179話 ロイヤルハニーベア
アミミンさんたちと別れた俺は、ポーションやアイテムを補充し、再びダンジョンを周回していた。
ソロに戻った直後がヤバかったけどね。どうしても気が大きくなっているので、引き際を見誤ってしまったのだ。いや、ブルーウッドの杖を入手し、オルトも進化して、実際に戦闘力はかなり上がっていた。なので、意外とサクサク進めてしまい、調子に乗り過ぎたのだ。
そして、あと1部屋だけ探索しようと先に進んだ結果、狂った土霊3体の落とし穴地獄に嵌まり死に戻りかけたのであった。逃走の玉が無かったら終わってただろう。本当にヤバかったな。
その後はいつも通りの調子を取り戻し、コソコソと慎重にダンジョンアタックを繰り返した。俺みたいなダンジョンアタックに慣れていると言い難いプレイヤーは、安全マージンを取り過ぎるくらいが丁度いいのだ。
むしろのんびり行こう。道中で休憩どころか、お茶会しちゃうもんね。そんな風にのんびりとダンジョンに潜っていたんだが、数回目の休憩時であった。
「クックマ~」
「おお、クママの好感度がマックスになったってことか?」
なんと、ハチミツジュースを飲み干した直後のクママから、従魔の心・クママを渡されていた。いやー、嬉しいね。クママに好かれているということもそうだし、実利的な意味でも嬉しかった。
現在のクママは、先程の中ボス戦でレベルが上がったこともありLv24だ。オルト達と同じであれば、あと1つレベルアップすると進化する可能性が高かった。
このままだとノーマル個体であるクママは普通の進化先しか選べないのではないかと思っていたのだ。別にそれでも構わないんだが、もし選べるのであれば特殊な進化をさせてやりたい。となると、好感度マックスで増える進化先が最有力候補なのだが……。
従魔の心がもらえずにここまで来てしまったので、もう無理かな~と思っていたのだ。休憩を多めにとって本当によかった! 確実にオヤツによる好感度上昇のおかげなのだ。
「クママにはどんな進化先があるんだろうな?」
「クマ?」
「できれば可愛いままでいて欲しいが、格好良いのもいいよな。クママはどっちがいい?」
「クックマ?」
「自分じゃわからないか」
「クマ」
なんて話をしていたのが、数時間前の事である。いやー、タイミングが合うっていうのは、こういうことを言うんだろうな。出現する1匹2匹のモンスを弱い者いじめの如く倒していたら、クママのレベルが上がったのだ。
「クマママ!」
「おお! やっぱりクママも25レベルで進化だったか!」
オルトが進化した時と同じく、クママの体が光り輝いている。
「えーっと、クママの進化先は2つだな」
モンスによって進化先の数は違う。オルトやリックは通常進化先が2つあったが、ハニーベアであるクママはサクラと一緒で通常進化先が1つしかないらしい。
「えーっと、こっちが通常進化先だろうな。バグベアか。ふむ?」
バグベアって名前にベアとは付くものの、熊とは全然別種の妖精じゃなかったっけ? たしかナマハゲっぽい奴だった気がする。いや、でも作品によっては熊っぽい場合もあるか? ともかく、このゲームでは熊の一種になっているらしい。
能力的に一番上がるのが腕力か。次に体力だな。スキルは、爪撃が上級になり、大食いが上位互換スキルである超大食いに変化する様だ。さらに、追撃というスキルを覚えるらしい。これは攻撃時に低確率で、追加ダメージが発生するというスキルだった。バグベアになると、戦闘力が重点的に強化されるんだろう。
そして、もう1つが好感度で解放された進化先だな。
「ロイヤルハニーベアか」
こっちでは体力と器用が上昇している。スキルも中々面白い。爪撃・上級はバグベアと同じなのだが、ロイヤルハニーベアは大食いではなく養蜂が上級となるようだった。さらに、追加されるスキルは昆虫誘引というスキルだ。
確率で虫系モンスターを魅了する効果と、モンスターではない昆虫と仲良くなることができるという効果を持っている。ロイヤルハニーベアは完全に養蜂特化だった。
「悩ましいんだが……」
養蜂で得られるハチミツの品質が上がれば、料理などの品質も上がるだろう。それに、バグベアって何となく怖い。普通に熊っぽくなるだけだったらいいが、もし伝承通りにゴブリンとかナマハゲチックな姿になったらと思うと……。いや、それでもいいんだけどさ。ただ、不気味な姿になってしまったクママを今までの様に愛せるかは分からなかった。
「よしロイヤルハニーベアだ!」
「クマ~!」
特殊な進化先でもあるしね。
名前:クママ 種族:ロイヤルハニーベア 基礎Lv25
契約者:ユート
HP:89/89 MP:68/68
腕力23 体力19 敏捷14
器用18 知力13 精神14
スキル:愛嬌、大食い、嗅覚、栽培、爪撃・上級、登攀、毒耐性、芳香、養蜂・上級、力溜め、昆虫誘引
装備:なし
姿は――少し変わったな。大まかな部分では変わらない。体の色もそのままだし、可愛いクマの姿だ。ただ、体がかなり大きくなったな。身長は一六〇センチ近いだろう。
さらに、装備品が全て外れてインベントリに戻されていた。どうやら体が大きくなったせいで、今までの装備が入らなくなってしまったらしい。早急に装備を調達する必要が出てきてしまったな。
「まあ、そろそろダンジョンの攻略も切り上げようと思ってたし、ちょうどいいか」
もう8回もダンジョンアタックを繰り返して、いい加減飽きて来たのだ。考えてみたら、同じダンジョンを周回するのはこのゲームを開始してから初めての経験である。しばらくはやりたくないね。
次の部屋を覗いてみると、おあつらえ向きに狂った土霊が1匹だけだったので、クママの戦闘力を試してからダンジョンを出ることにした。
「頼むぞクママ」
「クックマ!」
クママが突進して狂った土霊に爪を振るう。進化したクママの攻撃力はかなりの物であった。今までの倍とまではいかないが、50%増くらいはしているんじゃないだろうか? 腕力自体は装備品のボーナスが無いのでほとんど変わらない。つまりスキルが上級に変化したおかげなのだろう。クリティカル率とノックバック率も増えた気もするし、やはり進化すると相当強くなるようだった。
「これでまた探索しやすくなるな」
「クママ!」
フニフニの腕をグッと曲げて、力瘤ポーズでドヤ顔をするクママが頼もしい。こうなってくると、ルフレやファウの進化も楽しみである。きっと強くなるだろう。
そのまま土霊の街に戻って来た俺たちだったが、街にいるプレイヤーの数が結構増えてきているのが分かった。明らかに活気が出ている。
「また増えたな~」
面白い事に、土霊の街に戻る度にプレイヤーの姿が増えているのだ。アリッサさんたち早耳猫の探索班や、アメリアたちテイマー軍団が、順調に土結晶を手に入れて知人たちに提供しているらしい。
「とりあえず素材の選別だけしちゃうか」
途中までは手に入れたモンスタードロップや採掘物を細かくチェックしていたんだけどね。ダンジョンアタックを繰り返す内に、さすがに面倒になってしまったのだ。どうせレアなアイテムを手に入れたところで、その場で売ったりできる訳でもないしね。なので、ダンジョンから戻ってから一気に確認することにしたのだった。
広場の隅にあるベンチに腰掛けて、インベントリを開く。
「みんなは適当に遊んでていいぞ」
「ムム!」
「ラランラ~♪」
どうやら皆で踊ることにしたらしい。リュートをかき鳴らすファウを中心に、まるで盆踊りの様に手足を動かしながら回っている。進化しても行動が全然変わらんな。というか、集中できないんだけど……。まあ、仕方ないか。
「ドロップ品はあまり変わらないか……? いや、これは!」
なんと、土結晶を入手していた。しかも二つも! どうやら狂った土霊から1つ。オルトの採掘で1つ手に入れたらしい。採掘は上級だからだろうか?
「どうしよっかこれ……」
アリッサさんに売るか? いや、その前にフレンドに声をかけてみるべきだろう。そろそろ土曜日が終わるし、もし土霊門に入りたいのに土結晶を入手できてないフレンドがいたら、譲ってあげたい。
「じゃあ、まずはアシハナにでも連絡してみるかね」




