159話 土霊の試練
土霊の試練に突入した俺たちは、最初の部屋を抜け次の部屋へと向かっていた。道中もかなり暗い。足元に気を付けないと結構危険そうだった。実際、段差に足を取られて1度転びそうになったし。オルトが支えてくれなかったらコケてただろう。
「次の部屋だ。皆気を付けろよ」
「ム!」
「クマ!」
オルトとクママを先頭に部屋に突入すると、そこには全長4メートルほどの蛇がいた。リアルで出くわせば腰を抜かしそうな大蛇だが、このゲーム内ではこれでも小型なんだから嫌になる。現在確認されている最も大きな蛇は、全長10メートルほどのフィールドボスらしい。
「ストーン・スネークか」
「シャー!」
「蛇タイプだからな。毒があるかもしれん、気を付けろ」
「クックマ!」
「ムム!」
激戦になるかと思われたが、戦闘は意外と早く決着がついてしまった。非常に素早く、攻撃力も高かったが、HPと防御力が低かったのだ。水霊の試練で戦った亀よりも、大分戦い易かった。まあその分オルト達壁役への負担は大きかったが。
「お疲れ様」
「ム!」
「フム!」
オルトとルフレが良い笑顔でサムズアップを返してくれる。うーん、頼りになるね。
「さて、この部屋は――おっ、採掘ポイントがあるな」
「ム~!」
「よーし、掘るぞー」
分かりやすい壁の裂け目があり、そこが採掘ポイントになっていた。オルトと一緒に壁を掘る。
「やっぱり鉄鉱石が採れるか。あとは土鉱石ね」
さすがに土属性のダンジョンなだけあって、採掘が優遇されているのかもしれない。
「水霊の試練だと、どの部屋にも水中の通路が繋がってたはずだ。だとするなら、土霊の試練にも何かギミックがあってもおかしくはないと思うんだが……」
皆と一緒に部屋を隈なく探索する。そして、遂に求める物を発見した。オルトが。
「ムッムーッムッムー」
「やっぱり隠し通路か部屋があったか。オルト、頑張れ!」
「ムッムムー!」
隠し宝箱を発見した時と同じ様に、オルトが壁を掘り始めている。1分程掘り続けると、穴の先に細い通路が現れていた。
隠し部屋ではなく、隠し通路だった様だ。それにしても狭い。そして天井が低い。どれくらいかと言うと、オルトがギリギリ歩けるくらいだ。俺がこの通路を通ろうと思ったら、腰をかなり屈めるか、四つん這いにならなきゃ無理だろうな。
「うちの子たちなら通れるけど……」
俺がここをずっと進むのはきつい。もし戦闘になったら何もできずに死に戻るだろうし。パーティを半分に割ったとしても、戦闘力不足でどっちもピンチになるはずだ。
「仕方ない。今日のところは諦めよう」
俺たちは隠し通路を諦めて、次の部屋に向かう事にした。3つ目の部屋は光源の数が少なく、かなり薄暗い。暗視のネックレスが無かったら、全部は見通せなかっただろう。
「キュ~?」
「フム?」
リック達が警戒しながら部屋を見回している。だが、俺は大慌てでリック達を止めた。
「待て! 敵がいる!」
部屋の隅に、狂った土霊がいたのだ。しかも、逆側の天井に初見のモンスターがぶら下がっている。どうやら蝙蝠みたいだな。名前はダーク・バットとなっていた。
「キキーッ!」
「ファウ、火魔召喚で明かりを増やせ!」
「ヤー!」
「サクラは蝙蝠を優先的に!」
「――!」
「狂った土霊の落とし穴に気を付けろよ!」
蝙蝠はメチャクチャ戦いづらかった。動きが不規則で攻撃を当てるのが難しい上、闇に溶け込んで姿をくらますのだ。うちの子たちも度々その姿を見失っていた。
その都度、俺やオルトがその場所を教えてやらねばならない。戦闘力が低いのが唯一の救いだろう。
しかも、ダーク・バットを気にしていると狂った土霊にしてやられるのだ。皆にダーク・バットの位置を教えるのに夢中になり過ぎて、石の弾丸で吹き飛ばされた。なんとか死に戻らなかったが、危なかったぜ。
この部屋にも採掘ポイントがあるが、やはり土鉱石、鉄鉱石が採れるな。しかも俺レベルでもこの数が採れるんだから、もっとレベルが高い人間だったらさらに大量に、高品質で採掘できるんじゃないか? 鍛冶師にとっては夢の様なダンジョンかもしれない。
そのまま意気揚々と4つ目の部屋に突入したが――。
「やばいやばい! 一斉攻撃だ! ガンガン行こうぜ! 出し惜しみなしだ!」
いやー、死にかけました。なんと、狂った土霊のユニーク個体に遭遇してしまったのだ。石を飛ばす術で散々削られたよ。狂った精霊のユニーク個体は全体攻撃を放ってくる。うん、覚えたぜ。
サクラの樹魔術がなかったら全滅してたね。しかもテイムできなかった。
2体目のノーム、居てくれても構わなかったのに。むしろ欲しかったのに。だが、テイムする暇などなく、倒すしかなかったのだ。でも俺は満面の笑みである。何せ土結晶が手に入ったからね!
ノームは本当に残念だけど、ユニーク個体は絶対にレアドロップを落とす。ノームなら土結晶だ。これはマジで嬉しかった。
「うーん。元は取ったし、ポーションもギリギリ。どうしようかな……」
進むか退くかで悩んでいたら、耳元で電話の呼び鈴の様な音が鳴り響いた。フレンドコールである。
「もしもし?」
『やっほー。アリッサです。なんか売りたい情報があるんだって? ルインに聞いたよー』
「そうなんですよ」
『じゃあさ、時間があるならぜひ売りに来てよ。今日は東の町にいるからさ。あ、でも無理そうなら始まりの町に行くよ?』
キリは良いし、ここで探索は切り上げるか。
「いえ、東の町で大丈夫です。今から行きますね。1時間以内には着くと思います」
『了解~。待ってるね~』
「じゃあ、また後で」
『うん。期待してるよ~』
さてと、まずはダンジョンから出ないとね。




