160話 オレア
土霊の試練を脱出するのは簡単だった。まだモンスターがリポップしていなかったので、普通に出れたのだ。
因みに、入手したアイテムを確認するためにインベントリの中を見ていたら、いつの間にか緑翡翠が1つ増えているのに気づいた。宝石発見の効果かと思ったが、そうではなかった。宝箱を最初に開けたボーナスだ。水霊の街でも青翡翠がもらえたが、こっちでは緑翡翠だったらしい。
街を出る前に、店を軽く回る。
「アリッサさんのところに行く前に、ここの店の品揃えをキッチリ確認しておかないとね」
どうせ所持金が足らないので、ホームオブジェクトと鉱石屋しか見ていなかったのだ。でも、町の情報を売るなら正確な品揃えは分かっている方が良いだろう。
店の種類自体は道具屋や雑貨屋など、水霊の街と変わらない。ただ、売っている品物はかなり違っていた。
農作業用の道具などが色々と売っていて、どれも欲しくなる。そんなことを考えながら道具屋を見ていたんだが、俺は思わずその場で崩れ落ちた。
「まじか……」
始まりの町で手に入れたジョウロとクワだが、なんとそれと同じ名前のアイテムが販売していたのだ。問題はその性能である。値段は同じなのに、こちらの方がやや品質が高かった。
「分かってたらこっちで買ったのに! それにこれ……」
さらに高性能なクワも売っていた。土結晶のクワ、30000Gである。アリッサさんに情報を売ったら、ぜひこれも欲しい。でも、買ったばかりのクワが無駄になってしまうな。
「つまり、このクワは無駄だったということか」
「ムッム」
「慰めてくれるのか?」
「ム」
オルトが俺の腰をポンポンと叩いてくれる。思えば、俺が失敗するといつもオルトが慰めてくれる。本当にありがたいことだ。
「ム」
「そうだよな、落ち込んでいても仕方ないし、これを有効利用できる方法を考えよう」
「ムム!」
「よし、じゃあアリッサさんのところ行くか」
「ムー!」
気を取り直した俺たちは、土霊の街を出立した。まずは北の町から無料転移で始まりの町へと向かう。
全員でアリッサさんのところに行っても仕方ないしね。オルト達には畑をお願いして、ルフレだけを連れて行こうと思っていたんだが――。
「あれ? 誰? いやナニ? モンスターなのか?」
畑に見慣れぬ生き物? がいた。疑問形なのは、本当にそれが生き物なのかどうか分からなかったからだ。植物っぽく見えるが……。
「トリー!」
敵意はないらしい。愛らしい声で、俺の足元に纏わりついて来た。その姿はなんと表現すればよいか……。
サクラは少女が木の葉を使った衣装を身に着けている姿なのだが、この子は体自体が植物性のパーツで構成されていた。木の枝と葉っぱで体が造られたピノキオとでも言おうか。
メインフレームは茶色い木の球体関節人形で、頭部と胸部、腰、腕や膝下は木の葉を束ねたキャベツっぽいパーツになっている。そして、鼻がピノキオみたいに長かった。サイズは非常に小さく、80センチくらいしかないだろう。
「トリ!」
人形くんは、キラキラした目で俺を見上げている。鑑定してみると、オリーブトレント・分身と表示された。
「え? オリーブトレントなのか?」
「トリトリ!」
俺が尋ねると、分身はそのまま俺を先導して歩き出した。その先は、オリーブトレントの苗木を植えた場所だ。
その先には、一昼夜で急激に成長したオリーブトレントの姿があった。昨日までは1メートルほどの低木だったのに、今日はすでに3メートルほどの立派な樹になっている。サクラが生まれた時と同じだな。
「トリー」
「あ、ちょっと――え? 消えた?」
分身はそのままの勢いでオリーブトレントに突進すると、幹に溶けるように消えて行った。そして、名付けを求めるアナウンスが流れる。
「ま、まあ、とりあえず名付けるか。ふっふっふ、オリーブトレントに名前を付ける時のことを考えて、色々と考えていたのだよ。お前の名前はオレアだ!」
オリーブの学名から頂いただけだが、悪くはないよな? 悪いって言われても、もう名前付けちゃったけどさ。
名前:オレア 種族:オリーブトレント 基礎Lv1
契約者:ユート
HP:8/8 MP:30/30
腕力8 体力8 敏捷2
器用8 知力6 精神2
スキル:株分、光合成、樹精分身、戦闘不可、素材生産、農地管理
装備:なし
見たことのないスキルが多いな。それを見ながら悩んでいると、再びさっきの小さい子供の様な姿の人形が現れた。しかも2体も。鑑定すると、今度はオレア・分身1、オレア・分身2と表示された。
名前:オレア・分身1 種族:オリーブトレント 基礎Lv1
契約者:ユート
HP:2/2 MP:7/7
腕力2 体力2 敏捷1
器用2 知力2 精神1
スキル:株分、戦闘不可、素材生産、農地管理
装備:なし
分身1も2も、能力が大分低い。樹精分身のスキルだけが無いな。どうやら、樹精分身はその名の通り分身を作る能力らしい。しかも複数いけるようだ。
戦闘不可、農地管理のスキルから見ても、畑に固定で、その管理を任せることができる様だ。樹精分身があれば手も足りるだろうし。面白いな。
分からないのが素材生産スキルだったのだが、分身にインベントリを開くようにジェスチャーで促され、開いてみると何となくスキルの効果が理解できた。
インベントリの中に、オリーブトレントの実×3、オリーブトレントの枝、樹精の霊木が入っていたのだ。これらはオリーブトレントのドロップアイテムだ。どうやらオリーブトレントの素材を定期的に生産してくれるスキルであるらしい。
「ありがとうな?」
本体は見た目普通の樹だから、分身と本体どっちを褒めたらいいのか分からんな。一応、本体の幹を撫でておいた。すると、枝葉がサワサワと揺れ動く。うん、喜んでくれているみたいだ。
「トリ~♪」
一緒に分身も喜んでいることから、やはりつながっているんだろう。
「これはアリッサさんから色々と情報を買わないといけないな。ちょうどこれから会いに行くし、グッドタイミングだったな。オレア、畑から外に出れるか?」
「トリ……」
どうやら無理らしい。分身はあくまでも分身で、個別に行動はできないってことなんだろう。
「そうか。俺は行かなきゃいけないけど、皆と仲良く待っててくれな?」
「トリ!」
「皆も、新しい仲間をよろしく頼むぞ」
「ムム!」
「――♪」
「キキュ!」
「クックマ!」
オルトたちがオレアの分身と共に、オレアの本体の周りを踊りながら回りはじめる。勿論、ファウのBGM付きだ。オレアも楽しそうだし、この分ならすぐに馴染むだろう。
「じゃあ、俺たちは行くぞ」
「フム!」
ルフレを連れて畑を出発した俺は、東の町へと向かった。いやー、売りたい情報がまた増えたな。オリーブトレントの情報も買いたいし、早く行こう。




