146話 色々入手
「じゃあ、これとこれで」
俺はシュエラに場所を聞いた東の町の農業ギルドで畑の購入をしていた。
今の俺が買えるのは20面まで。どうせだったら一気に全部そろえちゃおうか? なにせ臨時収入があったしね。
畑の値段は始まりの町よりも1000G高いので、最もグレードが高い畑で7000G。納屋付きの畑で11000Gである。本当は納屋付きの物を1つ買い、残り19面を7000Gで揃えたいんだけど……。しめて14万4000Gである。俺の手持ちは11万G。全然足りないね!
まあ、元から足りないのは分かっていた。だからとりあえず10面くらい買うつもりだったのだ。だが、シュエラに素材が高く売れたせいで、ちょっと欲が出てきてしまった。少し無理してもここで20面揃えられないかね?
俺は一旦畑の購入を止め、農業ギルドのクエストを確認してみる事にした。やはり、東の町独自のクエストが幾つかある。それらをこなしてはみるものの……。
「全部で20000Gか」
これで手持は13万G。正確には13万4506だ。ギルドランクが上がったことで、NPCを雇って畑で働いてもらえるようになったらしい。ただ、ほとんどのNPCがスキルレベル1~4で、5以上の人間はお給料がそれなりに高かった。今はあまり意味が無いな。
仕方ない。幾つかを、3000Gで買えるハーブ栽培用の最低グレードの畑にしよう。その結果、6つをハーブ用に変更し、12万Gちょうどで畑を入手したのだった。
場所は全て隣同士に固めて、農業ギルドに近い場所を選ぶことも出来た。まだファーマーが少ないおかげで、なんとか井戸の隣も確保できたし。ただでさえ少ないファーマーが各町に分散しているおかげで、まだまだ農地は余っている状態らしかった。第2陣が入ってきたら、畑の利用者も増えるのかね?
畑に井戸として設置できるホームオブジェクトもあった。しかもこれは普通の井戸と違い、品質が高い『清水』という水が無限に汲み上げられる井戸であるらしい。
品質的には井戸水→清水→浄化水という感じだった。浄化水よりは品質が低いが、調合にも使えるはずだ。だが、俺の残金は14506G。50000Gもする井戸には到底手が出なかった。くそう、そのうち絶対に手に入れてやる。
さらに農業ギルドで買える物に、面白い物を見つけた。紅葡萄という果物の苗だ。緑桃の苗もある。しかも、葡萄を育てるために必要な棚の設置まで請け負ってくれるらしい。自分での設置も可能らしいので、とりあえず苗と棚を2つずつ買っておいた。これで残金が9206Gとなってしまったが、仕方ない。仕方ないのだ。
「毎度あり! またよろしくな!」
「やべー。残金が10000きったんだけど……。散財し過ぎたか? ま、まあ、新しい果物もゲットしたし、畑を見に行こう」
「ム!」
畑の有る区画は、始まりの町とほとんど変わらないな。ただ、道や街灯などのデザインが少し違うので、新鮮さもある。
「ムム~」
「――♪」
畑が目に入ると、オルトとサクラが嬉しそうに駆け出した。やはり畑が好きらしい。
今朝は日課の調合を行わず、全ての収穫物を残しておいた。半分はいつも通り始まりの町の畑に株分して蒔き、残りはインベントリに仕舞ってある。俺はそれらの種をオルトに渡しておいた。これで後は任せておけばいいだろう。
「あ、そうだ。先にオブジェクトの設置しないと」
まずは浄化の泉だ。
「オルト、どこがいいと思う?」
「ムー……」
「お、考えてるね」
「ムム……ム! ムムーッ!」
「お、ここか?」
「ム」
少しの間、腕を組み、目を閉じて何やら考えていたオルトだったが、突然目を見開いて、ビシーッと納屋の隣を指差した。ここなら調合で納屋を使う際、楽でいいね。
「フム~♪」
泉を設置した瞬間、ルフレがいきなり飛び込んだ。水を掬って自分にかけては、気持ちよさげに目を細めている。
「フムン♪」
「まあ、ウンディーネだしな」
「フムー!」
乾燥したらヤバいとか、そう言う事だろうか? だとすると、冒険中は常に水を持ち歩いた方が良さそうだな。
心配なのは泉から湧き出る浄化水の品質がどうなるかだが……。まあ、それも明日汲んでみれば分かるだろう。
俺は水遊びをするルフレを横目に、オルトの指示通り、納屋の裏側に葡萄用の棚を1つ設置した。もう1つは始まりの町に設置するつもりだ。向こうの果樹園も充実させたいからね。
「よし、オルト、サクラ、クママ、畑は任せていいか?」
「ムッムー」
「――♪」
「クマー」
良い敬礼です。毎回上手くなっている気がする。もしかして練習とかしてるんだろうか。まあ、オルト達に任せておけば問題なさそうだ。
「じゃあ、俺たちは醸造樽をゲットしに行くぞ!」
「ヤー!」
「フムー!」
「キュー!」
こっちはこっちで、集まって来た皆が一緒に拳を突き上げる。これも動きが揃っているな。まじで練習してるのか?
「まあ、今は醸造樽だ」
アリッサさんから買った情報によると、この町に凄腕の醸造家がおり、そのクエストをこなすことで特殊な醸造樽が入手できるらしかった。
発生条件が醸造スキルらしいので、とりあえず取得しておく。あとはその醸造家に会いに行くだけだ。
「ここ……だな」
一見すると普通の民家にしか見えない。アリッサさんの情報が無かったら絶対に発見できなかっただろう。最初に発見したプレイヤー、よく見つけたな。きっと斜め上のプレイをする変わったプレイヤーに違いない。
「すいませーん」
俺はドアをノックしながら声をかけた。すると、ドアが内側からゆっくりと開く。
「誰かね?」
「えーと、冒険者のユートと言います。こちらに凄腕の醸造家がいらっしゃると聞いて来たんですが」
「凄腕かどうかは分からないが。私が醸造家のマーシャルだ」
「ぜひ、ご教授頂きたいのですが」
「構わんよ。中に入りなさい」
「はい」
その後はトントン拍子に話が進んだ。聞いていた通り、醸造のイロハを教える代わりに緑桃の木材を入手してくると言うクエストが派生したのだが、俺はすでに所持している。なんと、アリッサさんへの情報料にこの木材の代金も含まれていたのだ。アフターサービスも完璧であるらしい。これをその場で渡せば、あっさりクエスト完了であった。
「よし、確かに受け取った。では、お主に醸造の何たるかを教えてやろう」
あとはその場で酒の醸造に関する事を教わり、終了だ。その時に緑桃で作った、酒類の醸造期間が短縮されるという樽が1つと、その木工レシピ、葡萄酒を作るための紅葡萄×5がもらえる。
しかも、今後ここに来れば数種類の醸造樽が買えるのだと言う。この樽も通常販売品よりも品質が高く、非常に良い品であるらしい。
早速ラインナップを見せてもらうと、醸造樽、小型醸造樽、酒類用醸造樽の3種があった。とりあえず通常の醸造樽を3つ、酒類用醸造樽を1つ購入しておく。
俺の醸造はまだLv1なので、醸造樽は同時に1つしか扱えない。どうやらルフレはスキルレベルLv15相当の4つまで扱えるらしいので、彼女の分が4つの計算だ。
あと、お酒も販売していた。葡萄酒と緑桃酒の2種類だけだが。これも1つずつ買っちゃおうかな? 自分で作るにはまだ時間がかかるだろうし。
「いや、両方はやめておくか……」
1つ1000Gもした。仕方ないので葡萄酒だけを買っておこう。これなら料理にも使えるからな。
「飲んでも良いし。一度酩酊を経験するのもいい」
このゲームでは酩酊という状態異常がある。酒を飲み過ぎるとなる状態で、体がフラフラしてまともに動けなくなるんだとか。
ただ、その状態になるのはリアル年齢が20歳以上のプレイヤーだけで、未成年の場合はそもそも酒を飲んでもジュースの味になり、酩酊にならないらしい。その辺、このゲームは厳しいのだ。
まあ、大人の俺には関係ないけどね! いい大人が会社休んで廃人プレイするなっていう苦情は受け付けません。男はいつまでも少年なのだ。体は大人、心は少年。それが成人男性という生き物である。だからお酒も飲みますとも!
「じゃあ、醸造樽もお酒も手に入ったし、さっそく醸造をしてみるか」




