200話 霊桜の小社
とりあえず霊桜の小社を設置しちゃおう。これから用事がある人もいるみたいだしね。皆、早く効果を見たがっているだろう。
「えーっと……あれ、設置できないな」
1マスでいいみたいなのに、アイテム名が灰色に変化してしまい、選択することができない。ただ、色々と場所を変えて探ってみると、桜の木の目の前にしか設置できないらしかった。なるほど、霊桜の小社だもんな。
「じゃあ、設置しますね」
「うん。あ、ちょっと待って、撮影する」
「はあ」
アリッサさんたちがスクショなどを撮り始めたが、あまり気にしないでおこう。
「設置っと」
「「「おおー」」」
何かどよめきが上がった。どうやらホームオブジェクトの設置自体、初めて見るというプレイヤーも多かったらしい。ホームが無ければ意味ないからね。
「激レアのホームオブジェクトにしてはメチャクチャ地味だな」
それはその名の通り、小さい社であった。高さは俺の腰上くらいかな? サイズは、足を取った百葉箱くらいのサイズ感だ。四角い石の土台の上に、木製の質素な社が乗っている。いやいや、肝心なのは見た目じゃない。重要なのは効果だ。
「えーっと、効果はなんだ……?」
名称:霊桜の小社
効果:妖怪ハナミアラシが宿った社。1日1回、お供え物をすると色々と良いことあるかも?
「ふむ。お供え物ね」
もしかして、水臨大樹の精霊様の祭壇みたいな感じか? だとしたらちょっと期待できるんですけど。というか、期待しかない!
俺は取りあえずお社へのお供え物ということで、お酒を置いてみることにした。日本酒がベストなんだろうけど、今は店売りのワインで我慢してください。
「お供え物です。どうかお納めください」
パンパンと適当に手を打ってみる。さて、どうだろう?
ちょっと待っていると、社が淡く光り輝いた。そして、社の扉が開いて、中からピンク色のクリオネが現れる。
「「「おおー!」」」
いちいち外野が反応するな。いや、俺もあっちにいたら同じ反応すると思うけど。あと、全員がスクショを撮っている。撮ったところで何度か見返してデータ消すだけだと思うんだけどな。まあ、レアな物を目の前にして、撮影したくなる気持ちは分かるが。
「ハナミアラシか?」
間違いない。つい数分前まで激闘を繰り広げていた相手だ。
すると、現れた10センチほどのハナミアラシはそのまま社の目の前に置いてあったワイングラスに突進すると、自分の体と同じくらいの大きさのワイングラスに短い手でガシッと抱きついた。そして、一気にゴクゴクとワインを飲みだす。
ピンク色のクリオネがよりピンク色に染まったな。顔の部分は赤い。完全にほろ酔い気分だだろう。
「……え? これだけ? 良いことってなんだ?」
可愛い妖怪との触れ合いが良いことですとか言わないよな? でも、ハナミアラシは飲んだくれていて、何かが起きる気配はない。もしかして供えた物が悪かったか?
そんなことを考えていたら、ハナミアラシがピンク色に輝いた。そのまま光は強くなり、弾けるように放出される。その直後、桜の木を中心に桜吹雪が巻き起こった。とても綺麗な光景だ。なるほど、この光景を見られるのであれば、確かに嬉しいかもしれない。
だが、桜吹雪は単なる演出の一環でしかなかったようだ。桜吹雪がそのままピンクの光となってパッと弾け飛び、キラキラと俺に向かって降りかかったのだ。
「今の何だったの?」
「ちょ、ちょっと待ってください。そんな押さないでってば!」
興奮が抑えきれない様子のアリッサさんに急かされながら、何があったのかステータスウィンドウを開いて調べる。すると、インベントリに見慣れないアイテムが入っていた。
「霊桜の花弁? 5つ入ってますね。あと、ハナミアラシの怒り?」
「へえ、花弁の方は素材アイテムか~。でもこの名前、もしかして霊桜の薬の材料なんじゃない?」
「あ、なるほど」
アリッサさんが言う通りかもしれないな。これは色々と実験してみよう。まあ、毎日5つも手に入ればだけど。明日が楽しみだ。
「酩酊を回復する薬の素材が毎日回収できるってことよね? これまた欲しがる人が多そうな情報だけど……」
そんな話をしていると、アイテムのトレードなどを行っていたコクテンが声をかけて来た。
「あのー、白銀さんは霊桜装備を手放す気があるって聞いたんですけど?」
「あー、そうだな。俺じゃ装備できないし」
「もしよければ、欲しがってる人に売ったりしません?」
「別に構わないけど。むしろ有効利用してもらえるんなら嬉しい」
そう答えると、コクテンがそれぞれの霊桜装備の値段を教えてくれた。高いか安いか分からんけど、まあコクテンたちが算出した値段なんだし、適正価格からそう外れてはいないだろう。そもそも、装備できないアイテムが高額で売れるんだから、俺には得しかないしね。
ただ不思議なことに、霊桜の武拳がレアドロップである霊桜の重枷と同じ値段だった。霊桜の闘衣や細剣の倍近い値段だ。さっきドロップ比率を見せてもらったが、武拳のドロップ率が低いということもなかったと思うが……。なんでなんだ?
「ああ、それは解放されたスキルの関係ですね」
「あ、解放スキルももう情報をまとめたのか?」
「はい。前提条件の必要なスキルもあるようなので、全てを把握できているか分かりませんけど、一応リストがあります。で、その中にこのスキルがありまして」
「えーっと……酔拳? 酔拳って、あの酔拳か?」
「はい、細剣術とかもあったんですが、やはり酔拳の魅力には勝てず……。みんな取得したがってましたね。その結果として、酔拳の効果が上昇するらしい霊桜の武拳の価格が高騰ということに」
それはそうだろう。だって酔拳だぞ? ロマンがあり過ぎる! 俺的には形意拳と並ぶ、憧れの拳法の1つだ。正直、使う使わないは別として、取得できるなら取得したい。
スキルポイントを消費すればすぐに覚えられるのか? 慌ててスキル一覧を開いてみた。
「あ、白銀さんの解放スキルも知りたいんですけど、いいですか?」
「ちょっと待って、それも調べる」
24時間以内に取得可能になったスキルには★マークがつくので、調べるのは簡単である。いくつかあるな。だが、酔拳は含まれていなかった。
「酔拳、ない……」
「酔拳は格闘系スキルの上級か、3つ以上の格闘系スキルのレベル合計が50を超えている場合に取得可能になるみたいですよ?」
「コクテンは覚えたのか?」
「当然ですね」
羨ましい! 酔拳の能力を聞いてみると、なんと酩酊状態時にのみ発動するスキルであるらしい。酩酊状態が酷ければ酷い程、威力が上がるんだとか。まじで酔拳じゃねーか!
だが、俺の嫉妬オーラを知ってか知らずか、コクテンは俺のスキルはどうなのかと尋ねてくる。くそ、仕方ねーから教えてやるか! あーあ、酔拳羨ましい!
出遅れテイマーのその日ぐらし、200話到達です。
もうちょっと続くと思いますので、応援よろしくお願いします。
192話に以下の文章を追加しました。スクショを撮られるファウの体勢の説明です。
内股ぎみの状態で膝をリックの背に軽く乗せつつ、足でリックの体を挟んで体を支えているようだ。
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