228話 ヒムカ
俺たちは火霊の試練をまったりと攻略していた。無理をせず、ある程度消耗したら街に戻り、暑気耐性薬を補充し、休憩も適度に挟む。
そうやって何度かアタックを繰り返した結果、俺たちは発泡樹という木がある部屋までは到達することができていた。
この発泡樹は木材と、発泡樹の実が採取できる。そう、これが暑気耐性薬の材料だったのだ。まだ実験した訳じゃないが、名前から予想してもこれが炭酸の素だろう。上手くすれば炭酸飲料が作れるかもしれん。楽しみだ。
発泡樹のある部屋からもう少し進むと、中ボスのいる部屋である。なぜ中ボスの居場所が分かっているかと言えば、火霊の街で他のプレイヤーと情報交換をしているからだ。
「中ボスは火霊のガーディアンね。土霊門は土霊のガーディアンだったから、中ボスは色々と共通点があるのかもな」
中ボスは背中にある穴から、まるで噴火のように火の球をばら撒く獣タイプのモンスターらしい。一発一発に結構な威力があるようで、突破したパーティもタンクの盾が壊れたと嘆いていたな。
その後も俺たちはユニーク個体のサラマンダーを求めてダンジョンに潜り続けたのだが、何度かピンチに陥る場面があった。最もヤバかったのは、ワンダリングロック3体にかち合った時だろう。
基本は突進だけだし、いけると思ったんだけどね。まさかあんな方法を使ってくるとは……。なんと、ビリヤードの球のように仲間に突進してぶつかり、互いの軌道を変えるという戦法を使ってきたのだ。
そのせいで回避がずれ、俺とクママが盛大に吹き飛ばされていた。その後は後手後手に回り、火を消しては誰かが吹き飛ばされという悪循環だ。ルフレがいなかったら、もっと燃焼ダメージを食らっていただろう。ポーション類はたくさんあるから死に戻りはしなかっただろうが、消耗は避けられなかったに違いない。
今後はワンダリングロックが複数いる場合は気を付けないといけないな。
そんなこんなで火霊の試練のウザさに辟易しつつも、ちょっと飽きて来たし、素材類もそれなりに集まったから、いい加減もう帰りたいと思い始めたまさにその時だった。
「でた!」
遂にユニーク個体のサラマンダーが出現していた。いやー、俺の日頃の行いの賜物だろうか。いいタイミングだ。こいつをテイムして切り上げよう。その後は土霊の試練にでも行くのだ。
普通のサラマンダーがオレンジの髪なのに対して、サラマンダーの長と同じ赤い髪だ。
「よし! あのサラマンダーをテイムするから、倒すんじゃないぞ! 特にクママとドリモ」
「クマ!」
「モグ!」
俺の言葉に、クママとドリモは「心外な!」とでも言うように、腰に手を当ててプンスカポーズだ。
いや、信用してない訳じゃないんだよ? でも、下手に強い攻撃したら倒しちゃうかもしれんのだから、そこは気を付けてもらわないと。
なんて思っていたんだが――。
「キュ?」
「リックお前か!」
リックの投げた木実弾がサラマンダーのHPを削り切っていた。いや、ある程度削るまでは好きにやれって言ったよ? 言ったけどさー。まさか採取したばかりの発泡樹の実を投げつけるとは……。
この実を木実弾で投げた場合の効果は、通常ダメージに加え、追加で爆発ダメージというものだ。レア度が3と、今まで使っていた果実たちに比べて1段階レア度が高いのだが、その攻撃力もかなり高かった。それこそ、クリティカルが出たらユニークサラマンダーのHPを半分削ってしまうほどに。
「リック、やったな?」
「キュ~」
「なぜ照れる! 褒めてないから! やったなって、そう言う意味じゃないから!」
「キュ?」
「お前、本当は分かってるだろ?」
「キュ……キュッキュ」
ジト目でリックを見つめると、トコトコと俺に近づいてくる。そして俺の足に右手をつくと、その場でガクリと項垂れた。
「おまえ、どこで反省ポーズを覚えた?」
「キキュ」
「か、可愛く見つめてもダメ! 誤魔化す気マンマンじゃないか!」
「キュキュー」
明後日の方向を向いて口笛をふくジェスチャーをするリック。全く鳴らない口笛がマヌケ可愛い。
「反省の色が足りないようだな。だいたい、誠意が足りないのではないかね? リック君?」
「キュ?」
「誠意だよ誠意。分からんかね?」
「キュ~?」
俺の言葉に首をひねるリック。
「ふふふ。分からないか? つまりこういうことだ~!」
「キュ~」
「ふははは! 体で払ってもらうぜ! モフモフさせろ~!」
テンションが下がった時はモフモフを愛でるに限るよね? 俺はリックの体をガッチリと捕まえると、そのまま頬ずりした。うーん、フッカフカの毛がほっぺに擦れて、メッチャ気持ちいい。
「クマ!」
「フムー!」
リックと遊んでいると思ったのだろう。他の子たちも寄ってきた。モンスターのリポップまで時間があるとはいえ、ダンジョンの中で無防備に遊んでしまったぜ。
「ふぅー、気持ちも落ち着いたし。またサラマンダー探しをするか。リック、次は気を付けろよ? 発泡樹の実は禁止だからな」
「キキュ!」
そこからさらに3時間後。
「きたー!」
「キュキュー!」
ようやく2体目のユニーク個体と遭遇していた。こいつを逃したら、次に出会えるのはいつになるか分からない。絶対に捕まえるぞ!
「いいか! 慎重に行くからな! 特にリック! お前は麻痺のみ狙え!」
「キュ!」
そして、ユニーク個体の全体火炎攻撃に苦戦しつつも、なんとか麻痺状態に陥らせ、最後は俺の手加減アクアボールでHPを限界まで削ることに成功したのだった。
「テイム! テイム!」
MPもかなり残っているし、麻痺が解ける前に成功したいところだ。そうやってテイムを繰り返すこと7回。
「テイム!」
「ヒム?」
「よっしゃ! ゲットだぜー!」
俺のレベルも上がって来たしね。予想外に早く、テイムが成功していた。やや可愛いタイプの顔をした、赤い髪の少年が俺の前に立っている。
着ている服は、上半身は体にぴったりフィットする、前で黄色い紐を使ってとめる形になっているノースリーブのカンフーシャツだ。
下半身はゆったりとしたカンフーズボンである。ズボンは一見タボッとしている様に見えるが、裾はきっちりすぼまっており、動きを阻害するようなことはないだろう。少林寺とかにいそうな感じだね。
ただ、パーティメンバーが上限なので、すぐにその姿が搔き消えてしまう。牧場に送られたのだ。あとで迎えに行ってやらねばなるまい。
ただ、ウィンドウからステータスは見えるので、早速チェックしてみよう。
名前:ヒムカ 種族:サラマンダー 基礎Lv15
契約者:ユート
HP:50/50 MP:48/48
腕力13 体力13 敏捷7
器用14 知力11 精神8
スキル:ガラス細工、金属細工、製錬、槌術、陶磁器作製、火魔術、炎熱耐性
装備:火霊の槌、火霊の服、火霊の仕事袋
街を見て予想していたが、ガラスや陶磁器の生産系モンスターだったか。少し鍛冶なんかも期待していたんだけどね。でも、これで自前で色々な食器を用意できるってことだ。今からどんなものを作ってもらえるか、楽しみである。問題は、設備を揃えなきゃいけなさそうなところかな?
そこも設備の値段を見て決めよう。場合によっては、最初は安い設備で我慢してもらうしかないな。炉とか窯とか、高いイメージだし。
「さて、これで目的は達成したんだが……」
この後どうしようかな?




