231話 第3エリアにいつか行こう
ヒムカの能力を確認後、畑仕事を全て終了した俺はアリッサさんの店にやってきていた。同行者はヒムカ、リック、ドリモだな。
「いらっしゃい。火霊門の情報でしょ? 売ってくれる? それとも買う?」
「話が早くて助かります」
「ま、その子を見たらね」
「ヒム?」
「しかもその髪色、ユニーク個体でしょ?」
見ただけでそこまで理解するとは、さすがです。
「売れる情報は正直ないんですよね。隠し部屋の情報はどうです?」
「持ってるわね」
「ですよね~」
最初の部屋にあるわけだし、ほとんどのパーティがあの部屋を見つけているだろう。最初に隠し部屋の情報を売りにきたパーティは、部屋の探し方まで俺たちと一緒だった。考えることは皆一緒なんだな。
出現モンスターの情報も採取物の情報も、俺が持っている情報は全て知られていた。ワンダリングロックのビリヤードアタックなんかは、やはり他のパーティも苦労しているらしい。水の用意が足りず、死に戻りが出ているパーティも多いみたいだ。
「でも、テイムしたユニーク個体のサラマンダーを連れてきたのは、ユート君が初めてよ?」
「じゃあ、ヒムカの情報は売れますね」
「ぜひ売ってほしいわ」
「ヒム!」
ヒムカがアリッサさんに両手バンザイで挨拶をする。
「ヒムカちゃんていうのね。いえ、ヒムカくんかしら? 可愛いけど、男の子よね? ボーイッシュな女の子?」
「モンスに性別があるかは分かりませんが、一応男性タイプだと思います。他のサラマンダーもそうですから」
「また色々と人気が出そうな……。それで、どんな能力なのかしら?」
「ええっと、こんな感じです」
ヒムカのステータスを見せると、アリッサさんが驚きの声を上げた。
「陶磁器作製まで持ってるの? さすがユニーク個体ね!」
「じゃあ、普通のサラマンダーは陶磁器作製がないんですね」
「ええ。うちのカルロがすでに通常個体のサラマンダーをテイムしたけど、このスキルは持ってなかったわね。それに、ヒムカくんの方がステータスも微妙に高いわ」
陶磁器作製のスキルがレアなのか。でも、使えないんだよな。
「陶磁器作製スキルを使用する条件は何ですかね? 色々と素材を見せたんですけど、陶磁器を作れないみたいなんです」
「えーっとね、まずは粘土ね。それと水。あとは釉薬。で、最後に窯で焼くのよ」
結構色々と必要だな。
「窯か……。ヒムカ、火霊の仕事袋に窯は入ってるか?」
「ヒム~……」
窯は持っていないらしい。まあ、初期スキルに陶磁器作製はないようだし、仕方ないか。
「となると、窯は買うとして……」
「素材の入手場所も知りたい?」
「ぜひ」
「毎度あり。えーっと粘土は第3エリアで採取できるわよ?」
「第3エリアだったらどこでもいいんですか?」
「いえ、西と南だけよ」
第3エリアは少し特殊な構造をしている。このエリアにはいわゆるフィールドがないのだ。エリアの半分が東西南北の町が占め、町を抜けると第4エリアへと続くダンジョンが姿を現すのである。
つまり、粘土は西と南のダンジョンでの採取品ということなのだろう。ダンジョンに関してはあまり詳しく知らないが、それなりに長いダンジョンだとは聞いている。
「水はどこでも手に入るからいいとして、釉薬は塗料でも代用できるらしいわよ。というか、なしでも素焼きの陶器が作れるらしいから、これは色とか効果にこだわる場合に使う感じかしら?」
塗料でもいいなら、釉薬は問題ない。となると、粘土と窯が必要なわけか。まあ、窯はレンタル生産場の施設を借りてもいいかな?
レンタル生産場は、その名の通り生産設備を借りて生産活動を行える施設の事だ。1時間幾らという感じらしい。長い目で見れば買った方がいいんだろうが、ある程度のレベルの設備を使えるうえ、置き場所などを考えなくともいいので、結構利用者が多いらしい。
陶磁器作製を試すだけだったら、レンタルでいいだろう。そもそも、窯を設置する場所が無いのだ。ヒムカの持っている持ち運びが可能な小型炉のような、小型窯でもあれば便利なんだが……。いや、もしかしてあるのか?
「あの、持ち運びの出来る小さい窯とかってありますかね?」
「あるわよ。高いけど」
「高いんすか」
「ええ、普通に一番安いのでも5万Gから。しかも性能は最低っていう。同じ性能でも設置タイプの窯だったら2500Gで買えるわね」
「ああ、なるほど」
それはちょっと購入をためらうな。まあ、粘土を入手して、レンタル生産場で試してみてからどっちを買うか考えよう。5万のやつでも買えない訳じゃないし。
あと、ついでだからガラス細工に関しても聞いちゃおうかな?
「次はガラス細工に関して聞きたいんです。これも素材が足らないみたいなんですけど、必要な物って分かりますか?」
「もちろん。と言っても、これはとても簡単だけどね。珪砂か石英のどちらかと炉があれば作れるわね」
「それだけですか?」
「ええ。色や効果を付加するために、鉱石を混ぜたりも出来るみたいだけど、これは釉薬と同じでなくてもいいわ」
「珪砂と石英はどこで手に入ります?」
「これも第3エリアで調達できるわよ。東と北ね」
つまり、第3エリアに行けば、陶磁器もガラスも、素材は取りあえず手に入る可能性が高いってことか。ダンジョンに行かなくったって、町の露店なんかで買えるだろうしな。
俺はその後、ダンジョンの攻略に関して情報を軽く聞きつつ、露店を後にしたのだった。あ、因みに情報料はプラマイゼロだ。ヒムカの情報を意外と高く買ってくれたんだろう。
「じゃあ、戻るか」
「ヒム!」
「キュ!」
「モグ」
俺とヒムカがアリッサさんと話している間、他の2人は大人しく待っていたんだが、リックはドリモのヘルメットの上に張り付いている。ツルツルのヘルメットにしがみ付くのが楽しいらしい。尻尾が顔の前でファサファサと揺れて、ドリモは微妙に迷惑そうだ。
「ドリモ、すまんな」
「モグ」
「キュ?」
気にするなって言う感じで、軽く手を挙げるドリモ。大人な対応だぜ。そして、相変わらず尻尾でドリモの視界を遮りながら、小首を傾げるリック。君はもう少し大人になりなさい。
まあ、ドリモのヘルメットにへばりつくリックの姿はなかなか愛くるしいから俺的には全然構わないんだけどね。スクショをメッチャ撮っちゃった。
おまけで、第3エリアのダンジョンの情報も少しだけ教えてもらった。名前と傾向程度だが。
東の町の先にあるのが火獣の巣。砂地に火炎属性のモンスターが出現する、不人気エリアであるらしい。砂地では足をとられることが多く、それが人気のない理由であるそうだ。ただ、珪砂が採取できる可能性はここが一番高いらしいので、行くことはあるかもね。
北の町の先にあるのが、強風の路。常に風が吹いていて、移動が阻害されたり、飛び道具の軌道に影響がでたりするらしい。かなり面倒そうなんだが、珪砂を入手するためには、ここも訪れる必要があるかもしれない。
西の町の先は、廃棄坑道という名前のダンジョンだ。ここは攻略が最も進んでおり、マップや隠し要素もほぼ出尽くしていると言われている。その理由がノームだ。β時代はこのダンジョンにノームが出現していた。それ故、ノームを求めるテイマーのお姉さま方が、執拗なまでに隅々まで調べ尽くしたという。ここでは粘土が採取できるそうだ。
南の町の先が地下水路。その名の通り、水路のようなダンジョンで、場合によっては完全に水没した道を進まなくてはいけないそうだ。俺はそこまで苦にしないが、うちの子たちはどうだろうな。粘土が採取できるらしいが、ここを無理やり攻略するよりは、攻略情報が完璧に揃っている廃棄坑道に行く方が楽だろう。
「まあ、とりあえずは火霊の試練だ。頑張るぞ。ヒムカも、頼むな?」
「ヒムム!」




