236話 マーブル模様は美味しそう
飲料造りを終えた俺は次は塗料の実験に移っていた。まずは作るところからだ。
これは素材と水、ニカワを混ぜ合わせる必要がある。ニカワはどこでも売っているし、骨や毛皮系のアイテムを煮詰めれば作れるらしい。木工などでも使うそうなので、需要は多いそうだ。
「毛皮と水を煮詰めて……」
「フム」
「ヤー」
「ヒム」
生産系の3体が興味深げに俺の手元を覗き込んでいる。やはり自分たちに関係することは興味があるようだ。
「臭いとかはほとんどないな」
リアルだとニカワを作る際に、凄まじい臭いが発生するらしいが、ゲームの中ではそんなことはないらしい。まあ、需要の多い消耗品作るのにいちいち臭かったら最悪だからね。
リスの毛皮1つでニカワ2つか。もう少し量が欲しいな。
「よし、君たちに指令を与えよう」
「ヤー!」
「フムー!」
「ヒムム!」
「この毛皮でニカワを作れ!」
俺が指令を出すと、ファウとルフレの横でヒムカが敬礼する。やっぱりね。教えてなくてもやってくれると思った。ちょっと期待していた自分がいるのだ。
インベントリに余っていたリスやネズミの毛皮を使って、ニカワを作ってもらう。多分50個くらいはできるだろうから、実験分にはそれで十分なはずだ。
俺はその間に、今作ったニカワで実験だ。
「まずは火耐性塗料からだな」
素材は火鉱石、水、火属性素材×1、ニカワか。火属性素材……微炎草が選べるか。これでいいや。火霊門の素材を実験で使うのはちょっともったいないしね。
「これを混ぜ合わせて……おお! 成功だな!」
俺の目の前には、小さい器に入った塗料が完成した。聞いていた通り、赤とオレンジのマーブル模様だな。31種類の味があると勘違いされがちなアイス屋さんのフレーバーにありそうな色合いをしている。ストロベリー&オレンジ的な? 美味しそうだ。
「成功したし、もう少し量産しよう」
さて、生産3人衆はどうだ?
「フムムー!」
「ヒームッ! ヒームッ!」
「ヤー!」
おお、連係プレイでニカワを作っているな。ルフレが水を出して素材を投入、ヒムカが火を出しつつ混ぜ合わせ、ファウが最後に錬金を施す。その工程を流れ作業でこなしていた。
俺は3人が作ったニカワを使い、さらに塗料を量産しよう。
「そうだ、他の塗料も作れるよな?」
作製可能リストの一部が解放されていたはずだ。早速確認してみる。
「えーっと、水耐性塗料と、土耐性塗料が作れるわけか。それ以外だと黒塗料、茶塗料? こっちは鉄と銅があれば作れるのか」
茶色も黒も、上手く使えばシックな家具や食器が作れるかもしれない。いや、金属系の塗料を食器に使うのはまずいのか? いやいや、ここはゲームの世界だし、別に金属を含んでいても問題ないと思うんだが……。とりあえず作って、塗ってみればいいか。
俺は順番に作成可能な塗料を作ってみた。
水耐性塗料は、青と水色のマーブルで、ソーダ&ブルーハワイかな? 土耐性塗料は黄色と茶色で、チョコ&バナナだ。やばい、そう考えてたら美味しそうにしか見えんぞ。
「ヤーヤーヤー!」
「ヒムムム~!」
「フムッ! フムッ!」
「錬金!」
ファウたちが作るニカワを使い、俺は次々と塗料を作っていく。1時間もすると、30ほどの塗料が出来上がっていた。
「じゃあ、次はこれを色々な物に塗ってみよう」
「――♪」
今度の助手はサクラである。メインは木工品だからね。
「とりあえず白木の皿に色を付けてみるか」
「――♪」
「あれ?」
おかしい。サクラは色を付けることができているのに、俺はできない。そもそも、色を塗る対象として皿を選べなかった。オートではなくマニュアルも試してみるが、刷毛を皿に近づけるとハラスメントブロックに似た見えない壁に遮られて、色を付けることはできなかった。
「うーん……なんでだ?」
サクラにはできるってことは、スキルの問題? となると何が関係あるだろうか。
「木工スキルの有無か?」
そう言えば、今は火霊の試練から戻って来た流れでサクラをパーティから外したままだったな。俺は取りあえずサクラをパーティに加えてみた。パーティの生産スキルは一部が共有されるが……。
「おお! できた!」
「――♪」
「うんうん、皿がカラフルになったな!」
ただ、色を塗ったのに効果は無しのままである。どうやら塗料の効果は発揮されないみたいだ。食器だからだろうか。むしろ品質が8から3まで下がってしまった。塗料を塗ると品質が低下するらしい。
「まあ、食器だからな。品質が下がっても、効果が付かなくてもあまり意味ないし、問題ないだろ。とはいえ、効果が発揮されるアイテムでも試してみたいところだが……」
「――♪」
「お、杖か」
「――」
サクラがサッと差し出したのは、木工で作った杖だった。
「え? 結構強いな。さすがに俺が使ってるブルーウッドの杖程じゃないけど」
「――♪」
「サクラが作ったんだろ? 凄いじゃないか」
「――!」
褒めてあげると、サクラが頬を染めてはにかむ。だが、これは褒めてやらんと。多分、オレアが素材生産で生み出してくれるオリーブトレントの枝と、樹精の霊木を使ったんだろうが、以前使っていた水樹の杖並みの能力なのだ。
名称:オリーブトレントの霊杖
レア度:3 品質:★5 耐久:200
効果:攻撃力+5、魔法攻撃力+20、樹魔術威力上昇(極小)
重量:2
「これって、普通に売れるんじゃないか? でもせっかくサクラが渡してくれたんだし、実験に使ってみるか。上手くすればより価値が上昇するかもしれん」
この杖に合わせるなら、水耐性塗料が相性がいいかな?
「えーっと……塗れるな」
この杖であれば塗料が1つで足りるらしい。塗り終わると軽く光って、完成だ。ただ、メチャクチャ期待外れだけどね!
「うわー、塗料の質が悪いせいか、そもそも相性の問題なのか」
「――……」
名称:オリーブトレントの霊杖+
レア度:3 品質:★1 耐久:100
効果:攻撃力+1、魔法攻撃力+16、水耐性(極小)
重量:2
確かに水耐性は付いた。だが、能力が激下がりだ。しかも樹魔術威力上昇(極小)が消えたし。最悪の結果だろう。あと、青と水色のマーブル模様に塗られた杖とか、超ちゃっちい。幼児のオモチャにしか見えないのだ。
「……俺たちは大人しく食器なんかを塗っておこう。な?」
「――……」
サクラもコクコクと頷いている。その後、俺たちは家具にも色を付けてみた。こっちも品質が下がるが、形が悪くなるわけじゃないし、問題ないな。
カラフルなカラーボックスや椅子、テーブルができた。北欧発の家具屋さん風だ。ただ、色は一色しか使えないらしい。
黒と茶色の格子模様を作ろうと思ったら、黒を塗った後に茶色を塗れなかったのだ。どうやら描画スキルのレベルが上がらないと多色には塗れないらしい。ある意味、マーブル塗料はその制限をすり抜けることができる裏技かもね。
「しかもこれ、無人販売所で売れるな」
水は井戸やルフレ、鉱石もホームマイン産のものなので販売可能なのだろう。木材を自前で揃えたいところなんだけど、雑木の苗木が無いんだよね。どこかで売ってないか探しているんだが、桜の苗木以降は見つかっていない。
桜は社とかがあるから伐採するのが怖いし。一応、畑に植えた樹木を伐採して木材を得ることはできる。
しかし樹木は伐採を行うと成長度が下がってしまい、元に戻るのに数日かかるのだ。その間は当然果実も生らない。町の外に行けば木材は採れるし、生産量を下げてまで木材を得ようとは思わなかった。
ただ、サクラの木工と塗料を組み合わせれば、色々と作れるだろう。これを無人販売所で売れば、そこそこ稼げそうなんだよね。
もう、緑桃などを木材用で育てちゃうか? でも、いざ実がなればそっちの収穫を優先してしまいそうな気がするし……。
「やっぱり雑木の苗木が欲しいよな」
第3エリアの町とか見て回ったら、売ってたりしないかね?




