224話 火霊の街
たどり着いた火霊の街は、水霊の街とも土霊の街ともまた違った美しさがあった。共通するのは、幻想的で、リアルではお目にかかれないファンタジー感だろうか。
「おおー」
「ムムー」
オルトも俺の隣で口をポカーンと開けて、初めて見た光景に見入っている。
火霊の街は、何というか明るかった。
「これは全てガラスなのか? いや、タイルも使われているか……」
火霊の街は、何もかもがガラスと磁器タイルでできていた。すりガラスや曇りガラス、クリスタルガラスなど様々な種類と色のガラスに、カラフルなタイルが組み合わされ、町が構成されている。
火霊門と街を結ぶ通路がかなり高い位置にあり、入り口からは街を見下ろすことができた。基本はすり鉢状の大きな空間だろう。そこにガラスとタイルでできたカラフルな家々が立ち並んでいる。空は、白いガラスのドームが覆っているようだ。淡い光がやわやわと降り注いでいる。
地面は、丁寧に均した土の上に、薄いガラスとタイルを組み合わせて敷き詰めたのだろう。カラフルな模様が描かれ、まるでモザイク画のようだ。歩いても大丈夫なのか少し心配になるが、町のオブジェクトは破壊不能だから大丈夫なのだろう。
街灯は細長い円柱状の透明のガラスだ。中では青白い炎が燃え、周囲を照らし出している。
全体的に派手だ。とは言え、嫌らしい派手さではない。オモチャの町とか、そんな雰囲気があるからだろうな。見ているだけでワクワクしてくる街だった。
もっと見て回りたい。ただ、そうもいかないんだよね。
「じゃあ、戻りましょうか」
「そうだな」
イワンに促され、俺はオルトを連れて火霊門へと戻る。火霊門を開いたら、そのまま即座に南の町へと戻ることになっていたのだ。皆、自分のモンスを連れてダンジョン攻略したいからね。
アメリア、ウルスラは未練たらたらの顔をしているが、ここは心を鬼にして2人を火霊門から連れ出した。まあ、2人をパーティから外してここに置いて行ってもいいんだが、それだとアメリアたちが街に戻る時に少し危ないからな。
レベルが高いとはいえ、所詮は貧弱なテイマーである。2人きりで第2エリアは絶対に安全とは言い切れなかった。
「すぐに戻ってくるからね!」
「アイルビーバーック!」
1時間後。
俺はうちの子たちを連れて火霊門へと戻って来た。
「キュー」
「ヤー」
やはりモンスでも、火霊の街を初めて見るとその美しさに魅入られてしまうらしいな。リックとファウが俺の両肩で、先程のオルトと同じ顔をしている。
「フムー」
「クマー」
「モグモ」
ルフレもクママもドリモも同じだ。俺の隣でガラスの街を眺めている。ただ、ドリモはちょっと眩しそうかな? 基本的に光はあまり好きじゃないらしい。そうなると火霊の街はあまり好きじゃないかね? どこもかしこもキラキラしているのだ。
今回、連れて来るメンバーはかなり悩んだ。確定は育成を優先したいファウとドリモ、火に対して優位を持っているウンディーネのルフレの3体である。
一番悩んだのはサクラだ。前衛、後衛どちらもこなせて、攻撃も搦め手も可能な、うちでは最も頼りになる存在と言えるだろう。
だが、今日向かうのは火霊の試練。確実に火炎系のモンスターばかりが出現するはずだ。そして、サクラは植物系のモンスなので火炎が弱点である。
今までは火炎属性の攻撃を放ってくる敵がほとんどいなかったので問題にはならなかったが、今回はそうも言っていられない。
悩んだのだが、初回はサクラを外すことにしたのだった。慣れたら連れて来てみるつもりだ。サクラが火炎属性の相手にどこまで戦えるか、試してもみたいからね。
「よーし、まずは街を見て回るか」
「ムム!」
火霊の街を歩いてまわると、サラマンダーの長よりもやや背の低い住人たちの姿を見ることができた。あれが進化前のサラマンダーなんだろう。やはり少年タイプだな。
ノームも個々に顔や髪型が微妙に違うが、サラマンダーはその違いがより大きい。カッコイイ系のサラマンダーもいれば、可愛い美少年タイプもいる。これは女性テイマーに人気が出そうなスポットだぜ。
いや、テイマーじゃなくても美少年が見放題なわけだし、普通の女性プレイヤーでも入り浸るやつが出そうだな。
店の種類はやはりそう変わりはないだろうが、とりあえず回ってみよう。だが最初に武具屋をのぞいても、目ぼしい装備はなかった。いや、性能的には強いんだが、重さの関係でどうしても装備できないのだ。まあ、ここは予想通りである。本命は素材や道具だ。
しかし、次に雑貨屋で種を探してみたんだが、目新しい物はなかった。微炎草も薬草からの変異で入手済みだしね。
ただ、その次に訪れた店には色々と面白い物が揃っていた。そこはガラス製品と、陶磁器の店なのだが、ガラスのペンダントやメガネ、ピアスのような装備品だけではなく、グラスやカトラリーなどの日用品なども売っていたのだ。風鈴なんて、風流でいいな。まあ、うちじゃ使えないけど、いつかホームを入手したら飾ってみるのも面白いかもしれない。
「食器はいいなぁ」
色とりどりのガラス製品や、色鮮やかな磁器。渋い色の陶器など、見ているだけでウキウキしてくる。どれもこれも欲しいが、オークションで散財したばかりだからな~。今は節約をせねば。
とりあえず、透明なガラス製のグラスを6つ、白い磁器製のティーカップとソーサーを6つ、茶褐色の陶器の湯呑を6つ買っておくことにした。どれも安物だし、この程度はいいよな?
「お次は薬屋か……。へえ、これは役に立ちそうだな」
次に足を踏み入れた薬屋で最も気になったのが、暑気耐性薬だ。これを飲むと、暑い場所でも大丈夫になると書いてある。暑い場所と聞いて真っ先に思い浮かんだのが、火霊の試練である。絶対に火が燃え盛るダンジョンであると思われるし、この薬があったら攻略が捗るのではなかろうか?
「3つくらい買ってみるか」
ダンジョンで色々と実験してみよう。
「よし、この調子でどんどん行くぞ」
「ムムー!」
「で、お次はお馴染みのこの店ね」
ホームオブジェクトの販売店だ。やっぱり面白いな。
畑に使えそうなアイテムだと温室があった。しかもガラス張りのちょっとお洒落なタイプだ。
あとは炬燵、床暖房も珍しいだろう。まあ、今の俺には設置できる場所もないけど。
「それ以外だと、鍛冶とかガラス工芸用のホームオブジェクトばかりだな」
リストには炉や窯の名前が多い。火を使うとなるとこういうアイテムばかりになるのは仕方ないだろう。料理用の石窯などもあるが、やはり設置する場所がなかった。畑には、農業系か素材産出系のオブジェクトしか設置できないのだ。
「とりあえず温室だけ買っちゃおうかね」
 




