157話 土霊門
始まりの町、東の町での作業を全て終えた俺は、この後どうするか悩んでいた。水霊の街へ行ってダンジョンアタックしようかと思ってたんだが、明日は土の日。
つまり土霊門が出現する日なのだ。土結晶もあるし、ぜひ行ってみたい。場所の予測もついている。牙の森にある、ストーンサークルだろう。
ただ、そのためには今日中に門の前までたどり着いておかないとならなかった。ログインが遅れたせいで、すでに夕方だし、あまりのんびりもしていられない。
「とりあえず牙の森に行こうかな」
実は以前にアリッサさんから羽音の森の情報を買った時に、一緒に他のエリアの情報も送ってくれていたのだ。北にある牙の森、西の爪の樹海、南の角の樹海にある謎オブジェクトの場所とボス戦の注意点などの情報である。いやー、こんなサービスをしてくれた理由は分からないが、今度お礼言わないとな。
「そんじゃ、みんな行くぞー」
「ムムー!」
北の平原を抜け、牙の森へと突入する。まあ、ここは今の俺たちであれば全く問題が無かった。小型の虫系モンスターが多い羽音の森の方が厄介なくらいだ。
俺たちは順調に歩を進め、中継の村に到着する。ここでは本当にやることが無いので、20分程休憩したらすぐ出発したけどね。
そのままストーンサークルを確認しに行っても良いんだけど、まずは北の町に向かっちゃおう。そこで転移陣の登録をしておかないと、後々面倒なのだ。
「牙の森のボスは、ダガーウルフだな」
北の平原といい、こっちはイヌ科縛りなのかね? まあ、戦い方はいたってシンプルである。それは防御重視で戦いながら、状態異常を狙うという物だった。
第2エリアの4ボスの中で、最も強いと言われているダガーウルフは、早くて硬くて強い。典型的な強敵タイプのボスだ。ただ、状態異常への耐性がかなり低いらしく、毒、麻痺、眠りなどにことごとくかかってしまうんだとか。幸い、うちのパーティは状態異常を狙えるメンバーが揃っているし、毒薬なども使いたい放題だ。何とかなるだろう。
戦闘前に、クママに狩猟薬、サクラに麻痺薬、リックと俺に毒薬を使っておいた。素早さの高い相手に俺が直接攻撃を加える機会があるとも思えんが、そこは念のためだ。
「イヌ科の敵はちょっと怖いんだが……」
初期にワイルドドッグにかみ殺されたトラウマだ。まあここは行くしかないんだが。
「仕方ない! とっとと倒すぞ! でもオルト、守ってね?」
「ムム!」
そうして始まったボス戦だったんだが、ちょっとボスを舐めてたわ。岩石巨人にも完勝したし、このボスにも余裕をもって勝てると思ってたんだけどね……。
「ギャオォォン……」
「あっぶねー!」
ボスが毒のダメージで倒れた時、俺のHPは残り2割ほどであった。代用品の杖を使っているせいで俺の水魔術の威力がかなり下がってしまい、与ダメージが下がっていたのが原因だ。戦闘時間が伸びて、ボスの攻撃を食らう回数が増えたのだ。
改めて杖の重要さを思い知ったぜ。まあ、死に戻りはなかったので、いい勉強したと思おう。
「ようやく北の町か。見た目は東の町とほぼ同じだな」
「ヤー」
俺の呟きに、肩に乗っているファウが応える。ただ、向こうが全体的に青っぽいイメージカラーの町だったのに対して、北の町はイメージカラーがイエローだった。家の屋根なども黄色の家が目立つし、レンガなどもやや暖色系でまとめられている様だ。
入り口からすぐの場所にある大広場で転移陣を登録する。これで今後は簡単にこの町に来れるはずだ。
「少し町を歩いてみるか」
日付が変わるまでにまだ3時間くらいはあるし、少し北の町を散策してみることにした。歩きながら、幾つか目についた物を買っていく。
「ラランララ~♪」
「フムム~」
「ムムッムム~」
「クマンマ~」
オルトとルフレとクママのスキップトリオが先頭だ。リックとファウは俺の肩にそれぞれ乗っている。サクラは俺の隣を歩きながら、にこにこと笑っていた。
皆で楽しく町を散策しながら、逃走の玉や紅葡萄などを購入していった。売り物は東の町とほとんど一緒だろう。まあ、違う物が無いわけではないと思うので、明日以降に暇を見つけて探検しよう。そうして町を簡単に一周する頃には、出発の時間である。
「発見! 本当にストーンサークルだ!」
「キュー!」
目指すストーンサークルまでは、小1時間でたどり着いた。その名前の通り、小高い丘の上に、高さ2メートル、幅1メートル、厚さ30センチほどの板状の石が4枚。円を描くように配置されていた。
とりあえず皆で周辺を探索してみるが、目ぼしい発見はない。仕方ないので、少し待とう。
そのまま待つこと5分。ついに日付が変わる。その瞬間だった。
『土霊の祭壇に土結晶を捧げますか?』
「よっしゃ、キター!」
やはりここが土霊の祭壇で間違いなかったか! Yesを決定すると、土結晶を祭壇に安置しろと言われた。祭壇って、このストーンサークルの事か?
とりあえずストーンサークルの中央に土結晶を置いてみた。すると、水霊門が解放された時と同じ様に、黄色い光が天に立ち昇る演出が発生する。
そして光が収まった後、やはり水霊門にそっくりな石の門がストーンサークルの中央に出現していた。そのまま待っていると、ゴゴゴと重低音を上げながら門が内側へと開いていく。その直後のワールドアナウンスまで、全く同じであった。
《精霊門の1つが解放されました》
『土霊門を開放したユートさんにはボーナスとして、スキルスクロールをランダムで贈呈いたします』
やったね。ただ、今は取りあえず中に入っちゃおう。水霊門は水の中に入る様なエフェクトだったが、こちらは真っ暗闇である。初めてがここだったらもっと躊躇していただろうが、すでに精霊門を通るのには慣れている。
俺はあっさりと土霊門に足を踏み入れた。体に闇が纏わりつく様な感覚が一瞬あるが、すぐに門の向こう側に出る。内装も、ほとんど水霊門と一緒だな。違うのは、出迎えてくれた者の姿くらいか。
「いらっしゃい解放者さん!」
「どうも」
出迎えてくれたのは、オルトにそっくりな少年だった。
「僕はノームの長。君たちを歓迎するよ」




