185話 最初の参加者
思わずゴザに食いついてしまったが、本来は食材の買い出しに出てきたのだった。すっかりギャル男君とゴザ談議に話を咲かせてしまったぜ。なんと、ゴザを作るには木工の他に細工も必要らしい。なのでサクラには作れないのだ。残念。
「宴会だけど、何を作ろうか。あまり手の込んだ物は難しいよな。手軽にできて、かつ美味い物……」
さらに酒のつまみにもなってくれると嬉しいな。いや、食事と酒の肴は別々に用意した方が良いだろうか?
「キュ?」
「うん、木の実は美味しいけど、ちょっと違うな」
リックが木実弾用に渡してあった青どんぐりを取り出して俺に見せてくる。リックには御馳走なのかもしれんが、花見料理としてお客さんに提供するのはちょっとね。
「いや、待てよ……、案外美味しかったりするのか?」
「キュ!」
リックが手渡してくれた青どんぐりの殻を剥こうとしてみたが上手くいかない。仕方ないのでそのまま齧ってみる。
「ぶべぇ! ぺっぺ」
メチャクチャ渋い。これはそのままでは無理だ。クッキーやパンケーキに混ぜたらメッチャ甘くておいしいのに! 歯ごたえはナッツみたいなんだけど。
「ナッツ……。そっか、焼き豆ならナッツ代わりになるか?」
「キュ!」
「あれなら安いし、大量に生産できるぞ!」
「キッキュー!」
俺はイベント村に向かい、ソイ豆を入手することにした。ついでに川魚、チーズ、果物なども購入する。
イベント時には半分ほどの村人が闘技大会に行ってしまっており、店などの仕入れが滞っているという設定だったが、今では正常に戻っていた。特に魚や果物はイベントの時とは違って、制限が大分緩くなっている。今なら30人分の食材でも仕入れられるのだ。
「あとは北と東の町で酒や肉を仕入れよう」
「キュ! ポリポリ」
ソイ豆の存在を思い出させてくれたリックには、ご褒美として屋台で焼き豆を買ってあげた。大好物を前に食欲が大爆発しているようだな。焼き豆の入った袋に頭を突っ込んで、ポリポリと食べ続けている。俺が手に持つ焼き豆の袋から、リックのモフモフ尻尾だけが飛び出ている絵面だ。
「ポリポリポリポリ」
リックはソイ豆のことになるとアグレッシブになるよね。前も同じ事になった気がする。なのに従魔の心をくれる様子が無いんだよな……。
「いったい何が悪いんだろうな?」
「ポリポリポリポリポリポリ――」
1時間後。
俺は畑に戻ってひたすら料理をし続けていた。焼肉に焼き魚、ジュースなどのシンプルな料理ばかりだが、ルフレが発酵で作ってくれた新作調味料を惜しみなく使い、色々な味をご用意だ。
焼肉だけでも肉が3種類。さらにニンニク醤油、味噌、塩コショウ、ニンニクオリーブオイル、ハーブ塩の5種の味付けだ。きっと満足してくれるだろう。
「よし! 料理はこのくらいでいいな、次は会場設営だ!」
予定の時間まで30分くらいしかないからな。急がないと。
とは言え、そこまで大層な真似をするつもりはない。買って来たゴザを敷いて、テーブルと椅子を並べて、希望者にすぐに貸し出せる様に座椅子を重ねて置いておくだけだ。
「ゴザはどこに――」
「白銀さーん! こんにちわー!」
レイアウトを考えていたら、誰かに呼ばれた。そっちを見てみると、アメリアがもう来ているじゃないか。横には見覚えのある女性たちがいる。
「アメリアにマルカじゃないか!」
「お久しぶりでーす」
「どもども」
「ノーム増えたな」
アメリアがノームを3匹も連れていた。頭の上に乗せたウサぴょんを撫でつつ、ノームを紹介してくれた。
「でもこれで終わりじゃないから。オルトちゃんと同じユニーク個体も狙ってるから! いつかラビットとノームでパーティを組むの! ウサウサノームパーティだよ!」
どうやらラビットとノームの全進化ルートをコンプするつもりらしい。相変わらずだな。
そんなアメリアが連れてきたのは、イベント時に俺やアメリアと同じサーバーで戦った仲間で、クママ大好き魔術師のマルカと、そのパーティメンバーたちだった。
「人を連れてきてほしいって言ってたから! マルカたち連れて来ちゃった」
「白銀さん! クママちゃんはどこ!」
「え? あっちにいるけど」
「クママちゃ――ぐべ!」
マルカが畑に足を踏み入れようとして、変な声を上げた。鼻を撫でているな。
「なんか見えない壁がある!」
そう言えばフレンドじゃないとホームには入れないんだったな。忘れてた。あれ? だとすると他のフレンドたちが連れて来たプレイヤー全員とも、フレンド登録しなきゃいけないのか?
「あ、クママちゃんだ! クママちゃーん! お久しぶりー!」
「ク、クックマー!」
様子を見に畑から出て来たクママが、マルカのダイブを驚いた顔でヒラリとかわしている。まだフレンドじゃないから、タッチできないんだけどね。だが、地面にビタンと叩きつけられたマルカは、そのままカサカサとゴキ〇リっぽい動きでクママに這いよって行った。
「クママちゃーん……」
「ク、クマー……」
「うふふふー、おっきいクママちゃん、素敵」
「クマーッ!」
そのままうちの畑とは道を挟んで反対側の、壁際に追い詰められたクママに匍匐前進でゆっくりと迫るマルカ。首を左右に振ってマルカから少しでも遠ざかろうとするクママの声が、まるで「いやー!」って言ってるみたいに聞こえた。というか、クママだってマルカに会ったことあるだろうに。
「さ、触れない……うう」
なんか可哀想になっちゃった。俺は思わずマルカにフレンド申請を送ってしまっていた。どうせこの後登録するつもりだったし。そもそも、イベントではお世話になったし、あの時フレンド登録しておけばよかったのだ。
「これは……いいの? 白銀さん」
「ああ、それで心ゆくまでクママを愛でるといいさ。でも、あまりクママが嫌がるようなことは無しでな」
「分かった! ありがとう!」
そして、マルカが再びクママに飛びかかった。大きくなったクママに抱き付き、そのフカフカな手触りを全身で感じている。クママはもう逃げられないと悟ったのか、されるがままだった。
ちょっと早まったか? クママよ、すまん。というか、助けた方がいいか?
「あのー、うちのマルカがすいません」
「少しすれば落ち着くと思うんで」
「あ、このテーブルどこに運びますか?」
一緒にフレンド登録を済ませたマルカのパーティメンバーが設営を手伝ってくれた。クママ、もうちょっとだけマルカの相手を頼んだ。俺がクママの冥福を心の中で祈っていたら、新たな参加者が到着する。
「ユートさん、来たよん」
アシハナだった。
「ん? アシハナ?」
アシハナと言ったらクママが大好き。つまり、その視線の向く先は――。
「ああああ!」
時すでに遅し。アシハナはクママと、そのクママに抱き付くマルカを見て悲鳴を上げていた。




