206話 見てこい
「じゃあ、本題に行きますか」
おっと、すっかりカルロへのリベンジに気をとられてた。こいつ、情報料の受け渡しに来たんだったな。
少し待っていると、カルロからお金が譲渡される。ただ、額が変だった。25万のはずだったんじゃないか?
いや、もしかしたらそれ以上の額になるかもしれないって言う話だったが――。
「50万も送られてきてるぞ?」
このセリフ、アリッサさんにも言った覚えがある。でも今回はさすがに間違ってるよね? そう思ったら、間違っていないらしい。
だって、俺が提供した情報を売った売り上げの1割って言う話だったよね? つまり、500万Gも売れたってこと? 1人2万G分の情報を買ってたとしても250人に売れた計算だぞ?
驚いていたら、実際にそれくらい売れているらしい。あと、今日のチェーンクエストや、ドリモのステータスデータの様な新情報の代金も含んでいるんだとか。
そう言えば、そっちの代金も受け取ってなかったわ。色々あり過ぎてすっかり忘れてた。酔拳とか、霊桜の小社とか、気になることが多すぎたからね。
でも、今日の情報料を含めていても、スゲー高いと思うけど……。まあ、もらえる物は貰っておくか。
元から持っていた分と、霊桜装備をプレイヤーに売った代金。さらに今カルロから譲渡されたお金を全部合わせたら、手持ちが170万Gを超えてしまった……。
「え? なにこれ」
「白銀さん、メッチャ金持ちですね。でも、明日はオークションだし、ちょうど良かったんじゃないですか?」
「そうだな。あまり本格的に参加する気はなかったけど……」
掘り出し物があればいいなー程度の感覚だったのだ。
「でも、これだけ手持ちがあるんだし、ちょっと頑張ってみるかな」
「その意気ですよ。そもそも、うちのクランから支払った分だけでも、プレイヤー内ではトップクラスの富豪になったはずですからね」
1番と言いきらなかったのは、前線プレイヤーにはこのレベルの金持ちがいる可能性があるからだろう。毎日朝から晩まで最前線の高額素材をゲットして売りまくっていたら、100万G程度の資産は溜まっていてもおかしくはないらしい。
逆に言えば、前線プレイヤーじゃないのにこの金額を所持しているのは俺くらいだろうという話だった。
「うーん。これはマジでオークションでレアアイテムをゲットするチャンスかもな」
これは明日のオークションが楽しみになって来たぞ。どんなアイテムが出品されるだろうか。ただ、クランやパーティ単位で欲しいものを狙って来る人たちもいるだろうから、このお金で好きな物全部ゲットとはいかないだろうけどね。
「あ、そうだ。もう1つ、サブマスから白銀さんに教えろって言われてる情報があるんですよ」
「そう言えば、アリッサさんそんなこと言ってたな」
「ああ、情報料は必要ありません。これも報酬の一部ってことで」
「それはありがたい。で、どんな情報なんだ?」
わざわざアリッサさんが耳寄りって言うくらいだから、かなり面白い情報なんだろう。オラ、聞く前からワクワクして来たぞ!
「実は、始まりの町でハナミアラシ以外の妖怪が発見されました」
「え? まじ? もう?」
「はい。ついさっきですが」
どうやら、妖怪関係のアナウンスが流れた直後から、多くのプレイヤーが妖怪探しに熱を入れ始めたらしい。まあ、ここまで大量のプレイヤーが1度に盛り上がるのは、お祭り騒ぎに乗せられた一過性のものだそうだが。
「でも、それで発見したプレイヤーがいたんだな。どんな妖怪だ?」
「見つかったのは妖怪スネコスリです」
「スネコスリ……?」
聞いたことがある様な、ない様な……。カルロ曰く、猫顔のフェレット系妖怪らしい。
「……まあ見てみれば分かるか」
「いやー、今は無理だと思いますよ。僕が出現ポイントの様子を見に行かされた時には、すっごい数のプレイヤーで溢れかえってましたから」
「カルロ、見て来たのか?」
「はい。もう何百人待ちなんだってくらい、長蛇の列が出来てました」
カルロが身振りを交えて教えてくれる。
「でも、もう空いてるかもしれないよな?」
「え? いやあ、さすがにあの人数が消えるにはしばらく時間がかかると思いますよ」
「まあまあ、分からないじゃないか。だからちょっとカルロ見てこい」
「はい――って、白銀さん、そのネタ知ってる人でしたか」
カルロに出会ってからずっと、言ってみたかったのだ。
「知らいでか」
「僕、元ネタを知らないんですよね。だから知ってる仲間に毎回「カルロ見てこい」って言われたり、逆に絶対に見に行くなって言われたりして大変なのに、あまりピンとこなくて」
「あー。古い作品だしね」
カルロを偵察に行かせるとか、超絶死に戻りフラグだもんな。むしろ本人が知らんことに驚いたぜ。
「ともかく、スネコスリは今のところ多くのプレイヤーが殺到しているようなので、すぐにゲットするのは難しいかもしれません」
「まあ、仕方ない」
陰陽師の解放とか、色々なことのトリガーになってるみたいだし。ハナミアラシではロマンスキル酔拳などが解放されたが、スネコスリはどうなんだ?
「ああ、スネコスリゲットで解放されるのは、職業が陰陽師。スキルは念動です」
「それだけ?」
「やはり、レイドボス級のハナミアラシと、戦闘無しで簡単に仲間にできるスネコスリでは差があるみたいです」
「それはそうか」
俺はカルロと別れた後、とりあえずスネコスリを仲間にできるという草原に行ってみることにした。そこにはプレイヤーの長蛇の列ができている。皆が草刈クエストを受注して、わざわざやって来たのか……。
「これは無理だろ」
「キュ」
「まあ、俺たちはハナミアラシを解放したし、焦ることないよな。スネコスリはもう少し落ち着いてからゲットしよう」
ただ、1つ試しておきたいことがあった。
「ボーナスポイントを消費して……よし」
取得したのは妖怪知識、妖怪察知の2つだ。知識に2ポイント、察知に2ポイント必要だった。
「これでどう感じられるか……おお。なるほどね」
ステータスウィンドウに妖怪が付近に存在しますという表示が出た。
『妖怪が付近に存在します』
さらにアナウンスも流れる。このまま離れてみると、門の近くまで遠ざかると、表示が消え去った。そのまままたスネコスリのいるという草むらに近づくと、表示とアナウンスが流れる。
「これで妖怪探索を取得するとどうだ……? ついでに妖怪懐柔も取得しちゃおうかな。レアなスキルみたいだし」
探索、懐柔、ともに8ずつポイントが必要だったが、俺なら問題なく払える。この2つを習得してもまだ29も残るのだ。
「探索を使うと……。お、こういうことね」
察知は近くにいるかどうかを教えてくれるスキルだったが、探索はマップに青くて小さい四角が表示されていた。いや、マップが広いので点に見えるが、実際はかなり広い範囲だろう。どうやら妖怪が存在するエリアを教えてくれているようだ。
ただ、スネコスリが出現する草むらは、この青色で囲われたエリアの端の方だ。出現エリアの情報を表示するだけなので、その中心に妖怪がいる訳ではないのだろう。
それでも、察知と探索があれば、妖怪を探すのがかなり楽になる。これは面白いスキルをゲットしたな。
不満を上げるなら、髪の毛がピーンと立ったりしないところか。もしくは甲高い父さん声で場所を教えてくれたりしてもいいのにね。
「ま、今日は妖怪よりもランクアップだ」
「フム?」
「ルフレのためにも頑張らないとな」
「フムー!」
今週はちょっと忙しいので、3日に1度の更新になります。




