができてないんですけど! それに名前!
「アメメメンボといい、ネーミングセンスがひどすぎる! 分かりにくすぎるだろ!」
「ヴァヴァヴァヴァアアア!」
「くそ! みんな、戦闘準備!」
「ムムー!」
「モグモ!」
俺の言葉に瞬時に反応したオルトとドリモが、俺の前に飛び出してくれる。自分たちがパーティの要だと理解しているのだ。
「最初はポルターガイストと同じ要領で戦う! サクラ、攻撃優先だ!」
「――!」
「フム!」
ダンジョンに出てくるポルターガイストは、遠距離攻撃がメインのモンスターだった。魔術でしか倒せないものの、攻撃の威力は低かったので、ボスもそうだと思っていたんだが――。
「ヴァヴァッヴァー!」
「なんか吐き出した!」
ボスが口から何かを発射して攻撃してきた。バランスボールサイズの白い物体だ。
最初は冷気か何かと思ったんだが、オルトが防ごうとしてもすり抜けてしまった。だが、オルトのHPは確実に減っている。
「ヴァヴァアアー!」
「なっ、ポルターガイストを吐いて攻撃したのか?」
それはなんと通常のポルターガイストだった。そのまま戦闘に参加し、こちらに攻撃を仕掛けてくる。ボス1体だけなのかと思ったら、ジワジワ増えるパターンか。
「まずはポルターガイストの撃破を優先! 雑魚が増えたら厄介だ!」
「――!」
「モグ!」
ポルターガイストにダメージを与えられるのは、俺、サクラ、ドリモ、ファウだけだ。ただ、ファウの火魔召喚は連続で使うと消費が大きいし、バフも途切れる。実質、3人で攻撃するしかないだろう。
「ファウは防御力上昇を優先で!」
「ララ~♪」
「オルトはボスからの念動を最優先で防いでくれ!」
「ムー!」
ポルターガイストの増殖を抑えつつ、ボスを削っていく! 俺たちならやれるはずだ!
15分後。
「オルト! もう少し耐えてくれ!」
「ムム!」
「ドリモは目の前の奴に対処! サクラも! ボスは取りあえず放っておけ!」
「モグ!」
「――!」
「ファウは火魔召喚を積極的に! リックはボスのヘイトをどうにか取れないか? ルフレ、オルトの回復!」
「ヤー!」
「キュ!」
「フムム!」
「くっそ! 全然減らねぇ!」
俺たちはポルターガイストの群れに囲まれていた。最初は雑魚を減らすことが出来ていたのだ。
だが、HPが減って攻撃パターンの変わったボスの突進攻撃に隊列を分断されてからは、後手に回ってしまっていた。駆除が間に合わなくなっていってしまったのだ。
さらに、ボスの吐き出すポルターガイストの数が増えるという最悪のパターン変化も追加だ。一気に2体のポルターガイストを吐き出し始めたのである。
「「「「ヴァヴァヴァヴァアアア」」」」
7体ものポルターガイストに囲まれ、四方八方から攻撃を食らう。すると、後ろに回り込んでいたポルターガイストによって、ルフレが吹き飛ばされるのが見えた。
「ヴァヴァヴァアアー!」
「フムー……!」
「あ、ルフレ!」
やばい、回復役のルフレが死に戻った!
ただでさえギリギリのバランスで持ちこたえていたのに、そこからはもうサンドバック状態だった。回復が追い付かず、HPがガリガリと削られて行く。
「ヴァッヴァー!」
「くっそぉぉ!」
最後はポルターガイスツの突進攻撃にHPを削られ、ついには俺も力尽きたのだった。
視界一杯を白い霧が覆い尽くし、そのまま暗転する。次の瞬間、俺の姿は北の町の広場にあった。
「……久しぶりの死に戻りだぜ……」
「ムム……」
「みんなもいるか。俺がやられたせいで全滅だ。済まないな」
「――!」
俺が謝ると、うちの子たちが一斉に首を振った。そして、俺のせいじゃないとアピールしてくれている。ドリモだけは、こちらに背を向けてニヒルな感じで佇んでいるだけだけどな。ドリモは背中で語る漢なのだ。
「フム……」
「ルフレも落ち込むなって。お前のせいじゃないから」
「フム?」
「俺の作戦ミスだ。次はもっとうまくやる。次も力を貸してくれよ?」
「フム~!」
よかった、立ち直ってくれたらしい。ルフレが凹んでいる姿は、小さい子が落ち込んでいるみたいで切なくなるからね。
「さて……ペナルティはどうかね」
デスペナルティの内容を確認する。所持金が5000G、所持品からは地下洞窟で手に入れた素材系が2つ失われていた。まあ、この程度ならそこまで痛くはないだろう。
問題はステータス半減だ。半日は元に戻らないからな。その間は大人しくしておくしかないだろう。
「仕方ない、今日は生産活動に勤しみますか」
そう思って畑へ向かっている最中だった。アリッサさんからフレンドコールが入る。向こうからなんて珍しいな。
「はい、どうしました?」
『やほーユートくん! 実はちょっと見せたいものがあってさー。今時間どう?』
「ちょうど暇になったところです」
『じゃあさ、今からこっち来ない? 始まりの町にいるんだけど』
「いいですよ。それで、見せたいものって?」
『うーん、それは来てからのお楽しみってことで』
どうやら俺を驚かせたいらしい。まあいいか。どうせアリッサさんには情報を売るつもりだったのだ。
「わかりました、今から行きます」
『マップデータ送っておくから、それ見てね。じゃあ、また後でね!』
あのアリッサさんが、わざわざ見せたいものね。ちょっと楽しみだ。きっと凄いものなんだろうな。




