242話 アメンボ赤いな
入り口を塞いだ鉄格子を開けられないかと思って揺すってみるが、ビクともしない。力技では無理だろう。
「なんで普通の下水道に罠があるんだよ! ここまでは一切なかっただろ! ゲームだからってご都合主義すぎるぞ!」
これまで散々そのご都合主義に助けられてきたわけだが、自分に不利になると途端に恨めしく思えるのだ。
「くそ!」
脱出を諦めた俺たちが鉄格子の前で陣形を作って待ち構えていると、ガコンと音を立てて天井が開くのが見えた。そして、そこから大量の水が部屋に降り注ぎ始める。
「げ! 水攻めか!」
だが、溺れさせるつもりではないだろう。入り口は塞がれているとはいえ鉄格子だし、すり鉢状になっている部屋の中央部分に水は溜まるだろうが、それ以上は格子から流れ出ていってしまうはずだ。
そして俺の予想通り、水は鉄格子の高さスレスレ程度で止まっていた。大部屋全域が水浸しになり、体育館くらいの面積の池が出現している。
だが、それで終わりではない。天井に開いた穴からは、今度は水ではないものが降ってきたのだ。
「アメメンボの大軍かよ!」
10匹以上はいる。しかもその中に一際大きく、赤い個体がいた。名前はアメメメンボ。名前が手抜きじゃね? だが、気は抜けない。明らかにボスだ。
「これって、マズいかもしんない……」
現状、俺たちがいる鉄格子前で、水の深さは足首程度だ。だが、部屋の中央付近に行けば俺でやっと首が出る程度だろう。うちの子たちでは水没してしまうはずだ。
となると足場にできる場所は、この円形のすり鉢状になっている部屋の、壁際付近だけとなる。しかも水で動きが阻害されるし……。
「いや、落ち着け俺。焦りは禁物だ……」
一気に殲滅するんじゃなくて、じっくり1匹ずつ減らしていくんだ。陣形を崩したら俺が被弾する可能性が高まるし。下手に移動したり、前に出て集中攻撃を食らったら俺なんか瞬殺だろう。そうなったら全滅だ。
「オルト、サクラ。頼む!」
「ム!」
「――!」
オルトとサクラに俺の前を固めてもらう。アメメンボからの遠距離攻撃が怖いからな。
「ファウは歌と火魔で援護! リックは俺の肩で木実弾だ! オールウェポンフリー! 自分の判断で最も効果的だと思う弾をガンガン撃っていいぞ!」
「ヤー!」
「キュッキュー!」
ファウが敵の目を引き付けてくれれば、より安全に戦えるだろう。リックはちょっとマズいかもしれん。足場がない場所ではその良さが生かせないのだ。仕方ないので、俺や皆の体を足場にしつつ、木実弾で遠距離攻撃を放ってもらうとしよう。
「ドリモは近い奴から攻撃! ルフレは回復に専念だ!」
「モグモ!」
「フムー!」
ということで始まったボス戦だったが、いくつか予想外のことが起こっていた。
「げ、範囲攻撃だと!」
ボスのアメメメンボは、その巨体を生かして体当たりでもしてくるのかと思いきや、なんと砲台タイプの戦闘方法だった。遠目から広範囲に降り注ぐ溶解液を発射している。赤いから絶対に速さを生かした機動力重視タイプだと思ってた! 三倍速で動くんじゃないのかよ!
これはじっくりとか言ってられないかもしれない。ダメージはそこまでではないが、ローブの耐久値が心配だった。
次に起きた予想外は、意外と水の抵抗が少ないということだった。水中行軍の恩恵であるようだ。ドリモやオルトも、浅い場所でなら地面とそれほど変わりない動きで戦えている。特にドリモの動きが機敏なおかげで、ダメージがいつも通り叩きだせているのがあり難かった。
3つ目の予想外は、ファウの火魔召喚のダメージの大きさだ。うちは火属性の攻撃を使えるメンバーが少ないので全然気付かなかったが、アメメンボたちは火属性が弱点であるらしい。
「……そうだ!」
そこで思い出した。リキューからもらった爆弾が余っていたことに。小型火炎爆弾・リキュースペシャル。改も残っているがちょっと怖いので、通常のリキュースペシャルにしておくことにした。
取り出した金属製の爆弾を構え、思い切り放り投げる。
「どりゃああぁぁぁ!」
ボスであるアメメメンボを狙いつつ、アメメンボたちもできるだけ多く巻き込める場所を狙ったつもりだ。直後、思っていたよりも小さい爆発が起こり、かなりの数のアメメンボたちを倒すことに成功した。水場で使用したことで、威力と範囲が減少したらしい。
これは逆に使えるかも。今後、リキュースペシャル改を使う時は、水霊の試練などで使用すれば自爆のリスクを減らせるだろう。
最後の予想外は、爆弾によって高波が発生したことだった。
「ギュー!」
「ヤヤー!」
俺の身長を超えるほどの大波によって、体が押し流されそうになる。それでも俺は何とか耐えられる程度だったのだが、ヤバいのがちびっ子コンビだ。
一瞬で波に押し流され、俺の前から消えて行った。フレンドリーファイアはなくても、こういった間接的な影響はあるのか!
「リック! ファウ!」
慌てて追いかけようとしたんだが、それを止めたのはサクラだった。
「――!」
「っと、すまん」
そうだよな。敵の数が減ったとはいえ、まだボスが残っているのだ。前に出たら危険が大きいだろう。
「――」
サクラが指をさすと、ボスのすぐそばでリックとファウが起き上がるのが見えた。あれなら大丈夫そうだ。
「よし、ちょっとした失敗もあったが、敵は減った! 残りを殲滅だ!」
残りはアメメンボ2体に、HPが半減したアメメメンボである。
アメメンボはドリモとサクラに瞬殺された。回避力は高いが、装甲は紙なのだ。水面が未だに揺れて動けないこいつらは格好の的でしかなかった。
後はボスだけ。だが、配下が倒されたことでその外見に変化が起きていた。
「ブブブウウウウゥゥ!」
「羽? もしかして飛ぶのか?」
背中から透明な昆虫の羽が生えたのだ。まあアメンボは昆虫だし、そういうこともあるだろう。だが、こんな天井が低い場所で飛行するのだろうか?
そう思っていたら違っていた。なんと、羽の推進力を使って高速で水面を滑り始めたのだ。
「ここからが第2ラウンドって事ね!」
明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願い致します




