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210話 シークレットアイテム


 もうオークションもほぼ終わりだな。


「うーむ。軍資金が余った。こんなことなら卵にもっと入札しておけば」


 カタログの商品がすべて消化された時、そう呟かずにはいられなかった。後悔しても後の祭りだけどね。いやー、オークション、なかなかに手強いぜ。


 少しだけ落ち込みながら、グーっと背中を伸ばす。多分、転送されてきたときとは逆に、元いた場所に送還されるはずだ。


 そう思っていたのだが、いくら待っていてもオークションの終了は宣言されない。


「どうしたんだ?」

「サーバー順で転送されるんじゃない?」

「こ、これはまさか――ログアウト不可になってないよな?」

「ラノベの読み過ぎだ」


 他のプレイヤーもそれに気づいてざわつき始める。すると、未だに壇上にいたオークショニアがおもむろに口を開いた。


「皆様、これからカタログには未記載のシークレットアイテムが登場いたします! どれも大変にユニークな商品となっておりますので、ふるってご入札ください」


 なんと、カタログ未掲載の特別な商品があったらしい。おー、さすが運営、わかってる! これでこそオークションだよな!


 いや、リアルのオークションではありえないんだろうけど、ここはゲームの中。かなりの数のプレイヤーがこの展開を予想というか、期待していたはずだ。


 俺以外のプレイヤー達も、目を輝かせて席に着席したからね。俺もワクワクしてきたぞ。


 会場が落ち着くのを待っていたかのようなタイミングで、商品が運ばれてきた。


「まずはこちら!」


 台の上に置かれているのは、一本の剣であった。磨き抜かれたステンレスのように、ピカピカと銀色に光る、美しい剣だ。も、もしかしてあれか? ファンタジー作品においてオリハルコンと並ぶ希少金属の代名詞。ミスリルなのだろうか?


「こちらはマジックシルバー製のショートソードとなります!」


 どうやらミスリルではなかったらしい。ただ、会場はかなり騒めいている、周囲の言葉に耳を澄ませてみる。おあつらえ向きにちょうど目の前に剣士風のプレイヤーがいるのだ。


「まじか……あれって、銀の先にあるって言う金属だろ?」

「おう。第8エリアから来たっていう設定の冒険者NPCが所持してたらしい」

「おい、性能が表示されるぞ」


 なるほど、先のエリアでしか手に入らない武器ってことか。かなり強いのか? だが、ウィンドウに表示された武器の性能は大したことが無かった。


 いや、強いことは強い。だが、ここまでで出品されていた武具とそこまで変わらない。レアリティは5と高いが、それだけに思える。しかし、そう思ったのは俺だけだったらしい。


「軽いな……。それに属性が付いてる」

「耐久値も高いぞ」

「空きスロットも2つ。かなり強力だ」

「それに、受け強化が付いてる。地味だが有り難い効果だ」

「しかも魔法攻撃力が杖並みに高い」


 これまで出品されていたのは、尖った能力が付加されたユニーク武器が大半だった。だが、あのショートソードは素の状態でそれらに並ぶほど強く、さらに空きスロットがあるので好みの強化も可能ということらしかった。


 火属性付きな上、敵の攻撃を受けた際のダメージを軽減する受け強化効果もある。魔法攻撃力が高いので魔法も強化される。さらに鉄製の剣の半分以下の重さなので、より重く硬い重装備を身に着けられる。


 守り重視の前衛であれば、喉から手が出るほど欲しい装備であるらしい。


 シークレットというには地味だと思ったが、剣士たちはかなりテンションが高かった。だが、すぐにその熱気が静まってしまう。


「最初は40万Gからです!」


 たか! 高すぎるよ。いや、でも2エリア先の装備となれば、それくらいはするのか? それにオークションに出品されているとなれば、もしかしたらその中でも高性能な品である可能性もある。


 ほとんどのプレイヤーは競りに参加することさえ出来そうもなかった。でも、逆に言えば買えるのはお金持ちの前線プレイヤーばかりという訳で、ある意味相応しい相手の手に渡りそうな気はするね。


 すぐにマジックシルバーの剣の競り合いが始まった。ガンガン値段が上昇していくな。最終的には110万で落札された。剣一本が110万か。まだ何品か出て来るみたいだけど、落札は難しいかもしれん。まあ、期待せずに見ておこう。


 その後は、マジックシルバー製の盾、神聖樹と邪悪樹の枝で作った弓、属性結晶を複数使って作られた杖など、豪華な装備たちがいずれも100万前後で落札されていく。


 属性結晶の杖はちょっと興味あったんだけどね。一気につり上がっていく値段に付いていけなかった。いや、無理すれば買えたかもしれない、軍資金は100万と決めてるけど、手持は140万くらいはあるのだ。だが、戦闘メインでもない俺が杖に100万オーバーは宝の持ち腐れ過ぎる。ここはきっぱり諦めよう。


「次は……なんだあれ。画材?」


 運ばれてきたのは、どう見てもペンキや刷毛、筆と言った、画材一式だった。ペインターという職業もあるから、そっち用の道具だろうか?


「お次はインテリア、ホームホブジェクト用の、ペイントツールです! 特にこちらは汚しに特化した顔料をご用意しております! この顔料でホームオブジェクトを塗装すれば、あっと言う間に100年の時を経たかのような、味のある色合いを出せることでしょう!」


 へー、そんなアイテムもあるのか。インテリアやホームオブジェクトをあえて古めかしいレトロ感のある色にできるってことか。


「ちょっと面白そうだな」


 サクラが作った家具類をレトロ家具風に見せたり、納屋をもっと味のある風合いにイメチェンできるかもしれない。うん、それはすごくいいぞ。


「最初は20万Gから!」


 よし、買っちゃおう! シークレットアイテムに入札もしてみたいしね。


「22万……と」


 とりあえず慎重に22万で入札してみる。すると即座に25万で返された。うむ、他にも俺と同じ考えの人間がいるのかもしれん。だが、諦めないぞ。


 30万で返した。35万で返される。なんの、40万だ! しかし、45万で即座に上書きされてしまう。


「45万……どうすっかな~」


 この時点で赤虎の卵を超えてしまったんだけど。卵を諦めて、インテリアの塗料をもっと高額で落札って……。そう思って悩んでいたら、20メートルほど離れた場所にいたプレイヤーが、勝ち誇った顔でこちらを見ているのが分かった。


 どうやらあの男が競りの相手であるらしい。なんで俺だって分かったのかと思ったが、ちょっと声を出してたし、それで気付かれたのだろう。


 なんかムカッと来たぞ。もう勝ったと思っているな? いいだろう。その挑戦、受けた!


「50万だ」


 わずかに時間が空いて、56万で返って来る。俺はそれに65万で被せてやった。しかし敵も諦めない。一気に10万載せて75万の反撃だ。やるな! でも俺はまだ戦えるぜ。10万返しで85万でどうだ!


 すると、こっちをチラ見していたプレイヤーが、ガクリと肩を落としたのが見えた。


「ではこちら! 85万Gで落札されました!」


 よっし! 勝利だ! まあ、軍資金はほぼ全て使い切ってしまったけどね!




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