220話 南の森のフィールドボス
「えーっと、爆弾のお値段は?」
「4つで6万よ」
高っ! オークションで散財しまくった後にこれはきつい! 俺が頭を抱えていると、リキューはさらに言葉を続ける。
「でも、白銀さんのモンスちゃんたちを撫でさせてくれるならただでもいい」
「なぬ? ただ?」
「ええ、そうよ。くくくく」
どうしよう。最後の含み笑いですっごい不安になってしまった。こいつがうちの子たちに触れられるようになって大丈夫だろうか?
フレンドになること自体は問題ない。ソーヤ君も悪いやつじゃないと言っていたし、数少ない生産プレイヤーのフレンドなのだ。
いや、考えてみたら言動や格好は怪しいが、それだけだ。何かされたわけでもない。だいたい、外見や言動の怪しさなら、夫婦忍者プレイヤーのムラカゲ夫妻や、騎士プレイヤーのジークフリードも同じようなものだろう。
「うん。まあ、いいぞ」
「くくく、感謝するわ」
その後、フレンド登録をしたリキューは早速俺が連れてきていたルフレを撫で始めた。
ちょっと心配していたんだか、リキューはいきなり奇行に走ることもなく、そっとルフレの頭を撫でている。慣れてきたら握手をしたり、ほっぺたをツンツンしたりしているが、その程度だった。
むしろアメリアやアシハナ達の方が数段酷いだろう。あいつら完全に抱きついて、おさわりしまくるからな。外見で判断して済まなかったリキュー。
「今日はルフレしか連れてきてないけど、畑に遊びに来れば他のモンスもいるからさ」
「いいの?」
「ああ」
「必ず行くわ」
「まあ、モンスが必ずいるとなると、夜になっちゃうけどな」
昼は冒険に出ている可能性があるのだ。
ルフレを愛でていたリキューがログアウトしたので、俺たちは一旦畑に戻ってきていた。細かい作業を終わらせるためだ。時間があれば、ハナミアラシからゲットできた霊桜の花弁で調合実験したり、色々と遊びたいんだけどね。
因みにハナミアラシと再戦するためのアイテム、ハナミアラシの怒りは今日は入手できなかった。霊桜の花弁も4枚だったし。
捧げたワインの品質などは全く同じだったので、入手アイテムにはランダム要素があるようだった。
「爆弾も手に入ったし、いよいよ南の森のフィールドボスに挑みますか!」
リキューと分かれた後に、ルインの下へ行って精霊使いのピアスに従魔の宝珠もセットしてもらったし、生産仕事も今全て完了した。後はボスを倒して先に進むだけだ。
フィールド攻略に向けて連れていくのは、サクラ、リック、クママ、ファウ、ルフレ、ドリモの6体だ。
お留守番はオルト、オレア、チャガマである。
まあ、召喚も可能だから、壁役が必要になったらオルトと誰かを入れ換えればいいだろう。
「じゃあ、行ってくるな。留守を頼む」
「ムム!」
「トリ!」
「ポン!」
居残り3人組みがビシッと敬礼をしてくれる。チャガマもすっかりうちに馴染んだな。扱いはNPCだけど。
それに対して、出撃組が敬礼を返す。皆が真剣な顔なので、なんかすごい戦いに赴くみたいな雰囲気だ。雑魚フィールドボスをはめ殺しに行くだけだぞ。
「オルト、もしお前を召喚する時は、かなりのピンチの時になると思う。いきなり強敵の前に放り出されるかもしれない。その時は、冷静に頼むぞ」
「ムッムー!」
良い笑顔だ。これなら召喚で入れ替わっても、混乱して動けないということはなさそうだな。
「ムーッ!」
「トリリ!」
「ポンポコ!」
メッチャ真剣な顔で送り出してくれるオルト達の声援を背に、俺たちは南のフィールドへ向けて出発した。
「うーむ」
「キキュ?」
「ヤー?」
光の粒になって消えていく蜂の巣を見つめながら、難しい顔で唸ってしまった俺を、肩の上に乗っていたリックとファウが首をかしげて見ている。
「すまん。なんでもないんだ」
ただ、フィールドボスの撃破があまりにも簡単過ぎて、驚いていただけだ。まさか爆弾3発でケリが付いてしまうとは。ボス戦のはずなのに、全く危機を感じなかった。遠くに投げたつもりだったのに、目の前ギリギリまで爆弾の火炎が迫って来た瞬間の方がよほど恐ろしかったぜ。
この南の森のフィールドボスは、蜂の巣の形をしている。この巣が本体で、小型の蜂を次々と召喚してくるのだ。
蜂そのものは雑魚なのだが、素早いせいで攻撃を防ぐことが難しく、まれに毒状態にされてしまうため回復がなかなか追い付かない。そのため、対応の確立されていない初期の頃は、回復アイテムを大量使用してのゴリ押しが一般的な戦い方だったらしい。
雑魚蜂をいくら倒しても本体に影響はなく、本体だけを狙おうとすると無防備な背を蜂に襲われるという、中々ウザいボスである。
だが、蜂も巣も火炎属性に致命的に弱く、巣は火で攻撃すると確実に燃焼状態になるらしい。燃焼というのは、火が消えずに残り、火属性の継続ダメージが入る状態異常だ。それ故、火炎属性を使えば、火に弱い巣をかなり早く倒すことが可能である。
さらに、広範囲を攻撃する爆弾で蜂ごと巣を潰す方法が確立されてからは、初心者でも簡単に倒すことができるようになっていた。今ではあまりにも楽勝で倒せるせいで素材が大量に出回っており、ボス素材でありながら値が大きく崩れているほどなのだ。
それでもフィールドボス中で最弱と言われないのは、油断をすると死に戻る可能性が高いからだ。爆弾による自爆ダメージや、爆弾をケチったせいで倒しきれず、怒り状態で攻撃力の倍化した蜂軍団に袋叩きにされるプレイヤーも多いらしい。
「ま、まあ、勝ったわけだし先に進もう」
「クマ!」
「モグ!」
クママとドリモがお尻を振りつつ先頭を進む。ドリモの尻尾とお尻は、クママとはまた違った可愛さがあるね。
クママはプリッとしたお尻に短い尻尾が付いていて、歩く度に左右にフラれてセクシーな感じだ。
対してドリモはポテッとした安産型のお尻に、少し長めの尻尾が付いている。歩くとその尻尾が左右にフリフリと振れてプリチーなのだ。
え? 何の話かって? アニマルタイプのモンスについて語ってるんだよ?
「フム!」
「――!」
「おう、行くよ。引っ張るなって」
ルフレとサクラが俺の両手をとって、引いてくれる。ボス戦が簡単に終わったせいで、完全にピクニック状態であった。
ただ、この先はそうも言っていられない。第2エリア『角の樹海』。大型の昆虫タイプモンスなど、攻撃力が高めのモンスが登場するのだ。
そいつらに混じって現れるザコゴブリンが、また嫌らしい。茂みに隠れて不意打ちをしてくるらしいのだ。ステータスが雑魚なのでクリティカルを食らったとしても大したダメージではないが、不意打ち判定の攻撃にはこちらを硬直させる効果がある。そのせいで動きが一瞬止まってしまい、他のモンスターの攻撃を食らってしまうのである。
まあ、それでも油断しなければそうそうやられたりはしないけどね。
「よし、こっからは気合を入れ直していくぞ!」
「フム!」
「――!」
書籍に関しての情報です。再出版は、マイクロマガジン社様にお願いすることとなりました。
作者のもう1つの連載作品「転生したら剣でした」を手掛けてくださっている出版社様です。
ただ、以前に出版した物をそのまま出すのではなく、新たな内容の物を書き下ろすことにいたしました。
改稿作業等もありますので、1巻をお届けできるのはかなり先お話となると思います。
もっと詳しいことをお知りになりたい方は、活動報告にてご確認ください。
これからも出遅れテイマーをよろしくお願い致します。




