226話 ファイアラーク
「さて、実験も済んだし、進むか。いや、待てよ。最初の部屋には隠し部屋があるのがこれまでのパターンだな」
水霊の試練、土霊の試練、ともにネックレスの入った宝箱が隠されていた。となると、この部屋にも宝箱が隠れている可能性が高いと思うが……。
「オルト、分かるか?」
「ムー?」
「だめか? リックはどうだ?」
「キキュー?」
洞窟内では頼りになるオルトと、探索能力に優れたリックでも分からないらしい。ただ、オルトが感じることができないということは、土を掘った先に隠されているパターンではないだろう。
「となると、この炎の壁の先か?」
隠し通路が炎で覆い隠されているパターンは十分あり得るだろう。
「よし」
とりあえず足元の石を拾って投げてみる。炎の壁の向こうにある普通の壁に当たって、カツンという音がした。これを地道に繰り返して、隠し通路を探す作戦だ。俺がやったのを見て、うちの子たちも意図を理解したらしい。俺の肩に乗って応援をしているファウ以外の面々が、石を拾って投げ始めた。
リックなんか、ソフトボールくらいは有りそうな大きめの石を両手で持っては、まるで円盤投げのように回転して投げている。
手伝ってくれるのはいいんだけど、四方八方からカツカツンと音が聞こえて、どこが壁なのかむしろ分からんぞ。ただ、ファウはさすがに音に敏感なようで、すぐに音の変化を感じ取ったらしい。俺の頬を軽く叩き始めた。
「どうした?」
「ヤー!」
ファウがある方向を指差している。そこに向かって、クママが石を投げつけた。すると、跳ね返ってくることもなく、石が炎の向こうがわへと消えてしまう。間違いない、向こうは空洞になっている。
「よし、よく見つけたなファウ」
「ヤー!」
「クックマ!」
「クママもよくやったぞ~」
「クマクマ~」
さて、皆のおかげで隠し部屋のあたりは付いたが……。
「どうやって向こうに行くかね?」
一番手っ取り早いのはこのまま突っ込んでしまうことだ。ダメージは食らうけど死ぬわけじゃないし、燃焼状態は水で直せばいい。
「ただ、装備の耐久値も減るし、無駄ダメージを食らいたくはないよな~」
少し考えて、水魔術で消せないか試してみることにした。アクアクリエイトで生み出した水をかけてみる。
「お、少し勢いが弱まったか? ルフレ、バンバン水をかけるぞ!」
「フム!」
ルフレと一緒に、炎の壁に向かって水を数度かけていく。すると、火勢が一気に衰え、ついには炎の一部が消え去った。その向こうには、やはり小部屋が見えている。
「よし、行くぞ」
「フム!」
ルフレと一緒に中に入ると、そこには赤い宝箱が1つだけ置かれている。罠感知に反応はない。中には予想通り、攻略を有利にしてくれるネックレスが入っていた。
名称:鎮火のネックレス
レア度:3 品質:★9 耐久:200
効果:防御力+4、燃焼回復速度上昇・微
重量:1
良い物だけど、俺たちにはあまり意味はないかな? 俺とルフレ、2人も水魔術の使い手がいるし、生産に力を入れている関係から水も多めに用意している。まあ、とりあえず装備はしておこう。
多少がっかりしつつ、部屋を出た直後だった。
ボボオォ!
「うわ!」
「フム!」
俺の後に続いて部屋から出たルフレのすぐ後ろで、消えていた炎の壁がいきなり復活したのだ。あと数秒遅かったら、俺もルフレも炎に包まれていただろう。
ゲームの性質上それで焼け死ぬことはないが、面白くない事態になったことだけは確かであろう。
「3分くらいで復活するってことか……。これは気を付けないとな。危なかったぜ」
「フムー」
ルフレも俺の真似をして額の汗を拭う動作をしている。でも、ルフレは水属性だからダメージ半減のはずなんだよね。多分、火炎に飲み込まれていたとしても、少し驚くくらいで済んだはずだ。まあ、スリリングさを楽しんでるみたいだから、いいんだけどさ。
「じゃあ、先に進むぞー」
「フム!」
オルトを先頭に、次の部屋へと進む。ルフレを先頭にしようかとも思ったんだが、地形ダメージよりも敵からの攻撃の方がダメージがデカイだろうし、とりあえずいつも通りの布陣にしておいた。
「……通路に罠はないか」
壁と、時おり赤熱している床が罠みたいなものだけどね。
「さて、部屋の中には……何もいないか?」
通路から部屋をのぞいてみる。円形の部屋の中央には 直径1メートル程度の穴が開いており、そこから炎が立ち昇っていた。炎の柱と言うほど大きくはないが、篝火という程度には勢いがある。
モンスターの姿が全く見えない。だが、気配察知には確実にモンスターの反応があった。どうも、炎の中に隠れているらしい。どんなモンスターか分からないのは不安だな。
「でも、ここでまごまごしていても仕方ないし、覚悟を決めるか」
「ム!」
オルトがクワを構えて、ザッと一歩を踏み出す。やる気だね。
「頼もしいな。じゃあ、先頭は任せるぞ」
「ムッムー!」
「モグモ!」
「クママー!」
前衛タイプ三人衆が部屋へと駆けこんでいった。そのまま周囲を警戒するように見回すオルトたち。すると、部屋の中央の篝火から何かが飛び出す。
「出たぞ――って……。小鳥?」
出現したのは手の平サイズの小鳥であった。羽毛の代わりに炎を纏っているが、どう見ても強そうではない。名前は、ファイアラーク。見た目から考えて火属性のモンスターで間違いない。
「一匹だけか。とりあえずテイムは……」
無理だった。水霊の試練のポンドタートル、土霊の試練のストーンスネークと同じ、サモナー専用のモンスターなのだろう。
「じゃあ、倒すか。みんな、まずは水魔術無しで普通に戦ってみよう」
水魔術を使えば楽に勝てるだろう。相手は1匹だけだし。でも、敵の数が増えれば全部の敵に対して水魔術を撃つわけにも行かないし、魔術無しでも戦えるか見ておかないといけないのだ。
すると、このモンスターが見た目通りの弱々しい小鳥さんでないことが分かった。
まず速い。しかも飛んでいるので、攻撃が全然当たらないのだ。向こうが上空にいる時はジャンプしないと攻撃が届かないし、とにかくうざかった。
さらに攻撃も非常に厄介だ。攻撃方法は2種類。嘴での突っつきと、火の粉攻撃だ。嘴は大したことが無い。速いので避けづらいが、ダメージは小さかった。いや、俺が食らったら結構ヤバいけどね。オルトやクママなら問題ないのだ。
だが、もう1つの攻撃方法である、火の粉がなかなか侮れなかった。こちらもダメージは低いのだが、確率でこちらを燃焼状態にしてくる効果があったのだ。
「クママママ~!」
「おおおおおちつけクママ! アクアクリエイト!」
「ク、クマ~」
燃え盛る炎に包まれたヌイグルミハンドをこちらに突き出して、慌てた様子のクママに水をかけて鎮火してやる。いやー、クママって外見だけだとメッチャ良く燃えそうなんだよね。焦ったわ~。
「モグモ~!」
「ああ! ドリモの頭が燃えてる!」
結局その後、クママのジャンプ攻撃がクリティカルヒットし、地面に落ちたファイアラークに集中攻撃をして、なんとか倒すことに成功したのだった。
たった1匹にえらい苦労したな……。
「次はこの小鳥さんをまずは水魔術で優先的に落とそう」
強いモンスターとの戦闘中に、こいつにちょこまかされたらかなり厄介だ。燃焼状態にされたらうちの子たちの集中力も乱されるしな。




