158話 土霊の街
「僕はノームの長。君たちを歓迎するよ」
ノームなんだが、ちょっとだけ大人っぽい? オルトよりも10センチくらい背が高いだろう。あとは服が豪華か。それ以外はほぼ一緒だな。髪の色も緑だし。少年ぽい笑みはそっくりだ。
「ありがとうございます」
「ム~! ムムッ! ムム~!」
ノームの長を見たオルトが、興奮した様子で騒ぎ出した。そして、長の前に行くと、ピョンピョンと飛び跳ねて何やらアピールしている。
「おや。僕の仲間を従えているんだね。うんうん、この子も幸せそうだ」
「ム~」
ノームの長に頭を撫でられたオルトが嬉しそうに頷く。サクラと樹精様と一緒で特にイベントは起きないけど、オルトが嬉しそうに笑っているのを見れただけで十分だ。
「じゃあ、こっちきて」
「ムッムー!」
長が俺たちを先導して歩き出す。オルトはまるで電車ごっこのように、その後ろにピッタリと付いて行く。
長に案内されて街に行くのも水霊門と同じだった。ただ目に飛び込んで来た土霊の街の姿は、水霊の街とは大分様相が違っている。
あっちは徹底的に美しさを追求しているイメージだったが、こちらはもっと荒々しい。そもそも、基本が洞窟だった。
高い天井からは巨大な鍾乳石が無数に垂れ下がり、凄い迫力がある。地面からは色とりどりの水晶みたいな結晶が乱雑に生え、まるで水晶の森のようだった。階段や通路は水晶の森を縫うように作られ、水晶の隙間に石の建物が作られている。光源も淡く光る水晶たちだ。
水霊の街と共通するのは、一目見ただけで心を奪われてしまう美しさだろう。水霊の街は計画された美しさ、こちらは自然の美しさの違いはあるけどな。
「すっげー」
「ムッムー!」
「なんでお前が胸を張る」
オルトが俺の呟きを聞いて、何故かドヤ顔だ。いや、仲間が作ったんだろうが、お前が作ったわけじゃないだろうに。
「ようこそ土霊の街へ。楽しんで行ってね」
ノームの長と別れた俺たちは、そのまま町を見学していった。オルトにそっくりなノームたちが至る所にいて、ムームーと談笑? したり、作業をしたりしている。これは天国じゃね? 慣れてる俺でさえこうなんだから、オルトのファンがここを見たら鼻血を噴いて倒れちゃうかもな。
ウキウキしながら街を回ってみると、店の種類はほぼ一緒だ。ただ、魚屋の代わりに鉱石屋があった。なんと、鉄鉱石が売ってる。確かレアな素材だったはずだ。いや、あれから時間が経過してるし、もう違うのか? でも、見向きもされなくなっているわけではないだろう。これは良い情報だ。
あと、販売しているホームオブジェクトもかなり違っている。水霊の街ではスプリンクラー、井戸、水耕用のプール、浄化の泉が売っていたが、この店の商品で畑に設置できるのは4種類だった。
腐葉土を生み出す腐葉土箱。畑の品質上限を上昇させるミミズが入っているというワームボックス。地下に設置する遮光畑。下級の鉱石が自動生成されるホームマイン。
どれも非常に面白いんだが、俺の手持ちでは買えない物ばかりだった。前2つが3万G。畑が4万、ホームマインは6万Gもするのだ。本当に残念である。まあ、精霊門の情報をアリッサさんに売ればそれなりの値段で買い取ってくれるだろうし、1つくらいは買えるだろう。もしかしたら2つ買えちゃうかもしれない。
「じゃあ、軽くダンジョンを確認しに行くか」
杖は弱いが脱出の玉はあるし、どうにかなるだろう。あ、ダンジョン突入の前にスキルスクロールを使っておこう。
「どんなスキルがもらえるか――。ふむ、宝石発見? 聞いたことないスキルだな」
採掘系だろうか。ちょっと調べてみると、βでこのスキルをゲットしたプレイヤーが居たらしい。所持していると、採掘などの際に低確率で宝石系アイテムが入手できるというパッシブスキルだ。確率も非常に低いため、あまり利用価値はないスキルらしい。でも、長い目で見たらお得なスキルではなかろうか? 俺は採掘をするつもりだし、その内発動するだろう。期待して待つとしようかな。
ただ水霊門で水中探査、土霊門では宝石発見と、それぞれの属性に関係ありそうなスキルがもらえたな。火霊門なら火に、風霊門なら風に関係あるスキルか? ちょっと興味がある。
まあ火霊門はもう解放されてるから、狙うなら風霊門だろう。風結晶は持っていないが。
それよりも今はダンジョン探索だ。俺たちは慎重に土霊の試練へと突入した。ダンジョンは壁に水晶が大量に埋め込まれた洞窟だ。何とか水晶が手に入らないかと頑張ってみたんだが、やはり無理だった。壁は破壊不可能らしい。
「最初の敵はさっそく狂った土霊か。うわー、メッチャ怖い」
「ム」
オルトのような子供なのに、顔がグレムリンみたいなホラーフェイスである。狂った水霊と同じだな。向こうは鬼女風で和っぽい恐怖がそこはかとなく漂っていたが、こちらは洋画に登場する人に襲い掛かる幼児人形っぽい。
俺的にはこっちの方が嫌かな。サダ子よりもチャッキーの方が怖いのだ。
「皆、集中攻撃だ! あと、落とし穴に気を付けろ」
以前アリッサさんと話した時に、初見殺しのモンスターだと聞いたことがある。その時に、落とし穴が察知できないという話をしていたはずだ。
案の定、狂った土霊の落とし穴にはまったよ。俺がね! だが、オルトとルフレに何とか助け出してもらい、狂った土霊を倒すことに成功したのだった。水と樹が弱点なので、水霊よりも土霊の方がダメージがより通るのだ。
「ふぅ。何とかなったか。危なかったぜ」
「ムム」
「フム」
「助けてくれてサンキューな」
オルト達に礼を言いながら、部屋を探索してみる。水霊の試練では最初の部屋に隠し宝箱があるし、ここにもないかなーと思ったのだ。
ただ、どれだけ探しても見つからない。諦めて先に進もうかと悩み始めた時だった。
「ムム!」
壁に耳を当てていたオルトが、突如壁を掘り始める。どうやら隠し部屋を探し当てたらしい。さすがノーム。土のエキスパートなだけある。
「ムッムームッムー!」
破壊不能なはずのダンジョンの壁が、その部分だけバリバリと削れていく。3分後。壁の向こうには4畳ほどの部屋が出現していた。その中には宝箱が置いてある。罠はないようなので開けてみると、中には暗視のネックレスというアクセサリが入っていた。
名称:暗視のネックレス
レア度:3 品質:★9 耐久:200
効果:防御力+4、暗視ボーナス
重量:1
やはり最初の部屋の隠し宝箱は、ダンジョンの攻略にお役立ちのアイテムが入ってるみたいだな。
さっそくネックレスを装備してみると、まるで昼間のように洞窟の中を見通すことができた。ヒカリゴケや光る水晶のおかげで明るいと思っていたが、やはり外に比べたら大分暗いんだな。比べてみると分かる。
そうやって部屋を見回していたら、隅に生えていたクルス茸を発見した。暗視が無い状態だと、相当近寄らないとアイテムや採掘ポイントを発見できないらしい。暗闇は思っていた以上に厄介かもな。




