202話 二次会と酔拳
「終わりました?」
「ああ、待たせたな」
やらかしさんが去って行った後、声をかけてきたのは再びのコクテンだった。実はこの後、酔拳を実演してもらうことになっていたのだ。お酒は俺もちで。
「まあ、酒をがぶ飲みして酔うっていうのも風情が無いし、もう少しお花見延長ってことでどうだ?」
「いいですね~」
桜の木の前で、コクテンたちとともにしっぽりと酒を楽しむ会開催だ。一気飲みをしたりせずに、チーズなどをつまみながらちびちびと酒を飲む。
すでにゲーム内では日が落ち始めており、空は茜色に染まっていた。桜の木も、差し込む夕陽の光によって真っ赤に染まり、まるで燃え上がっているかのようだ。
「はあー! いいですねー桜」
「リアルじゃこのシチュエーションは中々ありませんよ!」
「だいたい、職場の花見以外じゃ行かないですもんね~」
「そうそう。そもそも、どこ行っても馬鹿みたいに人人人だからな」
コクテンたちも気に入ってくれたらしい。車座になってお酒を飲みながら、陶然とした顔で美しい夕陽桜を見上げている。彼らも現実の花見には色々と思う所があるらしい。
コクテンの仲間が何やらスクショを見せて来る。なんとさっきのボス戦だ。彼の知人が野次馬の中にいて、撮影していた物だという。普通はホームの中は撮影できないんだが、ボス戦の最中はボスフィールド扱いで、スクショが可能だったようだ。そう言えばやらかしさんも、そんなこといってたもんな。まあ、勝手に掲示板などに上げるんじゃなければ別にいいけどね。
「あれ、この辺のプレイヤー、変な動きしてるな? 酩酊でもなさそうだ」
「ああ、それは加重ですよ」
加重というのは、体が重くなり動きが制限されるという嫌らしい状態異常だ。どうやら酩酊にならない若いプレイヤーたちは、代わりに加重状態にされたらしいな。
俺やモンスは酩酊になるから全然気付かなかった。確かにツヨシたちは酩酊になれないし、異常なしだと若いプレイヤーたちが優遇され過ぎるか。
「フム~」
「おお、皆もお疲れ様」
「ム!」
ルフレやオルトたちもやってきて、一緒に桜を見上げる。
「フム~」
「トリ~」
「留守番ありがとうな?」
俺にベタッとくっついて甘えてきたのは、ルフレとオレアの留守番コンビである。やはり寂しかったのだろうか? おつまみをとってくれたり、お酒を注いでくれたりと、とてもかいがいしい。
これで寂しさが紛れるならと、俺はオレアたちの好きにさせることにした、時おり頭を撫でてやりつつ、世話をされるがままとなる。コクテンたちはそれを微笑ましげに見ていた。
「トリ~」
ある程度スキンシップをとったら落ち着いたのか、オレアは俺の足の間にスッポリと挟まると、うつらうつらとし始めた。樹精タイプでも眠るんだな。
「フム」
「はいはい、ルフレもな~」
「フムム~♪」
オレアに対抗しているのか、ルフレは俺の左側に陣取ると、座りながら腕にしがみ付いてくる。
オルトたちは一緒にボス戦に参加したことで2人に遠慮しているのか、いつものように自分も撫でれ的な感じで突進してくることはなかった。
「ラ~ラ~♪」
ファウは宴会の時のような楽し気な音楽ではなく、ポロポロロンと静かで哀愁さえ漂う音楽を奏でていた。空気の読める娘だよ。
リックはそんなファウの真後ろで、自分の尻尾を枕にして寝そべっている。ファウは丸まっているリックに寄りかかって、リュートをゆっくりと爪弾いていた。その姿はやはりスナフキンぽいな。
「モグ」
「ドリモも初めてでいきなりレイドボス戦は疲れただろ?」
「モグモ」
ドリモは俺の言葉にニヤリと笑いながら、軽くサムズアップをして答えてくれた。お、男前すぎる! 他の子たちとは違っていて、新鮮な反応が面白い。
「頼もしいな。でも、本当にすっごい強くてかっこよかったぞ?」
「モグ~」
俺がさらに褒めると、ドリモは少し照れた様子で頭をかく。褒め殺しに弱いみたいだな。カッコ可愛いね。ドリモは当たりだった。いや、うちの子たちは全員当たりですけどね!
クママはちゃっかりとコクテンの仲間たちの間に座ると、お菓子やナッツをもらったりしている。クママファンたちに揉みくちゃにされながらチヤホヤされるのも好きみたいだけど、こうやって自分から甘えつつ静かに構ってもらうのも楽しいらしい。基本的にプレイヤーとのスキンシップが好きなんだろうな。
サクラとオルトは互いに背中を預け合い、ゴザの隅に腰を下ろしていた。2人とも目を閉じて、ファウのリュートに聞き惚れているみたいだ。リュートの音色に合わせて体をゆっくりと揺らしていた。
わいわいと騒ぐ宴会とはまた違い、静かな大人のお花見だ。これはこれで違った楽しさがあっていいな。
皆で2次会を楽しんでいたら、アリッサさんからメールが入っていた。農業ギルドで新たなアイテムが発売されているらしい。その名も雑木肥料。育樹がないプレイヤーでも、雑木を育てられるというアイテムだ。そのかわり生育は倍かかるらしい。
「俺にはいらないな」
でも、お花見イベントを起こしたいけど育樹が無いという人にとっては、素晴らしいアイテムだろう。アリッサさんたちも早速チェーンクエストに挑戦するそうだ。
30分後。コクテンがようやく酩酊状態に陥ったので、ついに酔拳の演舞の披露である。
「よ! 待ってました!」
「コクテン日本一!」
「ほら、オルト達も盛り上げろ~」
「ムムー!」
「フム~!」
俺やコクテンの仲間たちがヤンヤとはやし立て、オルトたちが手を叩いて場を盛り上げる。ファウのリュートもいつの間にかアップテンポの曲に代わっていた。
静かな宴会もいいとか言っちゃったけど、黙ったままでいられるのは30分くらいが限度だったね。
コクテンは桜の木の前に進み出ると、酔拳の構えをとった。体を前後左右にユラユラと揺らしながら、指を曲げた両手を前に突き出す。指は、まるでお猪口を掴む様な形である。
「ホアー!」
その体勢から、トリッキーな攻撃を繰り出して空を攻撃するコクテン。まんま酔拳だった。映画ファンが真っ先に想像する、あの動きだ。コクテンがアクションスターに見えて来たぜ。
「アタ~!」
「確かに酔拳といえばこの動きだけど、ここまで似せちゃっていいのか?」
そう思うレベルで似ていた。いや、ファンとしてはむしろ嬉しいけどね? 取得希望者が殺到しそうなスキルだった。俺も格闘系スキルを育てていれば……。
他には細剣術、打鞭術、鋼棍術の3種類が解放されたらしい。こういう一部武器に特化したスキルは使用できる武器などが少なく、汎用性に乏しい代わりに、剣術や槍術のような汎用系武器スキルよりも成長が早いんだとか。コクテンの仲間たちも取得していた。
いくら成長が早くても、辛くないのか? 武器を買い替えようと思ってもオーダーメイドしなくちゃいけないし、値段も高くなってしまうだろう。
そう思ったが、霊桜装備は性能が高くてしばらくは買い替えの必要はないらしい。現在の最前線で使われている装備品よりも、一段上の性能なんだとか。
装備に必要な能力が腕力じゃなければな~。俺も使えたかもしれないのに。
「まあまあ、嫌なことは酒を飲んで忘れましょう!」
「……そうだな」
「いやー、白銀さん良い飲みっぷりだね!」
結局宴会になってしまった。まあ、このまま飲み続けて夜桜を楽しむのも一興かな?
若いプレイヤーは酩酊にならないんじゃないかという疑問と、フレンドじゃなくても映像が撮影できたのかという疑問に軽く答えています。
本当はもう少し前の話で書くつもりだったんですが、作者がすっかり忘れてました。申し訳ありません。
作者のもう1つの連載作品「転生したら剣でした」のコミカライズ最新話がデンシバーズにて公開されました。
そちらもよろしくお願い致します。




