165話 遅れて来た男たち
「でも、これで検証は出来たわね。ユート君がウンディーネの長に話を聞いたって言ってたから私たちもノームの長に話を聞いてみたけど、曜日と結晶が連動してるのは間違いないみたいだし」
「てことは、情報料は問題なく支払ってもらえるってことですね?」
「ええ! でも、さっきも言った通り手持ちが足りてないのよ。悪いんだけど、ちょっと待っててくれる? お金下ろしてくるから。まあ、とりあえず町に戻りましょうか」
お金を下ろす? それって、銀行みたいな施設があるってことか? アリッサさんに尋ねると、仰天されてしまった。どうやら常識的なことだったらしい。
なんと冒険者ギルドでお金や、アイテムの預かりをしてくれるそうだ。そう言えば初期に少し行っただけで最近は全く足を運んでいなかった。
イベント中にちょっとだけ入ったけど、本当にちょっとだけだったからな~。気づかなかったようだ。
「ユート君、冒険者ギルドランクは?」
「2です」
「2? 低いわね~。でも、それならお金は20万Gまで。アイテムは20種×99個まで預けられるわよ」
「なるほど」
考えてみたら当然のシステムだよな。お金はともかく、死に戻った時にレアなアイテムを失う危険性を減らせるわけだし。今まで思い至らなかった俺が間抜けなのだ。
「まあ、ユート君がそれを知らなかったおかげで、水霊門の情報をゲットできたわけだけど」
預かりシステムを知っていたら属性結晶なんて貴重品、絶対に預けちゃってただろう。それだと、水霊門を発見することもなかったわけか。
というか、そのせいで今まで発見されなかったのかね?
「火霊門を発見した人たちはどうだったんですかね?」
「ああ、単純に預け忘れみたいよ」
お間抜けさん。ちょっとシンパシーを感じるぜ。
しかし、ギルドにそんなシステムがあったとはね。アリッサさんに付いて行ってみようかな?
土霊の街の広場でそんなことを話していたら、入り口のほうからこちらに向かって来る足音が聞こえた。ノームの長かと思ったが、それにしては足音が複数だな。
待っていると、4人の男性たちが街に入って来た。戦士3人、魔術師1人のプレイヤーパーティだ。
「ああー! やっぱ先こされてた!」
「まじか!」
「スキルスクロールが貰えなかったからもしやと思ったが……」
「やっぱりあのスクロールは初回特典だったんじゃないか!」
4人組は頭を抱えて唸っている。アリッサさんはその様をニヤニヤと笑いながら見ていた。
「ああ、あいつら来たのね」
「知ってるんですか?」
「ええ。何せ、火霊門を開いたパーティだからね」
「あ、そうなんですか」
と言う事は、火結晶を預け忘れたお間抜けさんたちだな。さらに、彼らが独占しようとしていた情報を俺が早耳猫に売ってしまったという関係でもある。つまり、俺が色々と邪魔をしてしまったということだ。
「土結晶を欲しがってたから探してあげたのに、高いから安くしろって値切りやがったのよ? 信じられないでしょ? だいたい、幾らでも出すって言ってたから、他のプレイヤーに交渉してようやく譲ってもらったのに。まあ、初回特典はユートくんに持ってかれちゃったみたいだけどね。ぷぷぷ」
アリッサさんが怒っていることは分かりました。
「さ、さっきアナウンスが聞こえたって言う話は嘘じゃなかったか……」
「ログを確認したんだから、当たり前だろ!」
「そもそもお前のログインが遅れたのが悪いんじゃねーか!」
「うるせー! 電車が強風のためとかいうふざけた理由で遅れたんだよ! しかたねーだろ!」
どうやら彼らも土霊門の初回特典のスクロールを狙っていたらしい。アナウンスでも解放者への特典って言っていたしね。火霊門を開けたパーティであれば、その事に気づくだろう。
だが、土結晶を所持していたリーダーらしき戦士が、リアルで電車の遅延に巻き込まれてログインが遅れてしまったようだ。なんと運のない。そのおかげで俺が初回解放者になれたんだけどさ。
「だいたい、なんで奴らがここの場所を知ってるんだよ!」
「水霊門を開けた奴が情報を売ったんだろ?」
「どこの馬鹿だ! こんなスゲー情報を情報屋に売ったら、あっと言う間に広まっちまうじゃねーかよ!」
「しばらくここの素材を独占して儲ける予定だったのに!」
ごめんなさい。その馬鹿は俺です。悪い事をしたわけじゃないんだけど、彼らの邪魔をしまくってしまったという負い目から、ちょっとだけ申し訳なく思ってしまう。面と向かって謝ったりはしないけどね。悪いことしてないし。
「おい! あんた早耳猫のサブマスだったな! ここの情報をどうやって知った!」
「守秘義務なのでお答えできませーん」
「良いから教えろよ! なんならその情報を買うぞ?」
「個人情報を売れる訳ないじゃない。私が1発でアカBANよ? だいたい、その情報を買ってどうするつもりなの? そのプレイヤーに文句でも言う気? それこそあんたたちが通報されて終わりよ?」
「う……」
「そもそも、情報を買う? 土結晶を値切ったくせに、偉そうに言うわね? 今度も値切るつもりかしら?」
「ぐっ……!」
うわー、男がメッチャ睨んでる。それを睨み返せるアリッサさん凄いわー。ただ、これは完全に男たちの分が悪い。
「お、お前が値切ったりするから!」
「そうだよ! あのサブマスメッチャ怖い!」
「だって、予算を倍近く越えてたんだぞ?」
「そもそもお前らが相場は5万くらいだって言うから……!」
「そもそもなんでこの場であんな口の利き方をしたんだよ!」
「お、俺のロールにケチ付けるなよ!」
メッチャ揉めてるね。この後パーティ仲は大丈夫だろうか? 心配になってくる。だが、そこはさすがにアリッサさん。鞭だけではなく飴も忘れていない。
「まあまあ、火霊門は次の火の日まであんたたちの独占なんだし、そっちで稼げばいいじゃない。火結晶以外にも、素材や食材なんかも高く買いとるわよ? あと、モンスターの情報も」
「む……」
「それに、さすがに可哀相だから、他の門の情報も安くしておいてあげる」
「え? まじか?」
「ええ。その代わり、火霊門の情報もきっちりうちに売りなさいよ?」
「わかったよ!」
さすが交渉上手。いや、相手が単純すぎるだけか? さっきまでの険悪な空気は吹き飛び、互いに情報を交換する約束をしている。
まあ、面倒ごとにならなくて良かった。これで北の町に戻れるな。
出遅れテイマーの文中において、火の属性結晶の名前が
「火結晶」、「炎結晶」と2種類存在しており、安定しておりませんでした。
今後、火結晶に統一させていただきます。
次回更新は22日、その後は2日に1回に戻します。
あと、こちらの作品もレビューを頂きました。ありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。




