178話 中ボス撃破後
「土霊のガーディアンのドロップは……」
ドロップを確認してみる。
「甲殻か。鎧に使えるかね? 煙草に使える素材はなさそうだな……」
「私は舌だって」
俺が手に入れていたのは、土の守護獣の甲殻と、土の守護獣の毛、土の守護獣の爪だった。まあ、武具に使えそうかな。俺の杖やローブよりも、クママやリックの装備に使った方が良いかもしれない。
どうやら、舌がレアドロップかな? そう思っていたら、マッツンさんが驚いたように声を上げる。
「おいおい、土結晶がドロップしたぞ」
「ええ? ほんと?」
「ああ。これ」
なんと、土霊のガーディアンは土結晶をドロップするらしい。これがレアドロップなのか? だが、レアは舌だよな? もし普通のドロップだとすると、ここでボス狩りが行われるかもしれない。俺は正直もう戦いたくないけど、アミミンさんたちは周回できないかと相談している。
「まあ、周回するかどうかはともかくとして、この後どうする?」
「うーん。どうしよう。今のは中ボスだったみたいだしね」
そう。アミミンさんたちが相談している様に、土霊のガーディアンは大ボスではなかった。ボスである土霊のガーディアンに命からがら勝利したのに、ダンジョンはここで終わりではなかったのだ。入って来た入り口とは別に、先に進む通路が出現していた。
「今ので中ボスか……。こりゃあ、かなりの難易度だな」
マッツンさんがそう呟く。彼女曰く、この中ボスは第4エリアのフィールドボス並に強かったらしい。だとすると、大ボスはどれだけ強いのだろうか? 少なくとも、俺たちが太刀打ちできる相手ではなさそうだな。攻撃が通らない訳ではないが、アタッカーが少なすぎるのだ。
あと、途中で気になった事を訪ねてみた。
「アミミンさん。あの、モンスを入れ替えたのはスキルですか?」
「違うよ。これのおかげ」
アミミンさんが首にかけていたネックレスを取り出して、見せてくれる。
「従魔の宝珠……。これが」
「うん」
噂には聞いていたが、実物は初めて見たな。従魔の宝珠――召喚珠などとも呼ばれるテイマーに必須と言われるアイテムだ。なんと、これを使うとホームなどで待機しているモンス1体を召喚することができるのだ。パーティメンバーがいっぱいの場合は、指定したモンスと入れ替えることが可能であるらしい。
単純に消耗したモンスを元気なモンスと入れ替えるアイテムだと思っていたが、アミミンさんの使い方を見てそれだけではないのだと気づかされたぜ。
再使用にはクーリングタイムが必要であるらしいが、複数を持ち歩けるので何度か入れ替えることは可能なんだとか。
「じゃあ、何十個も持っていれば、入れ替え放題ですか?」
「それがやれたらいいんだけど、無理だね~」
従魔の宝珠は、単に所持しているだけでは使用できないらしい。もう1度アミミンさんの従魔の宝珠を見せてもらったが、ネックレス自体は毒耐性のネックレスとなっていた。従魔の宝珠を使用するためには、装備品の空きスロットに宝珠をセットする必要があるらしい。
空きスロットは装備によって数が違い、鍛冶師による強化なども空きスロットを消費して行われるのだ。つまり従魔の宝珠をたくさん装備するためには、空きスロットの多い装備を見つける必要があった。だが、その装備が強いかどうかも分からないし、強化できる可能性を捨てなくてはいけない。もちろんセットした宝珠の取り外しは可能だが、鍛冶師に頼まなくてはいけないので気軽には行えなかった。
また、従魔の宝珠をそれだけたくさん用意できるかという問題もある。実は、この従魔の宝珠の作製に、従魔の心が必要なのだ。俺はまだギルドランクが低いせいで造れないけどね。あと1つランクが上がれば作製可能になるはずなので、今から楽しみだ。
もう1つ気になったのは、マッツンさんの召喚に関してだった。
「最後に止めを刺した、瞬間召喚で呼び出した鬼みたいなモンスターがいたでしょ? 最初からあのモンスを完全召喚してたら、もっと楽だったんじゃ……?」
メッチャ強そうだったし、実際に攻撃力がハンパなかった。完全召喚というのは、モンスターをパーティメンバーとして長時間呼び出し続ける召喚のことだ。対して瞬間召喚というのは、道中でマッツンさんが使っていたモンスを一瞬だけ呼び出し、スキルなどを1度だけ使用させる召喚方法の事である。
完全召喚は消費魔力が大きい上、維持コストもかかるので使い所が難しいとは聞いたことがある。だが、あの鬼さんがいたらもっと早く勝利できたのではないかと思ったのだ。しかし、そう簡単な話ではないらしい。
あのモンスターは剛力鬼というモンスターらしいのだが、従魔合成の事故によって生み出された特殊な個体であるそうだ。
従魔合成とはその名の通り、従魔同士を合成して新たなモンスを生み出すサモナー固有のシステムであるのだが、たまに事故が発生するらしい。これは予定していたモンスとは違うモンスが生み出されてしまう、低確率で起きる現象だ。
そんな合成事故の中でも、大幅に上のランクのモンスターが生み出される特殊事故と呼ばれる現象があるらしかった。低確率の事故の中でも、さらに低確率の現象だ。プレイヤーの中でも未だに数件しか確認されていないらしい。
マッツンさんの剛力鬼もその特殊事故の末に生み出された個体であった。ゲーム内でもかなり先に出現するであろう、強力なモンスターなのである。
何せ完全召喚に比べて必要コストが10分の1程度で済むはずの瞬間召喚でさえ、現在のマッツンさんのマックスMPの半分近くが必要なのだという。
「完全召喚できるのがいつの日になるのか分からないよ」
アミミンさんもマッツンさんも、必殺技というか、奥の手があって羨ましいな。俺も格好いい技がぜひ欲しい。まあ、欲しいと言って手に入るものでもないんだけどさ。
「いや、でもその内きっと……!」
俺がそんなことを決意していると、アミミンさんがモンスのレベルアップを確認し終えたらしい。
「ねえ、この後どうする? かなり消耗が激しいから、私的にはこれ以上はきついんだけど」
「俺もそうですね。敵も強くなりそうですし」
「私もだな」
「じゃあさ、次の部屋がどうなってるか確認だけして、戻ろうか?」
「そうだな。私はそれに賛成かな?」
「俺もです」
俺も尤もらしく口を出しているが、アミミンさんたちの決定に逆らえるはずもない。いや、実際にこれ以上の探索はきついので、本当に俺も帰還したいんだけどさ。
上級者との探索は楽だけど、妙に気を使うな。たまにならいいけど、毎回はきついかもしれない。やっぱソロが気楽でいいかもね。いや、アミミンさんたちとの冒険が嫌だって言う訳じゃないよ? 本当に。
ただ、アミミンさんの前だと自分が挙動不審になってしまうのが分かった。でも、皆だって憧れのトップゲーマーが急に目の前に現れて、一緒にゲームやろうと言って来たら絶対にこうなるはずだ。
「じゃ、次の部屋にレッツゴー」
「おい、何が出るか分からないんだから、あまりはしゃぐなよ。あんた変なところで罠にかかって死に戻ったりするんだから」
「わ、分かってるって」
「本当か?」
その後、先頭をマッツンさんに交代して、新たに出現した通路を進んだ。そして、次の部屋の出現モンスを確認する。
「変わらずだね……。でも数が多いかも。それに、レベルが上がっている可能性もあるね~」
「だとするときついんじゃないですか?」
「白銀さんの言う通りだな。ここは無理せず脱出しよう」
「うん」
と言うことで俺たちは脱出の玉を使って土霊の街へと戻ることにした。
「戻って来たね~」
「おう。ようやく一服できるな」
「お疲れ様でした」
「うん。色々ありがとうユート君」
「いえ、こちらこそありがとうございました。俺だけじゃ中ボスは倒せませんでした」
「それを言ったら、あたしらだけでもきつかったよ。白銀さんの援護はかなり助かった。また何かあったらよろしくな」
アミミンさんとマッツンさんは、今回手に入れた素材を知人の鍛冶屋に持ち込むつもりらしい。土結晶はマッツンさんのフレンドに売るそうだ。それでいいかと尋ねられたが、文句などあるはずもない。今回は手に入ったアイテムは全て入手した個人の物という約束になっていたので、あれはマッツンさんの物なのだ。
「じゃあ、あたしらは行くよ」
「またね!」
アミミンさんとフレンドにもなれちゃったし、中ボスは撃破したし、オルトは進化もした。本当に実りの多い探索だったな。




