2話 初期モンスの実力
現在連載中の「転生したら剣でした」が、なろうコン最終選考を突破いたしました。
その関係で色々忙しくなると思いますので、こちらの作品に送っていただいた感想に対して、返信をする暇が無くなりそうです。
申し訳ございませんm(__)m
感想は全て読ませていただきますし、誤字脱字のご報告を頂ければその都度手直しをさせていただきます。
返信が無くても良いというのであれば、感想を送っていただけると嬉しいです。
ざわざわざわ。
チュートリアルをサクッと終えた俺は、赤いレンガの敷き詰められた、美しい広場に立っていた。広場の中心には全長20メートル近い巨大な時計が鎮座している。そこには、ゲーム内時間が表示されているはずだ。1月1日15時23分。ゲーム開始からすでに3時間半が経過しているのか。まあ、キャラ作成とチュートリアルにそこそこ時間をかけたしね。
俺と同じようなプレイヤーたちが、次々とログインしてきているのが見ることができた。
因みに、プレイヤーは異界の旅人と呼ばれ、NPCからすると転移の術でLJOの世界に旅に来ている冒険者という扱いらしい。
「よし。まずは、ステータスのチェックだな」
ステータスオープンと念じると、それだけで自分のステータスが脳内に浮かび上がってきた。あとは思考するだけで、選択やクローズアップができる。さすが最新鋭VRゲーム。
名前:ユート 種族:ハーフリング 基礎Lv1
職業:テイマー 職業Lv1
HP:12/12 MP:19/19
腕力:2 体力:2 敏捷:4
器用:6 知力:6 精神:4
スキル:採取:Lv1、使役:Lv1、従魔術:Lv5、調合:Lv1、杖:Lv1、テイム:Lv1、料理:Lv1、錬金:Lv1
装備:黒檀の杖、銀糸のローブ、獣使いの腕輪
持ち物:携帯食×15、下級ポーション、簡易調合セット、簡易料理セット、簡易錬金セット、蜜団子×5
所持金:3000G 満腹度:100%
所属ギルド:冒険者ギルド、獣魔ギルド
使役モンスター(1/3):ノーム
最初から複数の簡易生産セットがあるな。機能は最低限だが、序盤は重要な収入源だ。
「おお! なんか知らんけど感動するな。LJOやってるって感じだ!」
風が頬を撫でる感覚や、周囲の騒めき。僅かに感じ取れる草の香りなど、まるで現実のようだ。凄い再現度だな。
ちゃんと、ボーナスで取得した装備もある。
「よし、じゃあ、お前のステータスもチェックさせてもらおうかな」
「ム?」
ログイン時から俺の隣に寄り添うように立っていた、背の低い影。俺の初期モンスターに間違いない。
パッと見は童話に出てくる小人と言ったところか。茶色の服を着た、緑髪の、70cmほどの小人がそこにはいた。童顔で、愛嬌のある顔をしており、頭身の低い人間の子供にも見える。性別は不明な感じだな。
名前:オルト 種族:ノーム 基礎Lv5
契約者:ユート
HP:22/22 MP:26/26
腕力7 体力5 敏捷5
器用9 知力11 精神9
スキル:育樹、株分、幸運、重棒術、土魔術、農耕、採掘、夜目、栽培促成ex
装備:土霊のクワ、土霊のマフラー、土霊の衣
なるほど、確かに最初から名前が決まっている。ユニーク個体ってことか。まあ、Lvが5で魔術まで持ってるんだ、最初の町周辺で負けることはないだろう。装備は微妙な気がするが、戦国時代の農民はクワで戦ったんだし、戦闘もいけるにちがいない。
「しかし、ノームね」
βテスターによる事前情報の初期モンスターリストに、ノームの名前はなかったはずだ。多分、正式サービスでの追加モンスターなのだろう。なので情報が全くない。今後どう成長するのかも分からなかった。
能力から見るに魔術師タイプのモンスなのは確実だろう。
「ま、いっか。その方が楽しみが増えるし」
ただ、町の外でモンスターに間違われないか心配だ。いや、頭上にはプレイヤーもしくはプレイヤーの従者であることを示す青カーソルが出てるし、PK不可のLJOなら、そこまで心配もないか?
「RPGと言えば、まずは冒険者ギルドだよな。行ってクエスト掲示板を確認してみるか」
マップには、『始まりの町:南区』とある。冒険者ギルドは中央区にあるらしい。西南北の区画はほとんど同じ作りだ。NPCショップも同じものがあるらしい。
東区だけは、中央に巨大な湖と、森が存在し、水族ギルドや森林ギルドといったやや特殊なギルドがあるらしい。特に湖の畔に立つ200メートルを超える巨木はサービス開始前からスクショなどを通じて有名で、多くのプレイヤーは広場から見える巨木を見上げて、LJOにログインしたという事を実感しているだろう。俺も、現実では見たこともない程高いその木を見て感動を覚えている一人だ。
「巨木が見えるってことは、あっちが東だから、こっちだな」
マップを見ながら歩けば、冒険者ギルドは簡単に発見できた。
プレイヤーは最初から冒険者ギルドと、選択職業に関係したギルドに所属している。なので、冒険者ギルドは問題なく利用できるはずだった。
因みに、ギルドには最大で4つまで所属できるらしい。所属することでデメリットはないが、脱退するには基礎レベル×500Gが必要となるので、序盤の所属は慎重に選ばなければならない。
「広っ!」
冒険者ギルドはかなり巨大な建物だ。中も、城かと思うほどに広い。これなら千人以上のプレイヤーが同時に利用できるだろう。
「掲示板はあれか」
遠目からクエスト掲示板を見ると、ステータスウィンドウにクエストの一覧が表示された。
「ほうほう。薬草採取クエストね。いいね。これぞRPGだよな」
採集クエスト
内容:薬草系を5つ納品する
報酬:50G
期限:なし
早速一覧からクエストを選び、開始をタップする。これでクエストを受けたことになるらしい。便利だな。
薬草採取は、採取のスキルがある俺にとって、赤子の足をヒールホールドするよりも簡単なクエストだ。
「じゃあ、行くか。どうせなら、北の平原に出ちゃおうかな」
最初のフィールドは、町の外に広がる東西南北から選ぶことができるが、北の平原と南の森は、やや難易度が高い。逆に、西の森と東の平原は敵のレベルが低く簡単だ。だが、北と南の方が採取できる物も多いし、敵も経験値を多く持っている。なので、βテスターたちはさっさと北か南に向かい、踏破して次の町を目指すらしい。
それもいいかもしれないな。
「さて、ここから真の冒険の始まりだ。いくぞオルト」
「ムム」
オルトは俺の後ろをチョコチョコとついてくる。うん。可愛らしいじゃないか。やはり当たりを引いたかもしれない。
北の平原も美しかった。VRワールドとは思えない程リアルだ。草一本一本がキチンと表現されているし、土の匂いも感じられる。踏みしめる足裏から伝わってくるのは、川の土手などにも似た、土と草の感触だ。
俺は取りあえず薬草を探して歩いてみる。
「お、早速薬草発見!」
鑑定してみると、それは紛れもなく薬草だった。品質は10段階で最低だが。
名称:薬草
レア度:1 品質:★1
効果:HPを5回復させる。クーリングタイム10分。
「ふふん。簡単だぜ。このままサクサク薬草集めて、ついでにモンスターなんか狩っちゃおうかね?」
北の平原には沢山のプレイヤーの姿があった。中には、モンスターと戦闘しているパーティもある。最初のエリアは大量の新規プレイヤーに合わせて相当広く作られているらしいが、それでも結構な密度だ。
まあ、採集スポットはプレイヤー別なため、焦ることはないけど。モン〇ン形式と言えば分かりやすいだろうか。
俺は他のプレイヤーが出来るだけ少なそうな、マップの端を目指して歩く。だって、人が多すぎて冒険感が全然ないのだ。
そうやって次の薬草を探していると、早速目の前にモンスターが現れていた。
「ワイルドドッグか」
それは、序盤で最大の強敵と言われる、ワイルドドッグだった。適正レベルは、戦士職ならソロで3、生産系なら6とされている。俺たちは2人だし、オルトはLv5のユニーク個体だ。負けるはずもないだろう。
「よし、やってやるぜ。オルト、攻撃だ!」
「ムム! ムゥ!」
土の礫か? 足元から棘でも出るか? からめ手で落とし穴も良い。土魔術を見せてくれ!
だが、オルトの攻撃はそのどれでもなかった。
「ムムムム!」
オルトが、ワイルドドッグに突進していく。そして、拳を繰り出した。
スカ
「しかも避けられてるし!」
「ムー!」
「また避けられた! そうじゃなくて、土魔術使えよ!」
「ムム……」
「え? なんで首振ってるんだ?」
とかやってるうちに、ワイルドドッグが目の前にいた。
「速! ちょ、ま」
「ガウ!」
「おわー!」
噛まれた! 鋭い牙に足をガブッとやられた!
強い衝撃があった。だが痛みは少ない。ふう、ゲームで良かった。
いや、今はそんな場合じゃない!
今の攻撃でHPバーが2割ほど削れている。低いステータスでもこの程度のダメージで済んでいるのは、銀糸のローブのお蔭だろう。ローブなのに、覆っていない足まで防御力が上がっているのは、やはりゲームだな。
「オルト、何か魔術で攻撃しろ! くそ、あっちいけ!」
俺は杖を振るが、腕力が低すぎた。ワイルドドッグのHPは1割も削れていない。
「ムム~!」
オルトの攻撃方法は、やはり肉弾戦だった。
「せめて背負ってるそのデカいクワを使え!」
「ム~」
オルトがフルフルと首を横に振る。どうしても、土魔術は使ってくれそうもなかった。
「くそ」
俺はがむしゃらに杖を振る。だが、ほとんどダメージは入らない。それが分かっているのか、ワイルドドッグはカウンター気味に俺に咬み付いてきた。それだけで俺のHPは半減してしまう。
このままではヤバイ。
「そ、そうだ!」
ワイルドドッグはテイム可能なモンスターだったはずだ! うん、指定できる。テイムしちまえば心強い仲間だ!
「テイム!」
「ガウガウ!」
「ぎゃあ! やっぱ無理だよな!」
テイムは格上に対しては確率が下がるのだ。また、HPが減っているほど確率が上がる。格上でHPほぼ満タンのワイルドドッグ相手には、成功の確率は限りなく低かった。
「逃げるぞ! オルト!」
俺はワイルドドッグに背を見せて逃走した。その途中で、下級ポーションを取り出して、飲む。一気にHPバーが全回復した。
「よ、よし。このまま町まで――げぇ!」
「ガガウ!」
前方の茂みから飛び出したのは、もう一匹のワイルドドッグだった。戦場を大きく移動すると、再エンカウントが起きるのか!
「う、嘘だろ!」
「ガァッ!」
「ひぃ!」
ワイルドドッグに押し倒された。やばい、逃げないと! 相手を手で押しやって立ち上がろうとするが、押しのけることができない。くそ、腕力無振りのせいか!
「ギャウウゥ!」
「ガガウ!」
「うわ! 怖っ!」
もう一匹が追い付いてきた。そして、俺の首筋に思いきり咬み付く。
「痛い――くはない! でもチクチクするんだよ! これ、子どもだったらトラウマもんだからな、運営め!」
大型の獣二頭に咬み付かれる経験は、本気で怖かった。口の中まで忠実に再現されていて、リアルで犬嫌いになりそうだ。
そして、俺のHPバーは砕け散った。