173話 ブラッドスキル
アメリアたちの案内を一通り終えた後、俺たちは土霊の試練へと足を踏み入れていた。本来は街を見た後は解散する予定だったのだ。
だって、全員がテイマーである。一度戻って、モンスを連れて戻って来てから本格的に攻略にとりかかった方が効率がいいだろう。
だが、アメリアとウルスラが我慢できなかったのだ。今すぐにでもノームが欲しくなってしまったらしい。モンスも連れて来ていないのに、どうしてもダンジョンに入りたいと駄々をこねはじめていた。
「俺は別にかまわないぞ」
「ありがとう!」
「白銀さんと行く日帰りノームテイムツアーの開催ね!」
「なんかバスツアーみたいですね」
「お金を払わなきゃダメっすか?」
「素材をもらえればそれで十分だから」
「お手数をおかけします」
「いやいや」
1番常識人のイワンが頭を下げてくるが、道中のドロップは土結晶以外は俺に譲ってくれるというし、戦力も大幅にアップだ。文句などあるわけがない。土結晶が出た場合はそれを他のテイマー仲間に売り、お金は山分けということになっている。
ノームをテイムする順番は決めていない。狂った土霊が出たら全員でテイムを試みて、テイムできた人間が次からは参加しないという形で、4人がテイムできるまでダンジョンを回る予定になっている。
畑も持っていないのに、本当にノームが必要なのかと思ったが、全員ノームが欲しいらしい。アメリアとウルスラは愛でるため。オイレンは樹精を手に入れるため。因みに、オリーブトレントは女の子型にはならなかったと伝えたところ、号泣していたが。やはり狙っていたようだな。
「ちっくしょー!」
「まあまあ。育樹を覚えさせるには育てないといけないんだし、その頃には他に道が見つかるかもしれないぞ?」
「そ、そうっすよね?」
イワンは錬金術や調合をするために自分の畑が欲しいらしい。
「白銀さん方式で行こうと思いまして」
「え? 白銀方式? 俺?」
「はい。白銀さんはモンスの力で畑を充実させて、薬を大量生産する事に成功したパイオニアですから」
そんな持ち上げられてもな~。全部オルトのおかげだし、初期モンス運が良かっただけだ。それでも、やってきたことが褒められるのは嬉しいね。
「最近だと、ゴブリンに農耕スキルを覚えさせて畑仕事を手伝わせたりするプレイヤーもいますしね」
ゴブリンか。話は聞いているが、まだ出会ったことが無いんだよな。結構リアルな外見で、不人気であるらしい。ただ、ファンタジーのモンスター感が強いので、一部の男性プレイヤーなどには愛好家がいるらしい。それに、進化していったら強くなりそうな気もする。
ラノベの影響なのか、スライムとゴブリンは進化したら強いというイメージがあるのだ。
それに、ゴブリンはプレイヤーによるデザインの幅が広いのも人気の理由らしい。初期スキルに相当ばらつきがある上、10レベルで覚えるスキルを10種類くらいからプレイヤーが選ぶことができるんだとか。初期スキルばかりらしいが、プレイヤーが自由に決められるのは確かに面白そうだよな。
「へえ、ゴブリンか」
俺がそんなことを呟いた直後。アメリアが飛びかかって来た。
「ダメ! ダメダメ! ゴブリンはダメだからね!」
「え? なんでだ?」
「とにかく白銀さんはゴブリンテイムするの禁止! お願いだから!」
「えー……?」
「他に可愛いモンスがいっぱいいるんだから、そっちをテイムして!」
ま、まあテイム枠も余ってるとは言い難いし、別にゴブリンを狙おうとは思ってないけどさ。これは、本気で俺を可愛いモンス専門テイマーだと思っている奴がいそうだな。まあ、それも土竜の卵が孵るまでのことだ。竜を連れて歩けば、誰も俺を可愛いモンスを狙ってテイムしている軟派野郎だとは思わなくなるに違いない。
「ちょ、ウルスラさん! なんで叩くんですか! 痛くないけど、ビックリするでしょ!」
「あんたが余計な話をしたからよ!」
イワン、ごめん。完全にとばっちりだね。
「まあまあ、ゴブリンをテイムする予定はないから」
「本当?」
「ああ。オルトもサクラもクママもいるからな」
「そう言えば、ハニーベアの栽培スキルを当てにしてたプレイヤーもいたらしいっすよ。株分けができないから、効率は悪いみたいだけど。まあ、ブラッドスキルでハニービーのユニーク個体から農耕を引き継いだハニーベアがいるらしくて、そいつの主はかなり上手くやってるらしいっすよ」
「でも、ブラッドスキル狙いで卵を買うのは賭けすぎるよ」
卵から孵化したモンスターには親からスキルが遺伝している。これをブラッドスキルと言うが、最低1つ、最大で3つ引き継ぐというから中々ギャンブル性が高いよね。
しかも遺伝するスキルはランダムなのだ。勿論、そのモンスターに利用できないスキルや、初期スキルに含まれるものは遺伝しない。オリーブトレントのオレアの様な移動できないモンスが、健脚スキルをもらっても意味ないしね。だが、それでも狙ったスキルを遺伝させるのはかなりの運が必要になる。
うちのクママなんかはかなり運が良かった方だ。ハニーベアの初期スキルは愛嬌、大食い、栽培、爪撃、芳香、養蜂の6種である。つまりクママの場合、嗅覚、登攀、毒耐性は親から引き継いだスキルなのだ。最大数を引き継いだ上、それなりに良いスキルばかりだった。
「つまりうちのクママはかなり特別なハニーベアって事だな」
「そうなりますね。当たりとまではいかなくても、微当たりってとこじゃないですか?」
「当たり? 微当たり?」
その言葉は聞いたことが無いな。
「はい、各地の従魔ギルドで購入できる卵には、普通の物と、生まれてくるモンスが少し強かったりする当たりの卵があるんすよ」
オイレンの知人が、剣術、槍術、弓術の三種類を全て備えたゴブリンを引き当てたことがあるらしい。
「あと、イワンも当たりを引いたことがあったよな?」
「はい。つい最近、ホーン・ラビットの当たりを引きました!」
ホーンラビットはその名の通り、額から角が生えているウサギのモンスらしい。可愛い姿に魅かれて購入したらしいが、普通では覚えない水中行動というスキルを覚えていたという。
当たりの定義はあやふやではあるが、基礎能力値が大幅に高い個体が生まれた場合や、普通ではゲットできないはずのブラッドスキルを所持している場合を指すらしい。この特殊なブラッドスキルは、親がユニーク個体で特殊なスキルを覚えている上、そのスキルを継承できたということだ。考えてみたら、かなり確率が低いことだろう。うちではファウがそのタイプなんだが、特殊なスキルは引き継げなかったな。
微当たりは、能力値が通常個体よりも少しだけ高かったり、引継ぎスキルが3つで使える物ばかりであったりする場合に言うらしい。確かにクママは微当たりだな。残念。いや、でも可愛いからよし! それ以上の当たりなんかないぜ。
「あ! いた! 狂った土霊!」
「か、可愛くない……。あれが本当にノームになるの?」
「こ、こわ~」
「不気味っすね……」
オイレンたちと会話している内に、何時の間にか最初の部屋に到達していたらしい。運よく狂った土霊が1体いる。
その姿を見てアメリアたちも戸惑っているが、意を決してテイムを使い始めた。俺たちは奴のHPを削る役割だ。
「ノームちゃんを我が手に! テイム!」
「こっちの水は甘いわよ! テイム!」
「俺たちもいくか」
「だな」
テンションマックスでテイムを繰り返すアメリアたちと、一応と言った感じでその輪に加わる男性陣。しかし、物欲センサーとは良く言った物である。
なんと、この部屋と次の部屋でテイムに成功したのは、イワンとオイレンの方であった。それも最初の1、2回でテイムしてしまったのだ。テイムスキルもアメリアたちより低いというのにだ。
「きぃ~! なんでよ!」
「次こそは……次こそは私が……」
その嫉妬に狂った顔をやめろ! こっちの背筋まで寒くなるわ!




