230話 ヒムカの能力
押しが強めの男の娘ネクロマンサーのクリスと別れた俺は、そのまま始まりの町に戻ってきていた。
「ファウとルフレは、協力して頼むぞ」
「フム!」
「ヤー!」
ルフレと、その頭の上に腰かけているファウが敬礼を返してくる。この2人には薬草などを使って、ポーションを作っておいてもらうのだ。
その間に、俺はサラマンダーのヒムカを獣魔ギルドに迎えに行く。
「キュ」
「モグ」
いつものように、お供は肩乗りリックくんである。ただ、今日はドリモも一緒だ。まあ、仕事もないだろうしね。
「よーし、新たな仲間を迎えに行くぞー」
「キキュー!」
「モグモ」
リックは元気よく応じてくれるが、ドリモは軽く肩をすくめるとそのまま先にテトテト歩き出した。
ドリモに元気リアクションは期待してなかったけどさ。むしろ、こういうニヒルなリアクションがいいのだ。いやー、咥えタバコじゃないのが残念なほどだ。もしかして煙草を作っていると言っていたマッツンさんから手に入れたら、吸ってくれるかな?
30分後。
「ヒム!」
俺の目の前には元気よく両手バンザイをした赤い髪の少年が立っていた。男性型なのにちょっと可愛い系とか、ネクロマンサーのクリスを思い出してしまったぜ。
「キュ!」
「ヒムー!」
俺の足元でシュタッと手を挙げて挨拶をするリックに対して、ヒムカは腰だけを折って前屈みになると、その小さい手をちょんと摘まんで、上下に振った。
「ヒムヒム!」
「キュ? ギュギュー!」
少々力が強かったようで、思い切り上下に揺さぶられていた。両足が地面から離れていたし、リックが悲鳴を上げている。
「モグ」
「ヒムー!」
「モ、モグ」
ヒムカはリックに続き、ドリモと握手した手もブンブンと上下に振っている。あのドリモが目を白黒させているな。とりあえずヒムカの元気が有り余っているのと、やや空気が読めないタイプなのは分かった。
その後、畑に戻ったのだが、そこでも全く同じ光景が繰り返されることとなる。
ファウだけはリックと同じ目に合わせるのはヤバいと思って、俺の手の上に乗せてハイタッチをさせた。まあ結局はヒムカの力強いハイタッチに吹き飛ばされ、手の平の上から転げ落ちていたのでどっちが良かったのかわからんが。
全員がヒムカの握手の洗礼を受けた後、俺は納屋の中でヒムカに色々と質問をすることにした。
「俺の質問に、イエスかノーで答えてくれ。イエスならうなずいて、ノーなら首を横に振る。オーケー?」
「ヒム!」
ブンブンと何度もうなずくヒムカ。理解したらしい。
「ポコ」
「お、チャガマサンキュー」
チャガマが静々と番茶を出してくれた。ちゃんと湯呑も使ってくれているな。どうやらチャガマのお茶は6時間に1回しか生み出せないらしい。これでは売り物にはできないので、俺が全て消費することに決めていた。
「じゃあ、質問だ。まず聞きたいのは戦闘ができるのかどうかなんだが。槌術と火魔術を攻撃に使うことはできるか?」
「ヒム」
「無理か」
「ヒムー……」
「ああ、そう項垂れるな。予想してたし。生産を頑張ってくれればいいから」
「ヒム?」
「ああ、本当だ。だから落ち込むな」
「ヒム!」
落ち込んだヒムカが、俺の言葉に今度は跳び上がって喜ぶ。元気というか、いちいち感情表現が大げさであるらしい。ルフレと似たタイプかもな。
「じゃあ、次の質問だ。ガラス細工、金属細工、には炉が必要だろ?」
「ヒム」
「これって、炉は2つ必要なのか?」
「ヒム!」
首を横にプルプルと振るヒムカ。どうやらそれぞれに1つずつは必要ないらしい。なら、とりあえず安い炉を1つだけ買ってみて、何が作れるか試してもらうのがいいかな?
そう思っていたら、違っていたらしい。
ヒムカが納屋の隅に移動すると、しゃがんで何やらゴソゴソとやり始めた。鼻歌を口ずさみながら腰に下げている火霊の仕事袋に手を突っ込んでいる。
「ヒムムーヒムー!」
「おお! まじか!」
なんと、納屋の隅に小型の炉が出現したではないか。性能は低そうだが。どうも火霊の仕事袋はアイテムボックス的な能力があるらしい。まさか炉が出て来るとは思わなかった。
これって、もしかして外でも作業が出来るのか? いやでも、装備の耐久値を回復できる鍛冶じゃなくて、細工だからな。フィールドで作業できても意味ないか?
「とりあえず、炉は買わなくてもいいってことか」
「ヒム!」
ヒムカがエッヘンと胸を張る。
「なあ。今、何か作ってもらえるか?」
「ヒム?」
「えーっと、この辺の鉱石は使えるか? 銅鉱石なんだが」
「ヒムム!」
俺がインベントリから取り出した10個の銅鉱石を次々と炉に放り込んでいく。そして、ヒムカが炉の中をかき回すこと約1分。
「ヒームムー」
「おお、インゴットが出来たのか?」
「ヒム」
ヒムカが出来上がったインゴットの1つを手渡してくれる。冷ましたりする作業は必要ないらしい。さすがゲーム、お手軽だ。
元となった銅鉱石の品質が低いうえ、炉の性能もそこまで良くはないせいでインゴットの品質は低いが、それでもうちでは貴重な金属加工要員だ。これはテンション上がるね。今後は孵卵器などに使うインゴットも自力で調達できそうだ。
「それで、このインゴットをどうするんだ? 金属細工って言うからには、これで終わりじゃないよな?」
「ヒム!」
ヒムカが自信満々に腕まくりポーズをした。まあ、ノースリーブだから袖はないけど。そして、インゴットを火魔術で熱しながら槌で叩き始める。金床などはやはり仕事袋から出てきたな。
しかし、仕事に必要な道具を最初から持っているヒムカと、持っていなかったルフレ。この差は何だろう? 簡単に買えるかどうかか? まあ、オルトの場合はクワだけで十分だから納得できるが……。
炉の場合は1分くらいで仕事が終わるが、醸造は数日間かかる。その辺の差なのかね?
「ヒム! ヒム!」
俺が考え事をしつつも見つめる中、一心不乱にインゴットを叩くヒムカ。途中で真っ赤に熱されたインゴットをむんずと掴んだ時には驚いたが、炎熱耐性の効果なのか、まったく熱がる様子もなかった。それどころかインゴットを飴細工のように手で伸ばして、形を変化させている。そのまま作業をすること5分。
俺がちょっと飽き始めた頃、ヒムカの作業はようやく終了を迎えていた。
「ヒム~!」
「お、できたか?」
「ヒム」
「へえ! 銅のタンブラーか! お洒落じゃないか!」
特別な効果などは一切ない単なるタンブラーなのだが、仕上がりも綺麗で非常に美しい。リアルだったら何千円もするだろう。うちは金属装備を使える面子はいないし、こういった実用品の方が嬉しいかもしれん。
「よーし、金属細工は何となく分かった。次はガラス細工を見せてくれないか? 必要な素材はどれだ?」
「ヒムー」
「うん? もしかして、インベントリの中にも素材が無いのか?」
「ヒム」
色々と鉱石を並べてみたんだが、ガラス細工に必要なものが足りていないらしい。その後、陶磁器作製を試そうとしたんだが、こちらも無理だった。やはり素材不足である。
「仕方ない。生産系の確認はここまでにして、ダンジョンに戻るか……。ヒムカ、戦闘では壁役を頼むことになるが、大丈夫か?」
「ヒムー!」
力こぶポーズで飛び跳ねるヒムカ。やる気は満々であるらしい。炎熱耐性もあるし、ヒムカの働きによってはダンジョン攻略が楽になるかもしれないな。
まあ、その前にアリッサさんのところにダンジョン関連の情報を買いに行くけどね。
 




