162話 情報売買
「あとは何か情報ある? というか、あるでしょ?」
「え? いや、何かあったかな?」
まるで俺が他に情報を持っていることを確信しているかのような口ぶりだ。他に売れそうな情報なんかないと思うが……。俺が首をひねっていると、アリッサさんが少し考え込む。
「ふむ……。ユートくんは掲示板あまり見ないのよね?」
「まあ、そうですね」
「じゃ、自分がどう言われてるかも分からないわよね~……。ユート君、別に隠したい情報とかないでしょ? あなたはそういうタイプじゃないし」
さすがアリッサさん、分かっていらっしゃる。
「そうですね~。独占したい情報も特にないですし、隠したい情報もないですね」
「じゃあさ、私が色々と質問するから、それに答えてくれない? 売れる売れないはこっちで判断するからさ。ダメ?」
なるほどな。俺が大したことがないと思っている情報が、実はまだ知られて無かったっていう事は何度かあったからな。アリッサさんの質問に答えるだけでいいんなら楽だし、それなら助かる。
「オッケー! まずは――モンスちゃんたちのこと色々聞かせてもらおうかな? まずはオルトちゃんのステータスとかからお願いできる?」
「わかりました――」
俺はオルトから始まり、サクラ、リック、クママ、ファウ、ルフレのステータスや、スキルを教えた。さらに、スキルをどう使っているかとか、生産できる物などを教えて行く。
「ファウが料理を持っていないのに、錬金スキルでハーブティーの茶葉を作った時には驚きましたねー」
「ああそれ、最近判明したのよ」
「そうなんですか?」
惜しかったね。もうちょっと早ければこの情報も買ってもらえたかもしれないのに。
「今まで、生産プレイヤーはレンタル生産場かホームで1人で生産することが多かったじゃない? もしくは同じスキルを持った仲間同士で一緒に生産したり。でも、最近はフィールドが広くなって、採取物を使ってその場でポーションなんかを生産することが増えて来たのよ。それで、パーティを組んだ状態だと仲間の生産スキルの影響を受けると分かってきたの。採取ポイントの共有化と同じね」
「なるほど~」
「まあ。モンスターのスキルとプレイヤーのスキルが全く同じ扱いかは分からないけど」
そりゃそうか。場合によっては、同じスキルでも作れる物などが微妙に違う事もあるかもしれないな。
「生産と言えば、木工品はどう? 面白い物を登録したらしいじゃない? 現物はまだ入手できてないんだけど」
「苔玉の事ですかね?」
「そうそう。結構作り方を知りたいって言う人いるのよね」
苔玉か……。どうしよう。あれは俺じゃなくて、サクラが作った物だ。作り方を考えたのも、試行錯誤したのもサクラだ。それを売っちゃうのはな~……。
「すいません、あれはサクラが作った物なんで、俺が勝手に売ることはできません」
そう言って頭を下げると、アリッサさんが苦笑しながら手をヒラヒラ振っている。
「別に売りたくないならいいわよ。でも、理由がユート君らしいわね。まあ、気が変わったら声をかけてちょうだい」
「その時は必ず」
「でも、木工がダメなら……。料理は? 色々な料理を作ったみたいじゃない? それのレシピとか、調味料や食材の入手場所の情報なら高く買うよ?」
「それならいいですよ」
「やったね!」
俺はその後も色々な質問に答えて行った。アリッサさんは時おり考え込む様子があり、少しは新情報を提供できているのかもな。
「だいたい聞き終わったかしら」
「どうですか? 俺の情報、いくらくらいで買い取ってくれます?」
あ、その前にいくつか買いたい情報もあるんだった。どうせだからそっちを売ってもらって、情報料を差し引きしてもらった方が楽でいいだろう。そう告げると、アリッサさんも嬉し気に頷いている。
「そうね。そうしてもらえるととーっても助かるわ。というか、そうしてくださいお願いします」
何故か頭を下げられてしまった。よし、だったら色々と欲しい情報はあるんだ。まずは何を聞こうかな?
「じゃあですね。まずはウンディーネの情報はないですか?」
俺はアリッサさんから最初はルフレに関する情報を買う事にした。スキルや進化の情報も欲しい。だが、アリッサさんは申し訳なさそうな顔で首を横に振った。
「ごめんなさい。ウンディーネに関する情報はないわ。むしろ、今後色々とユート君から買いたいくらいなの」
「あー、やっぱそうですか~」
やはり未確認モンスターだったらしい。水霊門の話した時にモンスターの情報に驚いてたから、半ば予想はしてたけどね。残念だ。
「じゃあですね……。アリッサさんが持ってる精霊門の凄い情報っていうのは、何なんです? ぜひ知りたいんですけど」
「ああ、あれね……」
俺がそう言った途端、アリッサさんは言葉を濁してしまった。どうしたんだ?
「最初のワールドアナウンスあったじゃない。精霊門が解放されました、解放したプレイヤーには精霊門の解放者の称号が授与されますっていうやつ」
「はい。多分、誰かが火霊門を解放したんだと思いますけど」
アナウンスが流れたのが火の日だったからね。
「正解。その解放者が情報を売りに来たの。でも、全部を売ってくれたわけじゃなくて、火結晶をある場所に捧げると、火霊門が出現するって言う情報だけだったわ」
それでアリッサさんはそのパーティの普段の活動範囲から、第4か第5エリアのどこかだと予想していたらしい。
「まさか第2エリアだったとはねー。まあ、ユート君の情報を聞いた今なら、全く意味ない情報になったけど」
確かに俺の情報の下位互換と言うか、そいつらが隠匿しようとしていた情報までぜんぶバラしちゃったな。ごめんよ見知らぬ人たち。
「あ、あとは火霊門の解放ボーナスで、スキルスクロールをもらったって言ってたわ。火炎操作っていうスキルだって」
「それなら俺ももらいました。俺のは水中探査と宝石発見でしたね」
「なるほど。ランダムとは言え、それぞれの属性に対応したスキルがもらえるってことか」
やっぱりそうだったんだな。じゃあ、最後に残った風霊門を開放すれば、風系のスキルがもらえるってことか。
「他に欲しい情報はない?」
「じゃあ、スキルの情報で、発酵っていうスキルの情報は有ります?」
「あ、仕入れたばかりの最新情報があるわよ。醸造プレイヤーが一子相伝ロールプレイヤーで聞き出すのに苦労したわ~」
「じゃあそれをお願いします」
「発酵は醸造の上位派生スキルね。醸造のレベルを上げると、醸造・上級か発酵に派生するらしいわ」
「使い心地はどうです?」
「そうね、普通の醸造に比べると、品質向上、醸造期間の短縮。さらには、作成可能物が増えるわね。例えばヨーグルトとか」
「それだと、醸造・上級よりも発酵の方が良いスキルってことですか?」
「そんなことないわよ? 上級の方が、より品質向上や期間短縮の効果が高いらしいし。一長一短ね。ユート君には、農耕と育樹の関係って言えば分かりやすいんじゃない?」
「なるほど」
「発酵樽っていう樽もあって、それは醸造樽の上位互換みたいな性能らしいわ。醸造製品は普通に作れて、発酵スキル専用食品なんかはより高品質に作れるみたい。まあ、発酵スキルがあれば醸造樽でも発酵スキルの食品は作れるみたいだけど」
なるほどね。だが、その後のアリッサさんの話を聞いて、俺は愕然としてしまった。なんと、発酵樽という物が始まりの町に売っており、それを使うとより高品質の物が作れるらしい。俺が驚いたのは、その情報の出どころだ。
イベント村のクヌートさんに詳しく話を聞くと、色々と教えてくれるらしいのだ。いや、俺話を聞いたよ? そして思い返してみると、クヌートさんはハッキリと発酵って言ってたかもしれない。正直、醸造と勘違いしてた……。
発酵樽は始まりの町の醸造食品店で買えるらしい。ただし、醸造スキルを持っていないと、出現すらしないそうだ。植物知識がないと出現しないハーブ屋さんみたいなものだろう。場所は教えてもらったので、後で行ってみる。
それにしてもヨーグルトか。ぜひ作ってみたいところだ。調味料にも、食材としても、お菓子の材料にもなる万能食材だからな。
「あ、因みにヨーグルトに使う山羊乳は北の町で手に入るわ。牛乳は現在未確認」
「まじですか? あとで北の町に行ってみます!」
「渡したデータに情報が入ってるから」
「わかりました」
さっき行った時は全然気付かなかったな。もっと畑なんかがある農業区画に行かないとダメなのかもしれない。
あれ? でもイベントの村に牛がいたけど。アリッサさんに伝えたら、驚かれてしまった。どうやら他のサーバーでは見つかっていないらしい。もしかしたら好感度に加え、スキルなんかが必要なのかもね。その情報も査定に加えてくれるらしい。
「じゃあ、町の地図とかあったら欲しいんですけど。東と北で」
「あるよー。これね。一応、うちのクランが把握している情報はほぼ掲載されてるから。イベント発生場所とかもバッチリ」
「え、そんな凄い地図、いいんですか?」
「偉そうに言ったけど、見つかってないイベントもまだまだたくさんあるだろうし、そこまで凄くはないのよ。まあ、お店とギルドの情報は全部載ってるから、そっちは参考にしてみて」
「わかりました」
データを受け取った瞬間、俺のステータスウィンドウの真っ白だったマップに様々な情報が一気に表示された。料理屋には早耳猫独自の星まで付けられている。これがあれば町での行動はバッチリだろう。
「まあ、とりあえず欲しい情報は以上ですかね」
「他にない?」
「え? いや、ないですけど」
「そう……」
「何か問題が?」
「それがね……」
アリッサさんが深刻な顔で呟いた。
「手持が今20万Gしかないの」
「はあ?」
20万しかって聞こえたが、2万の聞き間違いだよな?




