250話 登り坂
北の町の地下ダンジョンへ戻った俺たちは、それなりに順調にダンジョンを進んでいた。やはり少人数の方がスムーズだな。
そもそもチームを組むと敵が少し強くなるのに、アメリアのパーティはノームばかりで殲滅力が低かったし……。
俺は絶対にバランスよくパーティを組もう。
「ゲゲゲゲェェ!」
「ケダマン3体か! オルト、ドリモが受け止めろ!」
「ムム!」
「モグ!」
「ヴァアアア!」
「後ろからポルターガイスト? やば! サクラは後ろを頼む!」
「――!」
「ランラ~♪」
「キキュー!」
やはり進めば進むほど、敵の数も増えてきた。ファウやリックは戦況を見ながら遊撃に回り、他の皆が何とか敵を倒していく。ポルターガイストが特にウザいな。レッサーゴーストのように魔術じゃないと倒せないうえに、念動のような物で、非常に視認がしにくい遠距離攻撃もしてくるのだ。HPが低く、魔術が当たれば絶対に倒せるのが救いだった。
そうやってモンスターを退けながら、地の底へ向かって下っていく。ただ、1時間ほど進んだ時点で、少々厄介な場所に行きあたっていた。
東西南北の地下ダンジョンには、必ず難所がある造りなんだろうか?
「坂か……。しかもメッチャ急坂だ」
「キュー」
「フムー」
ルフレとその頭の上に乗っかったリックが、手をおでこにかざすポーズで坂の先を見通そうとしている。白光球の光の届く範囲よりもさらに延びているせいで、俺にも先が見えなかった。
「オルト、ドリモ。頂上は見えるか?」
「ム!」
「モグ!」
どうやら夜目のあるオルト達にはきっちり終着点が見えているらしい。ということは、何百メートルもあるような激坂ではないのだろう。
「これはクライミングとまではいかなくても、相当苦労しそうだな。落下しないように気をつけないと」
途中で足を踏み外したら確実にスタート地点からやり直しだ。それどころか、落下した高さによっては即死もあり得る。
「オルト、土魔術で足場を作れるか?」
「ム! ムームムーム!」
俺が尋ねると、オルトがオーバーリアクションで土魔術を発動させた。レンガを2つ並べたくらいの足場が、互い違いに次々と生み出されて行く。
「おー、さすがだ。これで大分登りやすくなったな!」
「ム!」
オルトお手製の足場を頼りに俺たちは坂道登りを開始した。慎重に手をかけ、ゆっくりと足を動かし、少しずつ登っていく。
「よし、これなら行けそうだ」
最初はそう思ってたんだが、順調なのは途中までであった。
「おいしょ――げぇぇ!」
突如、手をかけていたでっぱりが崩れ落ちたのだ。慌てて他の場所に手をかけようとするんだが、間に合わない。
体が坂を滑り落ち、嫌な浮遊感が体を包んだ。
「ぎゃー!」
「――!」
「モグ!」
「ヤー!」
先行していたファウが慌てて戻って来て俺のローブを引っ張っているが、その程度で落下速度は変わらない。
下でサクラとドリモが受け止めてはくれたんだが、かなりダメージを受けてしまった。痛覚のないゲームで良かった。リアルだったら骨折くらいはしていただろう。
しかし、坂にガンガンと体を打ちつける感触はあるので、坂を滑り落ちた実感だけはハッキリと残っていた。めっちゃ怖い。
「怖! すげースリルがあったぞ……」
「――?」
「ああ、ありがとうなサクラ。大丈夫だ」
「――……」
サクラに心配かけたらしい。まあ、目の前で落下したし、仕方ないが。
「さらに慎重に登らないとな」
「――」
「ん? なんだ?」
サクラが俺のローブを引っ張っている。振り返ると、その手に握っていた植物の蔓を差し出してきた。
「もしかして命綱か?」
「――!」
というか、何故気付かなかった俺。ファウとリックがいるんだし、上に結んで来てもらえば安全に登れただろう……。
「うん。使わせてもらうよ」
「――♪」
その後は順調だ。落下する危険もないから当たり前だけど。
いや、途中で岩場が脆くなったうえ、苔が生えてヌルヌルのエリアが出現したりしたので何度か滑り落ちちゃったんだけどね。
だが坂に打ち付けられてダメージを負うことはあっても、最後の落下ダメージが無いので死に戻りはせずに済んだのだ。本当にサクラのおかげである。
もし命綱がなかったら確実にアウトだっただろうな。
「よーし! 登り切った!」
「フムー!」
「ムムー!」
「――!」
うちの子たちも祝福してくれている。
「モグ」
オルトとルフレとサクラが万歳三唱し、ドリモが「よくやったな」的な感じで腰を叩き、ファウとリックはマイムマイムを踊っていた。
なんか、ここまで喜ばれると逆に恥ずかしいんだけど。すっごい偉業を成し遂げた気がしてくる。単に急な坂を登り切っただけなのに。
どっと疲れた。主に気疲れだけどさ。痛くはなくても、やっぱり高所から落下するのは恐怖を伴うのだ。
「少し休憩するか……」
「キキュ!」
リックが賛成とでも言うように、俺の肩で手を挙げている。いや、待て。お前は全然疲れていないだろ! リックにとったらこんな坂、難所に入らないだろうし。どうせオヤツが食べたいだけだろう。
「まあいいや。とりあえず座るか」
いつモンスターが現れるか分からないが、腰を下ろして飲み物を飲むくらいの余裕はあるだろう。とりあえず皆の分のジュースを渡して、自分も炭酸ジュースを取り出す。
「ぷはぁー! 炭酸ジュースを開発しておいて本当に良かった!」
こんな時こそ、炭酸だよね。
「ドリモとファウは水でいいのか?」
「ヤー」
「モグ」
ジュースを飲めないモンス達も、水は飲むことができるらしい。それで体力が回復したりすることはないだろうが、仲間外れはかわいそうだからね。
「うーむ。ファウ用のコップを用意するべきだな」
「ヤ?」
ファウは自分の体とそう変わらないサイズのコップに顔を突っ込んで、ゴクゴクと水を飲んでいる。
人間だったら、デカい水瓶から直接水を飲むみたいなものだ。かなり大変だろう。実際、ファウも苦労している。ファウ用に小さいコップを用意してやるべきだろう。
「銅のタンブラーで小さいサイズは難しいか? 木工なら何とかなるよな?」
「――♪」
サクラがにっこりと微笑む。木工なら小型サイズも作れるらしい。とりあえずは木製コップでいいか。
ただ、色々と準備が進めば、ヒムカがガラスのコップを作れるようになるはずだ。その時には全員のサイズにぴったり合った、専用グラスを作ってやりたいな。




