246話 空き地でピクニック
ローブを新調した俺は、うちの子たちを連れて東の町へとやってきた。ここは掲示板に書かれていた、コガッパのいる地下通路があるのだ。
この浜風と言うプレイヤーはそうとう運がいいらしい。なんと、ボスに負けそうになる直前、偶然安全地帯を発見して、そこからチクチク攻撃を続けて何とか勝利したそうだ。ボス戦の行動パターンなども詳細に書かれていたので、多分俺たちでも勝てるだろう。
掲示板では、安全地帯が仕様かバグか議論されていた。安全地帯なら構わないが、バグだった場合はすぐに修正されてしまうだろう。興味があるなら修正前に行動したほうがいいと結論付けられていた。それを見て、最初にコガッパのところに来たんだが……。
どうも俺の計画通りには行きそうもなかった。何せ、地下道の入り口が発見された風車小屋の前には、長蛇の列が出来ていたのだ。どうやら、並んでいる全員が挑戦者であるようだった。
「……これは無理だな」
「ム……」
そりゃあ、掲示板にあれだけ詳しく書かれてたら、皆来るよな。これは、入るのはちょっと難しそうだ。
しかもファウが目立っているのか、周囲の視線が集まり出した。これでは西の町の二の舞になりかねん!
「と、とりあえず移動するぞ」
「ヤー」
しかし、どうしよう。このまま列に並んでいても時間の無駄だし……。
「先に北と南の町を散策してみるか」
「ムム!」
「問題はどっちに行くかなんだが……。オルトは北と南、どっちがいい?」
「ム?」
「さすがに分からんよな……。じゃあ、オルト俺とジャンケンしよう! オルトが勝ったら、北。俺が勝ったら南だ」
「ム」
「よし。ジャーンケーン……ポン!」
「ムム!」
俺がチョキ、オルトがグーだ。
「じゃあ北の町に行くか」
「ム!」
その後、北の町へと移動した俺たちは、順調に散策を続けていた。いや、何も見つからないことを順調と言っていいのか分からんが。特にトラブルは起きていないってことだ。
「ラランラ~♪」
「ムームー」
「フームー」
「クーマー」
新発見もなく、町中をのんびりと皆で散歩する。今日の面子はオルト、リック、クママ、ファウ、ルフレ、ドリモだ。
地下道の入り口を探すわけで、探索系に強い面子で集めてある。ダンジョンに入る時は、そのダンジョンの特性に合わせて入れ替えればいいからな。
「いいかー、壁の隙間だけじゃない。怪しそうな場所は報告するんだぞ?」
「モグ」
「キキュ!」
「ヤー!」
ドリモのヘルメットはそんなに座り心地がいいのだろうか? ファウとリックが一緒にその上に載っている。リックがまるでファウの為のソファ状態だ。
「西の町は壁の間にあったマンホール。東の町は、風車小屋に隠されていた地下への階段」
地下に下りるための何かという点は共通していそうだが、それ以外にヒントはなさそうなんだよな。となると、皆に言った通り怪しい場所は片っ端から調べるしかない。
「地図もまあまあ埋まってきたか」
実は、北の町を歩き回る前に、始まりの町でも請け負っていた地図作成の依頼を受注してきたのだ。この地図を埋めつつ、時おり妖怪察知、妖怪探査を使って妖怪捜索も進めれば、何も見つからなくても損にはならんからね。
「ラーラランラー♪」
「キーキュー」
「フ~ムム~」
いや、皆が楽しそうだから、それだけでも十分だったか。でも、多少なりとも得る物がある方が嬉しいのだ。
そのまま半日。
「あー、もう地図が埋まっちゃった」
結局何も見つからなかった。妖怪の反応もないし……。まあ、毎回何かが見つかるわけじゃないよね。
ただ、収穫はゼロではない。地図の依頼だけではなく、途中で寝っ転がったら気持ちよさそうな原っぱを発見したのだ。町の端にあるのだが、学校の校庭くらいの広さはあるだろう。
公園と呼べるほど整備されているわけじゃないが、短い芝生のような草の生えた空き地に、まばらに木が生えていた。雑草ではあるが、チューリップやコスモスの花も咲いているし、ピクニックをするにはちょうど良いロケーションだ。
そこでお昼を兼ねてピクニックをしつつ、遊ぶうちの子たちのスクショでも撮ろうかなーと考えていた。
「よーし、ここで休憩だ! 準備をするぞー!」
まずはゴザを取り出して、オルト達に手渡す。
「ゴザを敷いてくれー」
「ムー!」
「フムー!」
「クママのロイヤルゼリーと、リックの胡桃と、オルトのジュースと、ルフレのアクアパッツァと、ファウとドリモの野菜だ!」
「モグ」
「ヤー!」
「クマ!」
「キュー!」
「あ、まだ食べるなよ? 皆で乾杯するんだからな」
そして、俺たちのピクニックが始まった。いや、従魔たちはすぐに食事を終えてしまったので、即遊びに行っちゃったけどね。
「ラランラ~♪」
「モグ」
ゴザに残っているのは、大人なドリモと、その頭の上でリュートを爪弾くファウだけだ。やはり日光上等ヘルメットは座り心地がいいらしい。
でも、うちの子たちが追いかけっこする姿を見ながら美味い飯を食べ、ファウのリュートの音を聴き、そよ風に吹かれ、時おりドリモをモフる。いやー、中々いいね。このところのんびりしてなかったし、最高ですわ。
「うーん。こういう時間も必要だな~」
「モグ」
「ララ~♪」
だが、のんびりタイムはそう長く続かなかった。
「あれー? 白銀さんだー!」
「アメリア? どうしたんだこんな場所で」
「それはこっちの台詞です」
そこにいたのはテイマー仲間のアメリアだった。ノームを4体侍らせ、肩にはウサギを載せている。
「あー、俺はピクニックしてるんだよ。ちょうどいい空き地だし」
「なるほどー。それは楽しそう!」
「で、アメリアは何をしにきたんだ?」
「私は撮影会! そこの花畑をバックに、うちのノームたちのスクショを撮りまくるの!」
「なるほど」
テイマーなんて、考えることは同じなのかもしれないな。しかし、アメリアのノームは凄い。なんと、ノームファーマー、ノッカー、ノームファイター、ノームリーダーと全進化先が揃っているのだ。
俺の視線に気づいたのだろう、アメリアが自慢げに皆を紹介してくれた。それぞれが「ムッ!」と言って頭を下げてくれる。
「ノームファーマーは、ほぼノームだな。何か違うか?」
「クワが少し豪華になって、襟にピンバッジが付いたね!」
言われなきゃわからん。ノッカーは大分変わった。少し背が伸びて、大人っぽさが増しただろう。髪の色も黒くなり、背負っているのがクワではなく、ドリモの物と似たツルハシだった。
ファイターは鎧を着込んだノームだ。何て言うんだろう? ブリキの鎧的な、不格好な奴だ。これで戦えるのか心配になるぜ。
うちの子たちも、アメリアのノームたちに駆け寄って来て、早速遊びに引っ張っていった。うーむ、完全に幼稚園だな。
「すまんアメリア。スクショ撮りにきたのに。今遊びを止めさせるから」
「と、とんでもない! むしろご褒美! スクショはいつでも撮れるけど、こんな光景は今しか撮れないんだからね! 撮っていいわよね?」
「あ、ああ」
「ふひひ……最高!」
まあ、アメリアが喜んでるんだったらいいか。だらしのない顔だ。美形アバターのはずなのに。
「……」
「……」
「……大変だな」
「……ピョン」
アメリアの頭の上に移動したウサギと目が合った。通じ合った気がしたのは、気のせいだろうか?




