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153話 サクラ印誕生


「じゃあ、水霊の街に行く前に品種改良を試しちゃおう!」


 今なら採取物も色々あるし。


「まずはこれだな!」


 東の町で入手したキュアポーション! こいつとニンジンを品種改良を使って混ぜ合わせれば――。


「完成だ!」


 赤いキュアポーションの満たされた瓶と、青ニンジンが光り輝き混ざり合う。そして、その両方が消え去ったテーブルの上には、謎の種というアイテムが残されていた。


 前に雑草水とホレン草を合成して、苦渋草を造り出した時と同じだ。これを植えればキュアニンジンが作れるだろう。


 その後は色々と品種改良を試してみる。


「うーん……」


 そうそううまくいかないのは分かっているが、こうも成功しないとテンション下がるな。上手くいきそうな組み合わせはほぼ試しちゃったし、ここは運に任せてみようか?


 俺は納屋のテーブルの上に品種改良に使えそうな物を適当に並べると、目を瞑ってゴチャゴチャに混ぜ合わせる。さらに念を入れるため、俺はテーブルの前で目を瞑りながら3回転した。おお、初めての試みだが、ゲームの中でもきっちり三半規管が揺さぶられる感覚があるぞ。


「おっとぉ」


 ゲームの中でも目は回るとは、無駄に高性能なゲームシステムだぜ。俺はテーブルの縁を頼りに体勢を立て直す。そして、両手をテーブルの上に伸ばした。最初に手に触れた物をそのまま手に取る。


「ハチミツと苦渋草か……」


 どう考えても成功しそうにないんだけど。いやいや、自分でランダムでやってみようって決めたんだ。ここで止めたら俺は単に机の上を散らかして、目を瞑ってその場で回転しただけのちょっと変な人になってしまう。どうせ自分で考えた組み合わせは全て失敗したんだし、ここはダメ元で行ってみよう。


「はい失敗ー」


 ゴミがまた1つ増えました。ただ、せっかくここまでやったんだし、あと何回かはチャレンジしてみることにした。


 とは言え、そう上手くいくはずもなく、3回連続でゴミを作り出す。ただ、4回目にして、素材が白い輝きを放った。


「こ、これはもしかして……!」


 やはり成功だ。いや、まさか成功するわけがないと思ってたから、めっちゃ驚いてしまった。だが、テーブルの上には確かに謎の種が残っている。


「微炎草と橙カボチャか……」


 全く想像できない組み合わせだった。まあ、かなりの素材を無駄にしたが、1日で2つも成功したんだから良しとしておこう。俺はオルトに種を渡して、植えてもらうことにした。


「頼んだぞ」

「ムム!」

「さて――、これで水霊門へと向かえるか?」


 皆を呼ぼうとしたんだが、俺はサクラが木工で作っている謎の物体に目を奪われた。


 納屋の前にいつの間にか置かれていた椅子に腰かけたサクラと、その肩の上に載ってリュートをポロンポロンと爪弾いているファウ。サクラはその状態で木工で作品を仕上げているんだが、どう見ても食器ではなかった。


 椅子はサクラが自分で作ったと思うが、その手に持っている物体は何だ? 野球ボールサイズの丸い緑の球体が、木で出来た小さい皿に乗っている。さらに、その球体の天辺からは、細い枝の様な物が飛び出していた。


 見ただけでは何なのか全くわからない。


「サクラ、何を作ってるんだ?」

「――?」

「そう、それ」

「――♪」


 サクラが差し出してきた物を手に持って観察する。小さい木の皿の上に、緑色のフカフカの玉が鎮座していた。鑑定してみると、苔玉と表示される。


 名前は苔玉・ヒカリゴケとなっているな。特殊な効果はなく、観賞用と書いてあった。毎日水やりが必要な様だが、それでずっと光り続けるらしい。


「ええ? どうやって作ったんだ?」

「――♪」


 俺の疑問の呟きが聞こえたんだろう。どうやら目の前で作ってくれるようだ。もう一脚あった椅子をサクラがポンポンと叩いてくれるので、遠慮なく座らせてもらう。この椅子もいいな。しっかりしてるし、座りやすい。


 椅子に感心する俺を横目に、サクラはまず最初に木材を削り始める。そうやって作り上げたのがピンポン玉サイズの木の玉だった。ただ、天辺には何故か小さな穴が空けてある。この木球を苔玉の芯にするんだろうが、あの穴は何に使うんだ?


「――♪」

「ヤー!」


 サクラは、取り出した草をファウの前に持っていき、何やらやり取りをしている。どうやらハーブでも花でもない、本当に利用価値のない雑草であるらしい。そこら辺に生えている奴だな。すると、ファウが錬金アーツである乾燥を雑草にかけた。


 雑草が見る見る枯れて行き、まるで藁の様に変化してしまう。鑑定してみると、ゴミではなく枯れた雑草というそのまんまの名前になっていた。そう言えば、これは試したことがなかったかも。


 でも、苔玉を作るんじゃなかったのか? だが、サクラはその枯れた雑草を木球に巻きつけ始めたではないか。


 木球が隠れる程度に枯れた雑草を巻いたところで、サクラが取り出したのは細い木の枝だった。何かと思ったらアジサイだ。木球に開けた穴は、これを差すための物だったらしい。


 アジサイはハーブとしても使えない観賞用の花だった。以前、種を手に入れてオルトに育ててもらっていたのだ。まあ、育ててはみたものの使い道もなく、完全に忘れてしまっていたが。それでも、オルトはきっちりと育て続けていてくれていたのだろう。


 よく見ると先に蕾が付いている。もしかして挿し木的な感じで、このまま根を張ったりするのだろうか? 苔玉は水をたっぷり含んでいるだろうし、花が咲くくらいはするのかもしれない。面白いな。


 サクラはアジサイが刺さった木球にヒカリゴケをペタペタと張り付け、魔術をかけている。プラントヒールかな? 苔もアジサイも植物だし、長生きさせる様な術であることは確かだと思う。使い道のないアジサイだし、サクラが利用してくれるのであればバンバン使ってくれて構わないぞ。


 いや、待てよ。アジサイって紫の花が咲くよな? あれで雑草水を作ったら、紫の雑草水とかできないか? もし作れたら、木工に茶色以外の色を付けられると思うが……。


 サクラに尋ねてみると、何やら感心したように頷き、右手で左の手の平をポンと叩く。そして、俺にアジサイの花を差し出してきた。その眼は期待に満ちている。


「分かった分かった。ちょっと待てよ」


 俺はサクラから受け取ったアジサイを鍋にぶち込み、火にかけてコトコトと煮込んでいく。サクラはそれを嬉しそうに見ていた。


「お? 色が出て来たんじゃないか?」


 以前作った雑草水と違い、明らかに色が茶色ではない。そのまま煮込み続けると、雑草水が完成した。しかも、ちゃんと色は紫だ。鑑定では単なる雑草水だけどね。


「ほれ、これでいいか?」

「――♪」


 サクラが、アジサイを煮出して作った紫の雑草水に、作った皿を躊躇なくドボンと突っ込んだ。この光景は前にも見たな。以前、サクラに木工の行程を見せてもらった時にも、こうやって雑草水にティーカップを浸けて、色付けをしていた。


 待つこと十分、取り出した白木の皿は、アジサイの様な紫色に染まっている。毒々しい濃いパープルではなく、薄淡い和風の紫だ。最後に、作り上げた苔玉を皿に乗せれば完成だった。


名称:苔玉・ヒカリゴケ

レア度:1 品質:★8

効果:なし。観賞用。要水やり・毎日


「メチャクチャ綺麗だな」


 フワフワの苔で覆われた丸い玉、その天辺から伸びるアジサイ。そして、主張し過ぎない淡紫色の皿。これは中々の完成度だった。


「しかもヒカリゴケで作ったってことは、夜に光るんだろう?」

「――♪」

「もしかして、前に言ってた事を覚えててくれたのか?」

「――!」


 ヒカリゴケを手に入れた時に、俺が何気なく言った「これで苔玉作ったら綺麗そうだ」という言葉を覚えていて、作ってくれたらしい。


 まさか木工で作れるとは思わなかったが、確かに木材と植物しか使っていないしな。木工の範囲内だったらしい。俺が覚えている苔玉は土とかも使っていたはずだから、木工に限らず陶芸とか工作でも作れるかもしれない。


「じゃあ、折角だからこれは納屋の中に飾ろうか? ここと、東の町に1つずつで」

「――♪」


 自分の作った物を飾ってもらえるのが嬉しいのか、サクラが笑顔で頷く。納屋のテーブルの上に1つ飾ってみた。窓を閉めて暗くしてみると、ちゃんと光っている。これは綺麗だな。照明の替わりにはならないが、そのくらいの方が美しいのだ。


 サクラの木工製品を見てみると、あと3つ苔玉が出来上がっていた。俺が品種改良をしている間に頑張って作ってくれていたらしい。


「これも無人販売所で売ってみようか?」

「――♪」


 ギルドに行って、再び無人販売所の場所を始まりの町に動かしてもらう。もし東の町で料理を待ってる人がいたらごめんなさい。


「よし、早速登録しよう。名前はなんて登録しようかな」


 折角サクラが作ってくれたんだし、それが分かる名前がいいよな。


「うーん。じゃあ、苔玉・サクラ印でいいか」


 ついでに、今までは木製食器・スプーンとか味気ない名前だった物も、全部スプーン・サクラ印の様に分かりやすい名前に変えておいた。なんかブランド名っぽくて格好いいな。


「――♪」


 サクラは無人販売所の設定画面を見ながら、満面の笑みを浮かべていた。喜んでくれているようだ。


「そうだ、紫の雑草水、もっと作っておくか?」

「――!」


 もっと欲しいらしい。これは水霊の街に向かうのは、もうちょっと後になりそうだな。


「じゃあ、桶がいっぱいになるくらいは作っておこう」


 結局、俺が全ての作業を終え、出発できたのはそれから1時間後の事であった。


 いや、別にかまわないんだけどね。その間にサクラが紫色の食器をたくさん作ってくれたし。俺やうちの子たち全員分だ。いやー、食器の数が多いと、それだけで料理をしたくなるから不思議である。


「じゃあ、サクラには暇な時にまた木工で食器を作ってもらって、それを無人販売所に登録しような? 紫の食器なら、茶色の食器よりも売れるだろ」

「――♪」



次回は23日更新予定です

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― 新着の感想 ―
Caro Sr. Talvez um estudante. Existem também ervas venenosas. Porém ali e um jogo. Assim como foi di…
紫陽花は毒あるのでハーブはさすがに無理ですね笑
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