217話 ネトオク
さて、アリッサさんは去っていったが、オークションはまだ終わっていない。ネトオクが残っているのだ。
目当ての品に対して入札を繰り返すシステムであるが、俺も今日ログインした直後に目星をつけた数個の商品に入札をしてあった。
「どうなってるかな~?」
「ポン」
「お、飲めってか?」
ブンブクチャガマ――長くて面倒だな。チャガマでいいか。チャガマが湯呑に入ったお茶をそっと差し出してくれた。
「うん? ヘソで沸かしたお茶じゃないぞ?」
鑑定してみると、安物番茶という、なんとも素っ気ない名前が付いていた。効果はない。ハーブティーのようなアイテムだが……。
「ズズー」
緑茶だ。なんと、チャガマは日本茶を出す能力があるらしい。茶術の能力なのだろうか? 地味に嬉しい能力だな。
「なあ、頼んだらいつでも出してくれるのか?」
「ポコ」
「ダメなの? あ、もしかしてハーブティーをお供えしたから出してくれたのか?」
「ポン!」
なるほど、ハーブティーの代わりに、番茶か。どっちも効果はないし、等価交換なのかな?
「じゃあ、ほい。これでまた番茶を出してくれるか?」
「ポコ!」
ダメでした。時間を空けないとお供えは出来ない感じか。まあ、1日1杯だけだったとしても、緑茶は嬉しいけどね。
「サンキューな」
「ポン!」
それに、ヘソで沸かしたお茶の試飲もしてみないといけない。ちょうどいいから飲み比べてみようかね。
「ズズー」
番茶と分福の茶釜で作られたヘソで沸かしたお茶の味を交互に確かめながら、納屋の中でネトオクの画面を確認する。
ヘソで沸かしたお茶――こっちも長いな。ヘソ茶でいいや。ヘソ茶もやっぱり緑茶だ。しかも結構美味しいぞ。少し渋い気もするが、俺は少し渋いくらいのお茶が好きだ。コーヒーはブラック、緑茶は渋めがいい。
番茶はむしろ少し甘め? 俺はヘソ茶が好きだが、普通の人には番茶の方が美味しく感じるかもね。
残念なのは、大量に作れないからがぶ飲みできないことだな。まあ、普段はハーブティー、ここぞと言う時は緑茶にしておこう。アリッサさんには悪いが、ヘソ茶も番茶も自分用に全て確保である。
「まずは従魔の卵から確認するか」
俺が入札した卵は2種類。出品されていた卵の中でも開始金額が1万Gと最も高額だった、白鶏の卵と黒兎の卵だ。
とりあえず様子見で1万5000Gずつで入札してみた。まあ上書きされてるだろうけど、5万までは出してもいいかなーと思っている。
因みにネトオクの軍資金は30万G、さっきアリッサさんから受け取った情報料を合わせても35万Gの予定だ。
「えーっと――ぶっ!」
思わず口に含んでたお茶を噴き出しちゃったよ。貴重なお茶が! でも仕方ないじゃないか。だって俺が欲しかった卵の値段メチャクチャ跳ね上がっていたのだ。
「ポ、ポン?」
「すまん、ちょっと驚いただけだ」
「ポン」
チャガマが驚いた表情でこっちを見ているな。手足が引っ込んで、茶釜からタヌ首だけが生えた状態だった。さすが妖怪。
「なぜだ? 10万オーバーって……」
各卵は5個ずつ出品されているんだが、全ての値段が高騰していた。
「解せぬ」
だって、それほどレアな卵じゃないはずなのだ。白鶏は、第2エリアで出現するピヨコというひよこ型モンスを進化させた先にある、コケッコーというモンスだと思われた。
アミミンさんも連れていたが、彼女のコケッコーはユニーク個体。この卵は高いと言っても開始額が1万Gだし、多分通常個体が生まれるだろう。
だとしたら10万は高すぎやしないか? だって、ピヨコをテイムして育てれば、多少時間はかかっても入手可能なんだぞ?
黒兎も同様だ。こっちは第1エリアのラビットを進化させたブラックラビットだろう。やはり10万もするモンスターではないと思うが。
「仕方ないな……」
白鶏の卵と黒兎の卵は諦めよう。他の卵はどうだ?
「こっちも高いな」
なんでだ? オークションの掲示板があったのでちょっと覗いてみたら、どうも競売で目当ての物を落札できなかったプレイヤーたちが、半ばヤケクソ気味にネトオクに大金を注ぎ込みまくっているようだった。
さらに、オークションで出品される卵は特別製で、イベント配布の卵のように、特殊なブラッドスキルを継承しているのではないかという推測がなされているらしい。
そりゃあ、値段も上がるというものだろう。
「卵は諦めるか……。これは、他のアイテムもどうなってることか……」
最初に属性結晶を確認してみる。まあ、これは元々期待してなかったけど、値段が凄まじいことになっているな。
1番安い土結晶で26万G。水、風が33万で、火は45万の値が付いていた。明日は火の日だしな。皆、考えることは一緒ってことなんだろう。俺はアリッサさんと交換で手に入れておいて本当によかった。
「素材類も、軒並み高いが……」
正直、入札していたアイテムは全てが俺の想定を大幅に上回る金額になってしまっていた。一番安く手に入るだろうと思っていた、ハーブのローズマリーの種でさえ、6万Gである。
ローズマリーと言えば聞こえはいいが、雑草だぞ? それに6万とか、正気の沙汰とは思えん。
「とは言え、このままだと何も買えないことになっちゃうんだよな……どうしよう?」
「ポコ?」
チャガマが横からステータスウィンドウを覗き込む。
「どれか1つに集中して、競り落とすかね~」
となると、卵か素材かな? そんなことを考えていたら、チャガマが急に声を上げた。
「ポン!」
「お? どうした? これが気になるのか?」
「ポン!」
チャガマが反応したのは、急須であった。なるほど、さすがにブンブクチャガマ。茶器とかそういう物に反応するらしい。
まあ、ティーポットは1つ持っているが急須は持ってないし、1つくらいはあってもいいかな? お供えしたらチャガマも喜びそうだし。
「現在は4万Gか」
高額は高額だけど、高過ぎってわけでもない。だったら、これを落札してみるか。
「じゃあ、これを手に入れてやるからな~」
「ポコ~!」
書籍版、2巻について悲しいお知らせがあります。
販売元のレッドライジングブックス様が事業縮小を発表し、それに伴い販売も中止となりました。
原稿も上がっていて、今年中にお届けできる予定だったんですが……。
寝耳に水の話で、作者も大変驚いております。
可能性は低いですが、新たな出版元が見つかれば、またお届けできるかもしれません。
詳しいことは活動報告に書いてありますので、詳細が知りたい方はそちらをご覧ください。




