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20話 雑草


 今日も、日の出直後に合わせてログインした。


 畑では薬草などが成長を遂げ、収穫可能となっている。ただ、残念なお知らせが1つあった。


「畑だと★5以上には育たないのか?」


 前日植えた種は★4の物だった。これまでの通り品質が2ランクアップしていれば、今日は★6の物が収穫できたはずなのだが……。穫れた作物は全て★5だった。


「なあ、オルト、原因は分かるか?」

「ムー」

「オルトのスキルが足りない?」

「ム!」

「ちょ、怒るなって! 冗談だから!」


 オルトはその場にしゃがむと、地面をペチペチと叩き始めた。


「もしかして土の問題とか?」

「ムム」


 頷くオルト。正解だったらしい。しかし土のせいなのか。


「土に原因があるんじゃ仕方ないな。ま、★5でもいいか。儲けは十分すぎる程出るんだし」


 それ以外の収穫と言うと、なんか謎の草が生えていた。どうやら1マスだけ空いていたスペースにオルトが植えたらしい。


「……雑草?」


 それはどう鑑定して見ても雑草としか表示されなかった。いやいや、何だこれ。花が付いているわけでもなく、バジルに似た緑の草が生えている。


「うーん。いったい何なんだろうな? 農耕スキルのレベル上げのために適当にそこら辺の草を植えてるだけなのか?」


 品質が★10という最高品質なのだが、雑草だしな。効果も何もないから、品質なんか何の意味もないし。扱いとしては石ころとかそういうのと同じカテゴリーなんだろう。


 それにしても、見れば見る程バジルだな。というか、これってバジルじゃないか? そう思ったらバジルにしか見えなくなってきたぞ。


「ふむ」


 俺は雑草を摘んで、口に含んでみた。毒があっても、これだけで死んだりはしないだろう。ゆっくりと咀嚼してみる。すると、俺は驚きのあまり一瞬固まってしまった。


「バジルじゃん!」


 この雑草、味が完璧にバジルだったのだ。バジルは昔プランター栽培をしていたことがあるので間違いない。フレッシュバジルその物だ。


「ええ? 何で? 雑草なのに?」


 俺はそのまま畑の外に生える雑草を引き抜いてみた。見た目はオオイヌノフグリ的な感じだ。それをそのまま齧ってみるが……。


「ぶへ! まっず!」


 雑草だった。青臭いし苦いし舌がピリピリするし、とても食えた物じゃない。データとしては全く同じアイテムなのに。何でだ?


『アイテム、雑草を栽培、収穫しました。条件を達成し、取得可能スキルが一部解放されました』


 首を捻っていたら、何やらアナウンスが響いた。どうやら、オルトが雑草を育てたおかげで何かの条件を達成できたらしい。スキル一覧に目を通す。すると、解放されて24時間以内の証である★マークの付いたスキルが1つあった。


「植物知識?」


 説明を見ても、この世界の植物についての知識としか書いていない。ただ、ここまでの流れで雑草を見分けるためのスキルなんだろうという事は想像できる。


「ふむ……必要ポイントが2か」


 所持スキルポイントは4だ。取得できるはできるんだが……。今後戦闘用のスキルを取るためにも残しておきたいんだよな。


 だが気になる。植物知識を取得することによって、雑草にも使い道が出るかもしれないし。何よりも、このまま謎のままにして置いたら気になりすぎてゲームに集中できないかもしれない。


「よし、取得しちゃおう!」


 そして植物知識を取得した。おお、雑草が雑草じゃなくなったぞ!


名称:バジルル

レア度:1 品質:★10

効果:なし。食用可能。


 名前が分かるようになった。効果もなしだけだったのが、食用可能の文字が追加されている。本当にバジルだったな。名前はバジルルだが、バジルと考えて問題ないだろう。


 興奮しつつ他の雑草も鑑定してみると、それぞれの雑草にきちんと名前があった。品質についてはほとんどが★6以上だな。バジルルも生えていた。オルトがバジルルの種をどこで手に入れたのか疑問だったが、始まりの町だったらそこらへんに生えているらしい。


 さらに鑑定をしまくっていると、面白い雑草を見つけた。


名称:チューリップ

レア度:1 品質:★7

効果:なし。観賞用。


 観賞用の文字だ。まあ、見た目きれいだしね。もしかして売ったりできるんだろうか? プレイヤーには見向きもされないかもしれないが、NPCに売れるかも? チューリップも育ててみるか? 俺は取りあえずオルトにチューリップを渡してみた。すると、オルトは花を俺に返し、球根を株分した。すると球根が2つに増える。株分け可能なようだった。


 にしても効果がなければチューリップでも雑草扱いなのか。だが、味や香りがあるなら、料理などに利用できるかもしれない。チューリップなら花瓶に差して観賞するとか? これは調べる価値があるだろう。


「余裕があったら雑草も育ててみるか。とりあえずバジルルとチューリップだ」


 単なる雑草から色々な発見があったな。


「よし、じゃあ、このまま今日の分を植えちゃうか」


 そして今日も実験タイムの幕開けだ! まずは初めて作る毒薬、麻痺薬、出血薬をそれぞれオートで作ってみた。やっぱり初級者用のレシピだけあって、簡単だな。


 今日も混ぜ方を変えてみたり、事前に下茹でしてみたりしたんだが、目新しい発見はなかった。それに、品質が高い素材はそれだけ扱いが難しいようで、思うように品質も上がらない。


 使っている素材が★5、★4の物だが、出来上がった毒薬、麻痺薬はそれぞれ品質★5、★4の出来だった。いや、十分品質は高いし、調合、料理のレベルも上がったから悪くはない結果かな? 料理の器具を使えば料理スキルのレベルが上がるという事が分かったのが、一番の収穫だろう。


 だが、実験はまだまだ終わらない。


「今日の助手は、ノームのオルト君です!」

「ムム!」

「おお、両腕を突き上げてやる気ですね」

「ムー」


 オルトの幸運を試してみようと思い立ったのだ。簡単な撹拌作業を任せてみる。オルトは楽しそうに擂り粉木を動かしているな。絵面は完璧に雑草遊びをする少年だが。子供の頃、そこらの雑草を集めてきてゴリゴリとすり潰し、謎の物体Xを作り上げた記憶が蘇る。確か漢方薬気分で友達の擦り傷に塗り込んで、あとで親に泣くまで拳骨を食らったんだった……。


「ム?」

「おっと、ノスタルジックな気持ちに浸っている場合じゃなかったな。どれどれ?」

「ムー」

「おお、ちゃんとすり潰せてるじゃないか」


 調合スキルを持たないオルトに手伝ってもらっても、作業は出来るらしい。ただ、期待していたような効果は得られなかった。むしろ生産スキルが無いせいで、品質が下がってしまったようだ。


「うーん。無理があったか」

「ムー……」

「落ち込むなよ。お前のせいじゃない。やらせたのは俺なんだし」


 今後は違う形で幸運を発揮してもらおう。とりあえず、今日作った下級ポーション、毒薬、麻痺薬、出血薬をアリッサさんの店に売りに行った。


「こんにちは」

「あ、ユートくんいらっしゃい。今日は何の用かな?」

「これを売りたいんですけど。お幾らくらいになります?」

「これって! 何この高品質! ど、どこで手に入れたの?」

「え? そんなに凄いですか?」


 俺みたいな初心者にとっては高品質だが、βテスターに驚かれるとは思ってもみなかった。


「そりゃそうよ! 毒薬の★5って言ったら、現在のトップ生産者並の品質よ? うちだって、★6までしか仕入れたことないし。それだって極僅かしか手に入らないんだから!」

「そ、そうですか」


 うーん。これは畑のことは言わない方が良いか? なんか大事みたいだし。畑が軌道に乗るまでは言いふらさないでおこう。


 それにしても、思ったよりほかの生産者の品質は高くないんだな。多分、腕前云々じゃなくて、素材の差だろう。オルトに感謝だな。


「まあ、色々ありまして」

「むー、まあいいわ。貴重なアイテムの入手ルートだしね。でも、これはうちに売ってくれるんでしょ?」

「そのつもりで来ましたから」


 この薬は、武器に振りかけることで一定時間武器に状態異常属性が付くというアイテムだ。正直、戦闘をしない今の俺には必要なかった。


「毒薬、麻痺薬、出血薬は★5が600、★4が350ってところね」

「え? メチャクチャ高いですね?」

「当たり前よ。品質が高ければ高い程効果も大きいし。このゲームはボスにも状態異常が効くからね。まあ、確率は低いけど。でも、高品質の物は状態異常確率も高いし、序盤のボス戦なら十分使えるから。攻略組は誰でも欲しがるわよ? しかも、★6以上になるとNPCの師匠クラスでも作れないから、金額が跳ね上がるわ。持ってない?」


 そうだったのか。ボス戦に毒とか麻痺が効くなら、そりゃ誰だって使うよな。序盤のという但し書きが付くようだが。


「じゃあ、下級ポーションの★5が650、★4が400。傷薬は、正直どれだけ品質が上がっても大して違いが無いわ。おまけしても、1つ50Gってところかしら」


 傷薬安いな。売らずにとっておこうかな。他は売っちゃっていいや。今はお金が欲しいし。


「それと、この緑の携帯食は、1つ10Gね」

「……まじっすか?」

「ええ。これ、ホレン草混ぜたやつでしょ? こんな激マズな携帯食、誰も買わないもの。時おり罰ゲーム用とか、我慢強い人が買って行くくらいで」


 この携帯食の悪魔のような不味さは広く知られていたらしい。うーん、でも俺だってもう食べないからな。いいや、売れるなら売っちゃおう。


「じゃあ、全部で4130Gになります」


 よし、ようやく畑でぼろ儲け計画が軌道に乗りそうだぜ。ふっふっふ、ニヤニヤが止まりませんなぁ! アリッサさんが変な物を見るような目で見ているが、この笑いはどうしても止められないのだ。


「おっと、マッピングに行く前に、乾燥させた毒草をチェックしとこう」


 道具箱に引っ掛けておいた草を鑑定してみる。だが、特に変化は見られなかった。ただの毒草と麻痺草、出血草だ。


「うーん、変化なしか」


 やはり、何かが足りないのだろうか。それとも、もっと長時間干しておかなければいけないか? まあ、もう数日様子を見るか。


「今日は北区でゴミ拾い&マッピングだな」


 北区はほとんど行ったことがない。唯一、ログインした日に北の平原へ向かうときに通っただけだ。


 ただ、地図を見る限り西、南と同じ作りだし、迷ったりはしないだろう。有用な雑草が無いか鑑定しつつ歩いていると、あっという間に時間が過ぎたな。


 昼過ぎにはマップの半分くらいは埋まっている。ただ、ちょっと疲れた。歩き詰めだったし、ずっとゴミと雑草を探すために気を張ってたからな。


「ちょうど小広場があるし、少し休憩していくか」


 何か面白い物は無いか、4つあるプレイヤーズショップを順番にのぞいてみる。


 最初の3軒は、アリッサやミレイの店と似ていた。薬や素材類がメインの店だ。だが、最後の店は少々特殊だった。


「このスクロールって、レシピか?」

「ソーヤの錬金術店にようこそ! お目が高いですね。その辺は薬のレシピスクロールですよ」


 店主は、一見すると中学生くらいの少年だ。まあ夏休みだし、中学生がプレイしていたっておかしくはないのだが。青い髪のショタエルフだ。うん、長い耳がファンタジー感たっぷりで、見てるだけでテンション上がるね。


「痛撃薬に、即殺薬? 物騒な名前のレシピだな」

「どうです? NPCのレシピショップと違って薬別に売ってますし、中々お買い得だと思いますよ?」

「うーん、名前と効果が分かってもな~。材料が無いし」


 ソーヤの店では材料の類は売っていないようだし。


「例えばこの痛撃薬レシピはいくらなんだ?」

「その辺は全部300Gです」


 安いか高いか、微妙なところだ。まあ、材料に目途が付いたらまたこよう。


「そうですか残念です」


 そう告げると、ソーヤ少年はシュンとした顔で呟く。うーん、ショタ好きのお姉さんには気を付けろと言ってやりたいね。

 

「じゃあ、また」

「はい、お待ちしてますね」


 さて、次はどうしようか。マッピングも良いんだが、ゴミ拾いもしなくてはならない。そして、重大なことに気づいた。


「そうだ! 水路のゴミ拾いをしないと」


 暗くなったら水路のゴミなんか見つけられなくなるかもしれない。昼間の内にやっとかないと。


「ただ、水路に入って大丈夫かな」


 まず、深さはどうなのか。川淵が浅いのは分かる。だが、真ん中がどうなっているのかが分からない。船が通るような水路ではないので、そこまで深くはないと思うが……。


 それと、目立ってしまうのもあまり歓迎できる事態ではない。ただでさえ称号関係で注目されているのに、これでドブ浚いの真似事を始めたらどんな風に噂されることか。


「うーん、でも、いつかやらないとならんし」


 悩んだ末俺は水路に入ることにした。とりあえず、現在地から近い北の水路の端から、中央広場に向かって水路を南下して行こう。


 噂は今更だ。噂したいならしやがれってんだ!


「よかった、大した深さじゃないぞ」


 最も深い中央部分でへそ程度か。ただ、緑マーカーは完全に水中に沈んでしまっており、近くまで行かなければ発見は困難だった。思った通り、夜に見つけるのは不可能だろう。


 結局、中央広場まで行くのに2時間以上かかってしまった。しかも、拾えたゴミは5つと少ない。その後、南と西の水路でゴミ拾いをし、最終的には16個のゴミを拾うことができた。やはり少ない。


 さらに、周囲の反応が痛かった。ただヒソヒソ話をしているだけなら、まだ無視もできる。でも、中には完全に俺だと分かって、ヤジを飛ばしてくる奴もいた。背負子のせいで目立つしね。


「おいおい、さすがに3死野郎は違うな。まさかゲームの中に来てまでゴミ拾いしてるなんてな」

「本当だな。さすが白銀!」

「ぎゃはははは、シロガネサイコー!」


 聞こえてないと思っているんだろう。好き放題言ってくれるな! だが、馬鹿にされているという事実よりも、もっと気になることがあった。


「シロガネって、俺のことか?」


 確かに、俺に与えられた称号は白銀の先駆者だったが……。まさか、異名っぽく「白銀シロガネ」という名前が広がっていたりするのだろうか? もしそうなら、噂が消えるのは俺が思っているよりも時間がかかるかもしれない。


「いやいや、あいつらだけだろう」


 そう思っていた時期が俺にもありました。

その後も、ことごとく俺を見てコソコソと囁き合う奴らの話に聞き耳を立てると、尽くが俺のことを「白銀」と呼びやがったのだ。


 俺=白銀シロガネ=面白称号=俺


 という図式だ。今は俺を知らないプレイヤーも、俺が白銀と呼ばれるのを見て、「ああ、あいつが面白称号の」となる可能性があった。


「……はぁ、ゴミ拾おう」


 うん、現実逃避だという事は分かっているんだよ? ただ、白銀と呼ばないでくれとか訴えたところで、面と向かって言われているわけじゃないし。逆に話題を提供してしまいそうだ。


「北区に戻ってマッピングするか」


 周りの雑音を気にしないようにしていたからか、むしろゴミ拾いに集中できてしまった。鑑定しまくっていたおかげで植物知識もLv3まで上がったし。そのまま俺は順調に北区のマッピングとゴミ拾いを完了させたのだった。


ネット小説大賞のホームページで、作者のもう一つの作品、転生したら剣でしたのラフ画が公開されました。興味のある方はご覧ください。

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― 新着の感想 ―
800話以上あるけど、最初から不愉快な展開が続くな……この先もこんな感じで続くのか。
なんか溜め展開なんだろうけど普通に不快度高いだけだな… 正式サービス開始直後のオンゲですれ違っただけの他人なんて見返すもクソもないし
この状況をわかってるなら、外見だけでも変えさせてあげなきゃ根本の解決になってなくない?運営さん。 そもそも誇れる称号じゃないのなら、外見の特徴からの称号にするなんてやめてあげて。
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