215話 時間経過塗料の真の使い道?
神聖樹に関して目ぼしい情報を得られなかった俺は、次にペイントツールの情報に関して尋ねてみた。
「ペイントツールの、時間経過塗料に関して、情報は有りませんか?」
「あれ? 使い道が分からない感じ?」
使い道が分かっているような口振りだな。俺よりも先に来た人がこれの情報も売っていったらしい。妖怪の情報だからちょっと高く売れるかもしれないと期待してたんだけどな……。残念。
まあ、こういうのは早い者勝ちだから仕方ないけどね。でも、他の人がどんな妖怪を手に入れたのかは気になる。聞いてみようか。
「ちなみに情報を売りに来た人は何に使ったんですか?」
「うーん、ペイントツールを購入したと思われる人は全員が情報を売買に来ててね。ユート君がラストなんだけど、全員が時間経過塗料の使い道の情報を売っていったわね」
「へえ。じゃあ、最初に来た人は?」
「最初に来たのが画家プレイをしてる有名プレイヤーなんだけど、NPCの好事家から購入した壺に使用したら、骨董品に変化してレア度が上昇したんだってさ」
「うん? それだけですか?」
「それだけって……。かなり凄いことよ? だって好事家から20万で買った壺を、その好事家が200万で買い戻したいって言ってきたらしいから。買値が20で売値が200とすると、価値的にはもっと上昇してるんじゃないかしらね?」
「いえ、妖怪化はしなかったんですか?」
「はい? 妖怪化? どういうこと?」
あれ? アリッサさんが妖怪の単語に妙に大げさに反応してるけど……。妖怪の情報は仕入れてないのか?
「ペイントツールの情報を仕入れたんですよね? 妖怪の情報は仕入れてないんですか?」
「よ、妖怪ですって? 忘れて! さっきの言葉は全部忘れてちょうだい!」
「は、はあ」
急に大声で叫んだアリッサさんは、顎に手を添えて何やらブツブツと呟いている。
「油断してたわ……。相手はユートくんだった。まともな情報だけを売りに来るわけないじゃない。レイドボス戦と同じくらい、気合を入れなきゃダメよアリッサ」
「あのー」
「あ、ごめんなさい。ちょっと気合を入れ直してただけだから気にしないで?」
「じゃあ、えっと他の人はどうなんですか? 俺以外にもペイントツールの情報を売りに来た人がいるんですよね?」
アリッサさんに詳しい話を聞くと、俺以外の人は骨董品に対して時間経過塗料を使用し、価値を上昇させただけで終わっているようだった。
どれも骨董的価値が付加されただけで、特殊な効果が生まれたりはしていないらしい。ということは、全てが妖怪化するわけじゃないのか……。でも高額で売れる方がありがたい人もいるだろうし、妖怪よりもそっちの方が良いって言う人も多いだろう。
「そ、それで? ユ、ユート君の場合はどんな感じなのかしら?」
「俺の場合はこれですね」
「動画?」
「ええ、これを見てください」
俺は説明の前にとりあえずブンブクチャガマの動画を見せてしまうことにした。百聞は一見に如かずって言うしな。見せたのは、タヌキが曲芸を踊った時に咄嗟に撮影してしまった動画である。短いが、姿形はバッチリ撮影できているはずだ。
アリッサさんは、俺が表示したタヌキの曲芸動画を食い入るように見つめている。
そして、見終わった瞬間、詰め寄って来た。アリッサさんのこの反応にも大分慣れたので、もう驚かんぜ? まあ、ちょっと腰が引けるのは仕方ないよね? だって、毎回アリッサさんの目が怖いんだもん。
「これ! ユート君の畑の納屋よね?」
「よく覚えてますね」
「花見の時に見たばかりだしね。それで、このタヌキは何? テイムモンスなの? それで、この動画とペイントツールにどんな関係があるの? ねえ!」
「お、落ち着いてくださいって! ちゃんと説明しますから!」
前言撤回。全然慣れてませんでした。
「えーとですね、最初に、ペイントツールで椅子なんかをペイントしてレトロ家具を作って遊んでたんですね」
「それを遊びって言えるのがユート君よね……。それで?」
「で、ペイントツールに入っていた、時間経過の塗料だけ減ってないことに気が付いたんですよ」
「なるほど。時間経過塗料は何にでも使える訳じゃないって言う情報は本当みたいね」
俺の言葉に、アリッサさんが納得している。この辺の情報は知っていたらしいな。
「で、時間経過の塗料が使える物は何かないかと、所持品を片っ端から調べたわけです」
「それはご苦労様」
「いや、まじで大変でしたよ? ただ、その苦労に見合う成果はありました」
「あのタヌキね?」
「はい」
俺はアリッサさんに、オークションで落札した茶釜に時間経過塗料を使用すると、妖怪化したことを語った。その際に時間経過塗料を全て使い切ってしまったこと、ブンブクチャガマとは戦闘をしなかったことなども、語る。
「オークションの茶釜! なるほど! じゃあ、オークションに出品されてた他の和小物にも、可能性あるかしら?」
「もしかしたら、ですけど。でも、オークションに出品されてたペイントツールの時間経過塗料はもう全部使われちゃったんですよね? それとも、入手先に心当たりとかあります?」
「分からないわね~。だって、レア度6よ? 普通に考えたら、10エリアくらい先に行かないと無理なんじゃないかしら?」
レア度6というのはやはり破格なんだな。この辺では材料すら集まらないようだった。
アリッサさんも、手に入らない物は仕方ないと切り替えたらしい。すぐにブンブクチャガマについて質問をしてきた。
「それで、その妖怪はどんな感じ? 戦闘は必要ないのよね?」
「はい、妖怪化したら、それで友誼を結んだことになったみたいですね。戦闘は有りませんでした。で、その後にスキルが解放されたというアナウンスがありましたから」
「そのスキルって?」
「そのことでも情報が欲しいんですよ。解放されたスキルは、曲芸、茶術、招福の3つでした」
「曲芸以外は聞いたことが無いわね……」
あー、アリッサさんでも知らないスキルか。
「曲芸は、いくつかの職業で確認されているわね。踊りと似ていて、バフ効果があるわ。あと、レベルが上がると、ナイフ投げみたいなこともできるようになるそうよ」
やっぱバッファー系スキルか。それにプラス、曲芸っぽいことを戦闘に応用可能と……。うん、俺には必要ないな。
「茶術はどうです?」
「想像もつかないわ……。でも、似たスキルで鉄板術っていうスキルがあるの」
「鉄板術?」
「ええ、料理系のスキルで、専用道具で鉄板焼きを作っている時に使えるって言う、すっごく範囲の狭いスキルなんだけど」
ステーキハウスや鉄板焼き屋で、シェフが鉄ヘラなんかを使って曲芸のような事をするパフォーマンスがあるが、あれを再現するスキルであるらしい。しかも単なる曲芸ではなく、これによって作られた料理には特殊なバフ効果が付いたり、効果や品質の上昇効果などがあるそうだ。
「つまり、それのお茶版? 茶芸に近いのかな?」
「かも知れないわね」
別に茶を淹れながらの曲芸やパフォーマンスに興味はないが、品質上昇には魅かれるものがある。
「でも、ハーブティーしかない現状で、どこまで役に立つかは疑問ね」
「ですよねー」
そうなのだ。ハーブティーの品質が多少上昇したところで、何の意味もない。バフが付くなら少しは考えてもいいが、どうも絶対にそうだとは限らないようだし、茶術を取得するのはもう少しお茶の種類が増えてからだろう。
「出遅れテイマーのその日ぐらし」、今後の更新につきまして。
忙しさとの兼ね合いや、プロットが尽きてしまったことなどもありまして、217話からは4日に1度の更新にさせていただきたいと考えております。
申し訳ありません。
活動報告にもう少し詳しいご報告を掲載しておりますので、詳しいことを知りたい方はそちらをご確認ください。




