147話 料理の幅が広がりました
醸造クエストを終えた俺は、畑に戻るためにウインドウショッピングをしながら歩いていた。まあ、残金2806Gなので、本当に見るだけだが。
魔道具屋などで欲しい道具をチェックしつつ、街を歩く。
すると、その次にのぞいた雑貨屋では新しい種を発見できた。なんと、黒ジャガというジャガイモの種だ。普通はタネイモから増やすと思うんだが、そこはゲームなのでしかたない。種は500Gか……。いや、無理してでも買っちゃおう。ジャガイモがあれば肉じゃがも作れるし、今から楽しみだね。
雑貨屋の隣には薬屋があった。売っている物は俺でも作れるポーションなどだが、1つだけ初見のアイテムがある。キュアポーションだ。これはHP回復効果+毒、麻痺の回復も行えるというアイテムだった。ただ、それぞれの効果が小さく、あまり人気はないらしい。
2000Gもしたが、買わないと言う選択肢はなかった。何故って? これは以前見かけたキュアニンジンの素材の1つなのだ。キュアポーションと青ニンジンを品種改良で合成すればキュアニンジンが作れるらしい。
「よし、念願のキュアニンジンが手に入るぞ!」
前回品種改良を試した時と違って、今は様々な作物や素材を持っている。ここでまた品種改良を色々と試すのも面白いかもな。
そんなことを考えながら最後に俺が通りかかったのは、ハーブなどを扱う露店であった。店には塩、胡椒にハーブ類が置かれている。そんな中で目を引いたのは、50Gで売っていたゴロッとした塊の薬味だ。
「ニンニクはハーブ扱いなのか?」
「そうだよ。料理にも使える薬味さ。1つどうだい?」
「あ、ああ。頂くよ。安いし。なあ、ニンニクの種はないのか?」
種があるならぜひ欲しい。ダメ元で聞いてみたんだが――。
「種? そうだな~。お願いを1つ聞いてくれるなら、譲ってあげても良いよ」
やはりこの世界のNPCは色々と融通が利くな! 尋ねてみてよかった。
「やった! それで、どんな事をすればいいんだ?」
「実はお腹がペコペコなんだ。美味しい料理を作って来てよ。それと、僕の店で売っている塩以外の商品を3種類以上使用する事。いいかい?」
面白いお題だな。縛りありの料理作製か。
この店で売っている塩以外の商品となると、胡椒、カモミーレ、バジルル、レッドセージ、ブルーセージ、オレガーノ、ニンニクだな。とりあえず持っていないニンニクだけ購入し、俺は一旦畑に戻ることにした。
「すぐに美味い料理を持ってくるから、待っててくれ」
「期待してるよ」
これは水霊門で手に入れたばかりの食材の出番である。ニンニクを発見したことで、作ってみたい料理が出来たのだ。畑への道中、色々と料理の構想を練っていたら、ふとあることが気になった。
「そう言えばウンディーネって何食べるんだ? 魚介類? それともサクラみたいに食事を必要としないとか?」
「フム~?」
「まあ、それも要検証だな」
色々食べさせてみれば分かるだろう。
「では料理を始めましょう。今日のアシスタントはルフレさん。BGM担当はファウさんでーす」
「フム~」
「ランラララ♪」
リックは戻って来るなり納屋の屋根で日向ぼっこをしている。自由ですな。ファウは某調味料会社様の3分クッキングのテーマ曲を演奏中だ。
「取り出す食材は、水霊門で手に入れた牙大魚の切り身です。まずは軽く塩を振りましょう」
「フム」
「お次はフライパンにオリーブオイルを敷き、この魚を軽くソテーします。軽く焦げ目がついて、良い匂いがしますね~」
「フム~」
「ここに千切ったバジルル、スライスしたニンニク、切った白トマトに、今日ゲットしたばかりのビギニシジミを殻ごといれます。塩、胡椒も忘れずに。最後に白ワインの代わりに葡萄酒を少し注いで準備はオーケー。ルフレさん、このフライパンにお水を入れてください」
「フム~」
ルフレはやっぱりアクアクリエイトが使えたか。しかも俺が生み出す水よりも高品質だ。料理スキルもあるし、むしろルフレに全部任せた方が上手くいくんじゃ……。
「いやいや、まさかね」
「フム?」
「ま、まあ。俺の趣味みたいなものだし、ここは俺がメインで進めさせてもらおう」
水を張ったフライパンを火にかけ、沸騰すれば完成だ。ユート特製、アクアパッツァモドキである。アクアパッツァと胸を張って言えないのは、代用食材ばかりだったからだな。
本来だったらバジルルではなくパセリだし、シジミはアサリ、トマトはプチトマトなのだ。お酒も白ワインだし。まあ、それでも出来上がった料理はアクアパッツァとなっているので、成功って事かな。
名称:アクアパッツァ
レア度:3 品質:★4
効果:満腹度を37%回復させる。解毒効果。
解毒の効果が付いた。戦闘終了後に毒を食らったままだったら使ってみるのも良いか? いや、フィールドで食事をしてる余裕があるかどうか……。そして、安全な場所を探す時間があるなら自然治癒するだろう。あまり意味のある効果ではないかもしれない。
「いや、今は味が大事だ。とりあえず食べてみますか。いただきまーす」
ちょいとお行儀は悪いが、その場で試食だ。
「モグモグ――うん。味は悪くない」
葡萄酒を使ったせいかちょっと甘い気もするが、そこまで気にならないだろう。これは良いものを作ったぞ。
俺が試食をしていると、強烈な視線を感じた。横を見ると、ルフレだ。口の端からタリーッと涎を垂らして、俺の手元のアクアパッツァを見つめている。
「……」
「フム~」
俺が皿を手に持って動かすと、ルフレの顔が皿を追って動く。右左右左、まるで物理的に皿に視線が固定されているかのように、ルフレの視線は絶対に皿から離れなかった。
「ルフレ、これが欲しいのか?」
「フム!」
「そうか。ほら、食べていいぞ」
「フム~♪」
どうやらウンディーネの主食は魚料理であるらしい。まあ、ルフレは釣りスキルがあるから、自分の分は取ってこさせることは可能だろう。ただ、今のところ魚料理のレパートリーは極端に少ない。焼き魚と、アクアパッツァだけだ。これは少し精進せねば。
その後、俺は再度作製したアクアパッツァを露店のおじさんに持って行った。クエストはもちろん達成である。美味い美味いと貪り食っていた。
「ニンニクの種も手に入れたし、畑に戻ろう」
「フムー」
この後は何をしようか。品種改良は畑の作物が収穫できる明日以降じゃないと難しいしな。
遂に地獄の四月に突入しました。忙しさがいつ落ちつくか……。
あと数話は毎日更新出ると思いますが、その後はどうなるか分かりません。
下手をすると2週間ほどは3、4日に1回となるかもしれませんが、よろしくお願い致します。




