248話 暗闇ダンジョン
北の町の外れで発見した地下道に、意気揚々と突入した俺とアメリアの合同パーティ。だが、すぐにその歩みを止めてしまっていた。
「真っ暗なんだけど!」
「うーん、光源ゼロのダンジョンは初だなー」
そう、この地下道にはランプ類はおろか、ヒカリゴケなどもなかったのだ。目を細めようが、数秒間目を瞑って開けてみようが、目の前に広がる漆黒の闇に変化はない。
「アメリアは松明とか持ってるか?」
「いやー、持ってないんだよねー」
「そうか。じゃあ、ファウ、頼む」
「ヤー!」
仕方ないので、ファウの火魔召喚で生み出した火の玉を松明代わりにする。ただ、これには多少の問題があった。
召喚限界時間があるので、数分おきに使用せねばならないのだ。ただでさえ、進化したことで上級になった歌唱スキルの消費が大きいのに、こまめに火魔召喚を使うとなるとファウのMP管理が相当難しくなるだろう。
マナポーションを使いつつ、支援を少し減らす必要があるかもな。
「おおー、さすが妖精ちゃん! 可愛い!」
「……可愛いは関係ないだろ。というか、ファウも守備範囲なのか……」
「もっちろん! ていうか、いつの間に羽生えたの?」
「え? 今さら?」
「いやー、妖精ちゃんが可愛すぎて、全然違和感なかったよ」
「先日進化してな」
「へ~! いいなぁ。私も妖精ちゃんが欲しいな~!」
俺の言葉にアメリアが羨ましそうに声を上げる。だが、アメリアならそう遠くない内にピクシーを手に入れられるんじゃないか?
「アメリアはサラマンダーをテイムしてたよな? ピクシーは精霊と精霊の間に生まれると思うから、すぐに手に入ると思うぞ」
「それなんだけど、絶対かどうかは分からないじゃない? 白銀さんのファウちゃんは、ノームと樹精の子でしょ?」
「そうだな」
「だったら、サラマンダーとノームの間にピクシーが生まれるかどうかはまだ確定してるわけじゃないじゃん?」
それはそうか。精霊と精霊と単純に考えていたけど、もしかしたら片方が樹精の必要があるとか、ノームと樹精の間にしか生まれないとか、条件があるかもしれない。
「だからどうにかして樹精をゲットしたいんだけどね」
「やっぱレアなのか?」
「もう、激レアだよ! 私が知ってる限りだと3人しかテイムできてないね」
そんなことを話しながら洞窟タイプの地下道を進んでいるんだが、その進行速度は非常に遅かった。
「きゃ!」
「おっとぉ!」
「いたたた」
「おわ! オ、オルトすまん」
ファウが火魔召喚で照らしてくれているとはいえ、足元が不安定な洞窟だ。俺もアメリアも何度もスッ転んでいた。
しかも、ノームばかりのパーティなので盾役が充実しており非常に安定しているのだが、殲滅力が非常に低い。ダメージは食らわないものの、戦闘時間がかなり長かった。
いや、普通に考えればドリモ、クママに加え、アメリアの従魔であるノッカー、ノームファイターがいるので、攻撃力不足なことはないはずなんだが……。
「オルトとスイッチだクママ!」
「ム……!」
「クマ……!」
洞窟が狭いせいで、互いが邪魔になって前後の入れ替えが難しかった。盾役のオルトたちが敵の攻撃を受け止めて、その後クママやドリモが攻撃と言う流れが一番安定しているはずなんだけど、それが上手くいかないことが多々あった。
もっとぶっちゃけて言ってしまえば、チームを組んでいることが仇となっている。ここは1パーティ用のダンジョンなのかもな。
まあ、ダメージを食らわずに済んでいるから、悪くはないんだけどさ。
あと、戦闘が長引く要因はもう一つあった。
「また出た! キモイよぉ!」
「アメリア、魔術撃て!」
「ううー」
このダンジョンに出現する敵は2種類。霧で出来た骸骨のような姿をしているポルターガイストと、動物型のケダマンというモンスターだった。
ケダマンはその名の通り、丸い毛玉のような体に、不細工な犬っぽい顔が付いている姿をしている。この顔がまた不細工なうえに不気味なのだ。口の端から涎を垂らす、白目を剥いたパグっぽい顔面である。
そして、アメリアがどちらも非常に苦手らしかった。出現するたびに悲鳴を上げている。
前衛の攻撃頻度が下がってしまう以上、俺たち後衛が魔術で攻撃しないといけない。だが、アメリアがどうしてもモンスターを直視できず、魔術の発動が遅れてしまう。そのせいでモンスターを倒す速度がさらに低下していた。
ケダマンはテイム可能なのだが、アレはいらないな。一応モフモフ枠だが、可愛がれる自信はない。狂った精霊の件もあるから、テイムして見たら可愛くなる可能性もあるけど、どちらにせよテイム枠の問題がある。
俺はまだ2枠残っているが、リックとファウの卵から孵ったモンスと、風霊門でテイムするシルフ(仮)で埋まる予定なのだ。
「まあ、余裕が出来たらテイムしてみよう」
「えー? 白銀さん、あれをテイムするつもりなの? 趣味悪いよ!」
驚くアメリアに、テイムしたら姿が変わる可能性を語る。
「枠が残ってたら、試してみたらどうだ?」
「えー?」
「可愛くならなかったらギルドで売ればいいんだし」
アメリアは少しの間考え込んでいたが、やはり自分でテイムしてみる気にはならないようだった。まあ、いいけどさ。
「うーん……やっぱイヤ!」
アメリアがそう叫んだ直後だった。
ピーピーピー!
どこからともなくアラームのような音が鳴り響く。なんだ? ダンジョンのギミックか?
「この音は……?」
「え? ああ! やば!」
アメリアには心当たりがあったらしい、自らのステータスウィンドウを開き、慌てた様子で叫んでいる。
「ど、どうしたんだ?」
「この音! 強制ログアウトを知らせるアラームなの! 聞いたことない?」
「この音がそうなのか……。俺は結構こまめにログアウトしてるから、初めて聞いたよ」
「あと30分で強制ログアウトになっちゃう!」
「そ、それはまずいじゃないか」
町中で強制ログアウトさせられた場合は問題ない。普通に姿が消えて、またその場所や、ログアウトした町の転移陣にログインできる。
だが、フィールドやダンジョンでログアウトすると、アバターがその場に残ってしまう。その状態でモンスターに襲われれば確実に死に戻りするのだ。
しかも、ハラスメントブロックなどのシステムがある関係で、ログアウト中のアバターに他のプレイヤーは触れられない。つまり、町などに避難させてやることもできなかった。
また、モンスターがアバターを一方的に攻撃している状態も戦闘とみなされるので、他のプレイヤーが横槍を入れて助けることもできない。辻ヒールなどをするには、助けられる側の承認が必要となり、ログアウト中の棒立ちアバターではその行為自体が出来ないからな。
当然、この場でアメリアがログアウトすれば、アバターだけが残されることになるだろう。
「仕方ない。一度入り口に引き返そう」
「悪いからいいよ。白銀さんは先に進んで」
「いや、どちらにせよ準備不足だと分かった。松明とかを買ってきたい」
「そっかー」
ということで、俺たちは一度ダンジョンの入り口に引き返すことにしたのだった。




