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156話 無料転移

「まずは畑仕事からだ」

「ムッムー!」


 始まりの町で農作業、調合など、やれることを済ませていく。次に料理をしようかと思ったんだが、先に無人販売所をチェックしておこうかな。作った料理は販売してみたいし。


「さて、今日の売り上げは――おお! また完売じゃないか! サクラ!」

「――?」

「サクラの作った木工製品が完売だぞ!」


 1つ1つは安いんだが、量は結構多い。纏まると結構な額だった。ヒカリゴケの苔玉も3つ全てが売れていた。


 ログを見てみると、これが一番最初に売れている。素材は雑木と雑草だけなので800Gとかなりお買い得価格だし、売れるとは思ってたけどね。買った人の感想とかちょっと聞いてみたいな。なにせうちのサクラの力作だし。


 ただ、今後も800Gで販売するのはちょっともったいない気もする。これはもっと高くても絶対に売れると思うんだよな。どうにか素材の原価を上げることは出来んかな? 雑草はどうにもならないから、木材か? 木材を雑木ではなく、それこそ水樹などを使えば、販売価格を上げる事が出来るはずだ。次からはそうしよう。今日は料理を売るつもりだから、明日以降だけど。


 そんなことを考えていたら、畑の前に見たことのある少女が立っていた。どうやら無人販売所を目当てにやって来たらしい。ただ、名前が思い出せない。誰だったっけ? 絶対に最近会ったことがある。


「あー、こんにちは」

「こんにちは! 私のこと覚えててくれたんですね」

「まあ、顔だけはね~」


 ここは素直に名前は覚えていないと言ってしまえ。向こうも覚えられてるとは思ってなかったみたいだし。だからあっちからは声をかけて来なかったんだろう。


「あ、私はセルリアンと言います。第2エリアの村でお会いしました」

「あ! ツヨシとタカユキの同級生か!」

「はい。あの時はありがとうございました」


 10近くも年下とは思えん礼儀正しさ。やっぱり良いとこのお嬢様なんだろうか。


「今日はどうしたんだ?」

「はい、実は掲示板で話題になってた木工インテリアが欲しくて始まりの町に来たんです」

「話題の木工製品のインテリア? へえ、そんなのがあるのか? どこで売ってるんだ?」


 もしそれほど高くないなら俺も欲しい。サクラのお手本になるかもしれないし。


「……」

「どうした?」

「あの、白銀さんの無人販売所のことですよ?」

「ええ? あ、もしかして苔玉か? 売り出したのは昨日なのに……」

「買った人がすぐに掲示板に画像を載せてて、すっごい話題になってますよ」

「まじで?」

「はい。その前に売ってた料理の事も、すごい騒がれてます。白銀さんがまたやらかしたって」

「や、やらかした?」

「いえ、いい意味ですよ。いい意味。よくやってくれた的な?」

「そうか?」


 とてもそうは思えないが……。またやらかしたって言われるってことは、前にも同じ様に言われてたって事だろ?


「それで、私も買えないかと思って急いで来たんです」


 苔玉は自信作だから、ちょっとくらいは話題になるかもって思ってたけど、早すぎるな。ヒカリゴケはそこまで大量に育ててないから、苔玉は今すぐに量産できないんだが……。まあ、今後は売る時に個数制限を付けよう。


「実は、もう全部売り切れちゃってな」

「ああー、やっぱり! 始まりの町に居れば間に合ったかもしれないのに! 東の町に行っちゃってたんですよね」

「まあ、また売るつもりだから、その時に買ってくれよ」

「わかりました」

「あ、ちょっと待った! 欲しいのは苔玉か?」

「はい……」

「じゃあ、これを持って行っていいぞ」


 俺は東の町の納屋に飾ろうと思っていた苔玉をセルリアンにあげることにした。顔見知りだし、わざわざここまで来てくれたみたいだしな。手ぶらで返すのはちょっとかわいそうだ。


「え? いいんですか?」

「ああ、俺はすぐに作れるから」

「ありがとうございます! お幾らですか?」

「いや、いいよ」

「そうはいきませんよ!」

「じゃあ、800Gで」

「安! じ、じゃあこれをどうぞ」


 安いというか、無人販売所の販売価格と一緒なんだけどね。


「ありがとうございました! また来ますね!」

「ああ、またな」


 まさか苔玉の話が広まっていたとは。たしかに綺麗だしな。いやー舐めてたわ。サクラにたくさん作ってもらわんとな。


 その後、東の町に転移して畑仕事を済ませた俺は、醸造樽を前にして唸っていた。


「ううむ。もう醤油が出来たのか?」

「フム!」


 酢が2日で出来るとは聞いていたが、醤油まで2日で完成するとは! どうやらルフレの発酵スキルは、醸造の時間を半分にしてくれるらしい。


 納屋の中に並べてあった樽を開けると、醤油、味噌、魚醤、葡萄酢、納豆が出来上がっていた。品質は村で手に入れた物よりも低い★4だが、これで安定供給のめどが立った。心置きなく料理に使えるな。


 インベントリに仕舞ってみる。どうやら1つの樽から30個生産されるらしい。結構多いじゃないか。


 さすがゲームなだけあって、醸造樽の中をインベントリに仕舞うと、樽は新品同様に綺麗になった。特に洗ったりせずとも再利用可能であるらしい。


 俺は再び醤油、味噌、葡萄酢、魚醤を仕込んだ。紅葡萄は買えるからね。さらに今日はワインも仕込んでおいた。こっちも料理に使えるのだ。


「まあ、味噌や醤油は村に無料で行けるから、品質が高い奴がどうしても欲しくなったら村で――ああ!」

「フム!」

「おっと、すまんルフレ、脅かしちゃったか」

「フム~?」

「いや、ちょっと凄い事考え付いた」


 俺は村に無料で転移できるよな? そして、村からは始まりの町に転移できる。つまり、村を経由したら始まりの町と東の町を無料で行き来できるんじゃ……。


 俺は慌てて転移陣へと走った。そして村へと転移してみる。すると、問題なく転移できてしまった。そのまま始まりの町へも転移してみる。こちらも問題なかった。勿論、ルフレも一緒にだ。


「うわー、やっちまったぁ!」


 すでに何度もお金を払って転移陣を利用している。めっちゃ無駄だった!


「あれ? ユートくんかい?」

「お、ジークフリードか。久しぶりだな」

「ああ、そうだね。何か困っているみたいだけど、だいじょうぶかな?」

「ああ、大丈夫だ。単に自分の馬鹿さ加減に呆れていただけだから」


 俺が始まりの町の転移陣の前で頭を抱えていると、なんとジークフリードに声をかけられた。さすがに騎士プレイをしているだけあって、困っている人間は見過ごせない様だ。


 俺が転移陣の無料使用方法を思いつかなかったという話をすると、ジークフリードが肩を、ルフレが腰のあたりをポンポンと叩いて慰めてくれる。良い奴らだよ!


「そう言う失敗も、ゲームの醍醐味じゃないか。次は気を付ければいいのさ」

「そうだな」

「それに、イベントの村は始まりの町と、第3エリアからしか転移できないから、ずっと無料転移をし続けられる訳じゃないしね」

「そうなのか?」

「ああ、僕も無料の転移を使ってたんだけど、第5エリアの町からは村を選択できなかったからね」


 なるほど。でも俺にはあまり関係ないな。しばらくはそんな先に行く予定ないし。


「ありがとう、色々ためになった」

「いや、お役に立てたら嬉しいよ。それで、東の町に戻るのかな?」

「え? そうだけど……なんで知ってるんだ?」

「なんか東の町にいたら、知り合いからユートくんを見なかったかと、何度も聞かれてね。何か話題になっているみたいだよ?」

「ええ?」


 何で? めっちゃ怖い。いや、ルフレのことが広まってるのか? オルトたちも人気者だし、ルフレも負けず劣らず可愛いからな。


「フム?」

「まあ、聞かれたら、早耳猫に情報を売るつもりだからちょっと待ってくれって言おう」

「フム~」


 ジークフリードが爽やかに微笑み去っていった後、俺たちは東の町へと戻ることにした。金を無駄にしたのは痛恨ではあるが、これで町を行き来しやすくなったのは確かだ。畑の世話も楽になるね。



次回は5月2日更新予定です

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