17話 オリジナルレシピ
「おはようオルト」
「ムー」
ログインしてすぐに畑に駆けつけると、昨日植えた作物が収穫可能になっていた。畑の作物を収穫するだけでも採取、農耕に経験値が入るらしい。途中で1つずつLvが上がった。
今日の収穫物は★4の物が採れた。うんうん。順調だな。大部分はそのままオルトに渡して株分してもらう。
「よし、残った作物で調合だな」
まず造るのはホレン草を混ぜた携帯食だ。せっかく栽培したんだし、納品前に味見をしてみないとね。
俺は料理のレシピを開く。レシピ一覧には選択できない灰色の????が並んでいる。これはまだ解放されていないレシピだ。材料を全て持っていると灰から白に変わり、選択可能となるのだ。1回は作成しないと名前は判別しないけどね。
俺は1つだけ白くなっている????を選び、オート調理を開始する。
システムの指示に従い、簡易料理セットのまな板の上で、食用草とホレン草をざく切りにする。そして、それを水と一緒に鍋で煮詰めれば完成だ。
携帯食は調合でも作れるのだが、料理で作った方が品質が上がるらしい。
お馴染みとなったポンという効果音と共に、どうやったらあのドロドロの液体がこうなるんだっていう変化を起こし、固形の携帯食が生み出された。
不味くて硬い茶色の携帯食が、ホレン草の濃い緑に色づいている。
「うーん、見た目からして美味しくなさそうだ」
これがもっと柔らかい若葉色だったらまた違った印象だったかもしれない。しかし実際には深くて暗い緑色で、「不味いもう一杯!」と言いたくなりそうな、どう見ても苦いだろうって色をしているのだ。
1回で作れる数は5つから4つに減ってしまっている。ただ、効果は上がっていた。
名称:携帯食(ホレン草風味)
レア度:1 品質:★4
効果:使用者の空腹を37%回復させる。
満腹度の回復率は大幅に上昇しているし、期待通りに品質も上昇していた。今まではクソ不味い携帯食を1日5回も食べなきゃならなかったが、これなら3回で済む。
「では、早速1つ」
緑色の携帯食をかじってみる。
「ぐぶっ……! 不味っ!」
脳天に突き抜ける不味さだった。エグ味とニガ味の相乗効果で、とても食べ物とは思えない味がする。
「今までよりも遥かに不味い……!」
これなら、土を食べてる方がなんぼかましだ。最悪の味だった。この携帯食は、2度と作るまい。そう心に誓う。
「そ、そうだ。オルトにも飯をあげないと」
「ム!」
一瞬この激マズ携帯食をあげようか迷うが、ギリギリ踏みとどまった。
「ア、アリッサさんに貰ったハチミツニンジンジュースがあったな」
オルトに食べさせて処分してしまえ! と囁き続ける悪魔の声を何とか無視して、ハチミツニンジンジュースを取り出した。
鑑定してみると、従魔にもあげられる、とある。満腹度の回復は35%と、携帯食(ホレン草風味)と変わらない。
「美味しそうだな……」
口の中に残る激マズの後味。やばい、見てたらどんどん美味しそうに見えてきた。
「ム!」
「はっ!」
オルトにローブの裾を引っ張られて、我に返った。そ、そうだよな。アリッサさんにもモンスターにって言われたんだし。
美味しいジュースに心惹かれるものもあるが。盛大に惹かれまくっているが! 俺はリアルで美味しい物が食べられる。ここはオルトにご褒美だ。また飲みたくなる前に、オルトに渡してしまおう。
「オルト、これをやるよ」
「ム? ムー!」
「そうか、嬉しいか」
「ムッムッム!」
飛び跳ねて喜びを表現したオルトは、俺の手から恭しくジュースを受け取る。まるで表彰状を受け取るかのような格好だ。
そして、銭湯でフルーツ牛乳を飲むオッサンのように、腰に手を当ててゴキュゴキュと一気に飲み干した。かなりうまそうだ。普段どちらかと言えば無表情のオルトの顔が、今は笑顔と分かるくらいニッコニコである。
「喜んでくれて良かったよ」
「ムッムムー!」
「お、早速仕事してくれるか」
「ムムムムムー!」
その勢いは凄まじい。なんか、早回しを見ているかのように、目の前でオルトがシュババと高速で作業をしている。
「蜜団子をやった時とはえらい違いだな」
もしや、食事で働きが変わるのだろうか。現金な。しかし、良いことを発見した。今後、オルトにあげるご飯を色々工夫してみるのも面白いかもしれない。逆に不味いものを食べさせた時の反応とかも見てみたいな。
マスクデータとして存在すると噂されているモンスの愛情度に関係するのだろうか? だとしたら、好きな物を食べさせてやった方が良いかね?
「ま、今回くらい美味しいものは、暫くあげられんと思うが」
オルトに聞こえないように呟く。なにせ、アリッサさんから貰った物だからな。アリッサさんのお店で買ったら、1つ500Gもするのだ。毎日は中々厳しい。
「気を取り直して。次の調合だ」
今ある素材で作れそうなのは、傷薬、下級ポーションだな。
「まずは傷薬で肩慣らしと行きますか」
高品質の物を狙って調合してみよう。傷薬はもう何度も作っているし、マニュアル作成で行けそうな気がする。まあ、やることは変わらんが。
傷薬草★4に、折角だから浄化水を混ぜて、ゴリゴリと混ぜ合わせていく。最後に魔力を注ぐと――。
「★5? まじか?」
『調合のレベルが上がりました』
やはり高品質の品は作成時の経験値も高いらしい。一気に2つも調合レベルが上がった。元々低レベルというのもあっただろうが。
名称:傷薬
レア度:1 品質:★5
効果:HPを15回復させる。クーリングタイム10分。
傷薬は品質が1上昇しても、回復量が1しか増えないみたいだな。これが序盤しか使えないと言われる所以だろう。
それでもいい! 高品質のものが作れたっていうのが重要だからな! やっぱり上手く作ることが出来ればマニュアル作成の方が品質が高いようだ。
「じゃあ、次はちょっと工夫してみますか」
マニュアルはオートと違ってシステムのアシストはないが、その分自由度が高い。レシピ外の素材を混ぜ込んだり、制作過程に工夫を凝らすことで、様々な変化を起こすことが可能なのだ。
そして、成功した新しいレシピは、オリジナルレシピとして登録も可能らしい。自分だけのレシピとか、オタク心をくすぐってくれるよな。さて、どんな実験をしてみようかね。
掲示板を見れば簡単だって? それじゃつまらないだろう! 自分で考えて、色々な実験をするから面白いんだ。そりゃあ、二度と手に入らないような激レア素材を使うっていうんなら掲示板でも情報屋でも何でも使うが。今回作るのは単なる傷薬とポーションだし。掲示板を見るのは最終手段である。
それに、製品版で新しいレシピや、調合方法が増えていないとも限らない。まずは自力で色々試すのだ。
「混ぜる回数を増やしてみようかな」
すり鉢に材料を入れて、擂り粉木で混ぜ合わせていく。いつもはドロドロになったら止めてしまうが、今回はサラサラになるまで混ぜ続けた。
「うーん、ダメか」
だが、その原料で作った傷薬に変化はなかった。一応★5の出来だが、5倍以上の時間をかけた割には、何も変わっていなかった。
「いやいや、まだ1回目だし。いきなり成功するわけがないだろ。次だ次」
今度はサラサラになるまで混ぜ合わせた原料を簡易料理セットに付いていた鍋に移し、これまた簡易料理セットに付いていた携帯コンロで煮詰めてみる。
途中で料理の道具を使っても問題ないか不安だったが、どうやら大丈夫らしい。ある程度水分が飛んだら、すり鉢に戻して魔力を流す。
「何だこれ? 傷薬なんだけど……」
名称:傷薬・粉
レア度:1 品質:★3
効果:HPを17回復させる。クーリングタイム10分。状態異常・渇水。
粉薬が出来たぞ。今までは丸薬タイプだったのに。水分を飛ばしたからか? しかも、回復量がアップした代わりに、渇水の状態異常を引き起こすようだ。
渇水は砂漠などで起こる状態異常で、水分を摂取するまでステータスが減少し、実際に酷い喉の渇きを覚えるらしい。使う度に一々渇水に陥るなんて、デメリットの方が大きくないか? 最後の手段としては使えるかもしれないけどね。
「まあ、実験としては成功と言えなくもない、かな?」
この調子でバンバン行こう。次は逆の発想だ。混ぜ合わせた原料を、布で濾し――たかったんだが、布なんかない。そこで、アズライトのローブの端っこを使って、ろ過っぽいことをしてみた。ドロドロの原料をローブで包み、ギュッと絞って水分だけを取り出す。
ローブが緑色に汚れてしまった。耐久値も少し減ってるし。まあ、こっちは耐久値を回復すれば直るだろう。多分。
「じゃあ、調合っと」
名称:傷薬・水
レア度:1 品質:★3
効果:HPを8回復させる。クーリングタイム5分。
なるほど、こっちは水薬か。どこから来たのか分からない瓶に入った、飲み薬である。回復量は減ってしまったが、クーリングタイムが縮まったぞ。
「ふーむ。これは色々と工夫の余地がありそうだ。調合、面白いな。次は下級ポーションで実験してみよう」
俺はオリジナルレシピに登録された、2種類の傷薬をニマニマと見つめつつ、次の準備に取り掛かった。
16話での表記ミスについて、たくさんのご指摘ありがとうございます。
全然気付いていませんでした。
ただ、多くの読者様に読んでいただいているのだな~と実感もできました。
20話からは4日に1度の更新にするつもりでしたが、行けるところまでは2日に1回更新を続けたいと思います。




