216話 招福の効果
曲芸、茶術については何となくわかった。
「招福はどうです?」
「招福というスキルに関しては完全に未見。想像も出来ないわね。幸運との違いもよく分からないし」
アリッサさんでも分からないか……。説明では福を招ぶとしか書いてないんだよな。
「ねえ、取得には何ポイント必要なの?」
「え? ちょっと待ってください」
そう言えばまだその辺を確認してなかったな。慌ててスキル取得画面を開いてみる。
「えーっと、招福に必要なポイントは……ええ? 10ポイント?」
一瞬目を疑ってしまった。だが、何度見返しても、招福を取得するのに必要なボーナスポイントは10であった。
「めちゃくちゃ使うな」
「10ポイント? だとするとけっこう強力なスキルか、特殊なスキルってことになるかもしれないわ」
ますます気になるな。だが、10ポイントはなー。残りは26ポイントだから、かなり消費することになってしまう。
「どうしたらいいと思います?」
「そこで私に聞く? 正直、取得できるならしたら? としか言えないけど。情報欲しいし」
アリッサさんならそう言うよね。必要なボーナスポイントは非常に多いが……。でも、逆に言えば有用なスキルって事じゃないか? すっごい性能かもしれん。でもな~。
「……どうしたらいいと思います?」
どうしても踏ん切りがつかずに再度アリッサさんに尋ねてしまう。
「はぁ。他に取得したいスキルもないんでしょ?」
「いやいや、いっぱいありますよ? 魔術はもう1、2種類はあってもいいと思いますし、この先を進むためにもボーナスポイントは残しておきたいです」
「じゃあやめたら?」
「でもですねー」
そんなやり取りを繰り返すこと数度。ついにアリッサさんがキレた。
「あー、もう! 分かったわ! ジャンケンしましょう!」
「ジャ、ジャンケンですか?」
「ええ! ユート君が勝ったらもう悩まずに招福スキルを取得する! 私が勝ったら招福スキルはきっぱりと諦める! それでいいでしょ? はい、じゃあジャーンケーン――」
「え? え? ちょ」
「ポン!」
「おっとぉ!」
アリッサさんの勢いに釣られて、思わず手を出しちゃったよ。
結果は俺がグーで、アリッサさんがチョキ。つまり俺の勝利だった。
「はい、ユート君の勝利~」
「は、はぁ」
「じゃあスキルを取得しちゃってよ。ほらほら、男ならガッと!」
「わ、分かりましたよ」
なんか釈然としないが、こうなったら覚悟をきめよう。せっかくアリッサさんが背中を押してくれたわけだし。
「じゃあ、取得します」
10ポイントが消費され、俺のスキル欄に招福が追加された。
「どう?」
「いや、別に変ったことは……」
「ということは検証はなかなか難しそうね~。詳しいことが分かったらぜひ情報を売りに来てよ」
「勿論です。ただ、運が上昇したりするとしたら、正直効果が実感できるかどうか」
「気長に待つわよ」
そうしてください。ただ、効果が目に見えて高い可能性があるから、すぐに分かるかもしれないけどね。というか、そうだったらいいな。
「あと、オークション関連で何か目ぼしい情報ってありますか?」
「そうね~……。ああ、オークションと言えば新称号だけど、どうだった?」
「宵越しの金は持たないですか? ゲットしましたけど」
「さっすが。まあ、ゲットしてるだろうなーとは思ってたけど。これで取得者は33人目かな」
「結構多いですね」
「最後のシークレットゾーンで結構落札額が跳ね上がったしね。総計で100万くらいは、意外と行っちゃったみたいよ」
1発で100万越えのアイテムもあったしな。俺みたいに複数で100万越えのプレイヤーも結構いるんだろう。
あと、クランやパーティでお金を集めて、リーダーが代表で参加している場合も多いらしかった。そう言った場合は、やはり100万程度は超えてしまう。
「じゃあ、あまり珍しい称号でもない感じですかね?」
「でも、アナウンスだと、初回のオークション限定って感じだったみたいだし、今後もらえるかは分からないわよ?」
なるほど、限定称号だった可能性があるようだ。まあ、少し無理した甲斐はあったってことか。妖怪に称号と、普通に考えればレアな物を手に入れてるしね。
「他に何か情報はある?」
「えーっと……」
アリッサさんが精霊使いのピアスなどの情報も知りたいというので、それについても語った。ただ、こっちは既存の情報と同じだったらしい。そうそう凄い情報なんて出ないよね。でも、俺にはまだ売れる情報があった。
「あとは分福の茶釜って言うアイテムがありますよ」
「茶釜? 茶釜は妖怪になったんじゃないの? それとも、妖怪化したことで新しいアイテムになったの?」
「いや、その妖怪が新しい茶釜をくれたんですよ」
俺は新たな茶釜の鑑定結果のスクショをアリッサさんに見せる。
「面白いわね。ねえ、そのお茶って緑茶なの?」
「いや、まだ飲んでないです。戻ればもう出来上がってるかも? もしよかったら見にきます? ブンブクチャガマも直接見てもらった方が分かることもあると思いますし」
「そうね……。その妖怪と私が仲良くなれるかどうかも興味あるし……」
ということで、アリッサさんが俺と一緒に畑に向かうこととなった。露店はいいのかと思ったが、そこはクランメンバーに任せるそうだ。
「お花見ぶりだけど……。あれが神聖樹ね」
「はい。衰弱っていう状態なので、どう育つか分かりませんけどね」
「興味深いわね。どんな風になるのかしら? イベントの時は邪悪樹っていうボスに育ったところもあったけど……。もしボス戦になって人が必要だったらぜひ声かけてね」
「いいんですか?」
「ええ! 勿論!」
邪悪樹になった時の戦力確保だ! これは心強いぞ。そんなことを話していると、うちの子たちが出迎えてくれる。
「ムム!」
「ただいま」
「ポコ!」
ブンブクチャガマはすでにうちの子たちと打ち解けているようで、端にチョコンと並んでいる。アリッサさんがそれを見て目を輝かせた。
「あの可愛い子が妖怪ブンブクチャガマね!」
「はい」
「なるほどマーカーがNPC扱いか」
そうなのだ。うちの子たちとは頭のマーカーの色が違っている。NPCと同じ色だ。やはり、テイムモンスではないのだろう。
アリッサさんがしゃがみ込んで握手をしたり、ハーブティーを渡したりしているが、それで友誼が結ばれることはなかった。
「簡単にはいかないか~」
そのままアリッサさんを納屋に案内すると、期待通り茶が湧いていた。
名称:ヘソで沸かしたお茶
レア度:3 品質:★10
効果:10分、招福効果によって、戦闘以外の全ての確率が上方修正される
「す、すごいわねこのお茶! 戦闘行動以外での確率に補正が入るってこと? 生産とか? しかし、期せずして招福の効果がわかったわね」
「そうっすね。この説明の通りだとしたら、俺の招福も同じ効果ですよね?」
「多分そうだと思う。予想できる効果としては、生産中の成功率が上昇して、失敗率が下がる。あとは従魔の卵が生まれやすくなったり、いい従魔が生まれやすくなったり?」
「なるほど! 従魔関係か!」
招福は目に見えて効果は実感できないだろうが、長い目で見れば色々と得をするスキルっぽかった。
「茶釜は、水で満タンにして、2杯分のお茶が採れるみたいですね」
「さすがにそれを飲ませろとは言えないわね。あまったらぜひ売ってよ。高く買うから」
「まあ、あまったら、ですね。それに生産には有用そうですから、うちの子が飲めるなら確保しておきたいですし」
「そうよねー。でも、これで色々と面白い情報が得られたわね」
アリッサさんはかなり満足してくれたらしい。帰り際、情報料として俺に5万Gを渡して去って行ったのだった。安くてゴメンと謝られたが、5万で安いって……。
妖怪の情報とは言え、他の人がゲットするのは難しいわけだし、スキルも同じだ。その情報で5万はむしろもらい過ぎだと思うけどね。
次話から4日に1度の更新となります。




