144話 東の町へ
命からがら水霊の街まで戻ってきた俺は、ようやく一息ついていた。いやー、強い敵との連戦は精神が削られるわ~。
「まずは……戦利品の確認からいっちゃいますか」
結構色々あるぞ。採取品は水草。採掘で水鉱石と錫鉱石。釣りで魚各種。さらにポンドタートル、ファング・グルーパー、狂った水霊のドロップ品だ。
「鱗とか甲羅はそのうち何かに加工するか売っちゃえばいいとして――えええ?」
俺はドロップ品の中にある物を発見して仰天していた。
「水結晶? まじで?」
そう言えば、ノームのドロップには土結晶があるって言ってたな。ウンディーネは水結晶を落とすってことか。
「捧げた結晶を取り返したぞ~!」
本当にうれしい。何せ50000Gを手に入れたみたいなものだ。無理してダンジョンに挑んで本当に良かった。
もう1つ、目を引いたのは魔魚の切り身、魔魚の大トロというアイテムである。食材アイテムだ。この大トロなんてレア度が4だぞ。多分レアドロップなのだろう。食べるのが今から楽しみだね。米があれば寿司にできるのに。
「次はルフレの能力の確認だ」
「フム?」
「ちょっと待てよ~」
掲示板を軽く調べてみたんだが……。
「やっぱウンディーネの情報はないな」
掲示板には何の情報も載っていない。未確認のモンスターだったようだ。なので、通常個体との差はどれほどなのかは分からない。だが、ユニーク個体用のスキルは、発酵か水中行動だろう。
というのも、他の醸造、調合、釣り、水魔術、料理の5スキルは俺でもボーナスポイントを消費すれば取得可能なスキルだったのだ。
ただ、水中行動はウンディーネなら普通に持っていてもおかしくはない。なので、オルトの育樹に当るスキルが、ルフレの発酵で間違いないと思われた。
「料理系生産特化ってことなんだろうな」
「フムン!」
ただ、発酵と醸造の違いって何だろう? 勝手なイメージだが、発酵は固体、醸造は液体? いや、でもヨーグルトとか味噌とか、微妙にどっちにも入りそうなものもあるし……。
どちらにせよ、ここじゃ試せないし、町に戻ったら色々と実験しよう。それにルフレが手に入ったおかげで醸造樽の必要性も増した。これは絶対に良い樽を仕入れたい。
「ダンジョンの様子は確認したし、お店も全部見た」
この街でやれることはだいたい終わっただろう。もう俺はいつでも来れる訳だし、やり忘れがあってもまた来ればいいか。
「あ、ボス戦用にポーションは買っておくか」
羽音の森のフィールドボスはかなり弱い。というより、戦闘方法が完全に確立されており、その方法を使えばほぼ無傷で勝利が可能なのだ。
勿論、アリッサさんから買った情報にはその方法が記されている。なので多少消耗していても、問題なく勝利できるはずだった。ただ、何が起きるか分からんからね。保険は大切なのだ。
「おや、お帰りですか?」
「あ、はい」
「またいらしてください。その子をよろしくお願いしますね?」
「わかりました」
ウンディーネの長とも言葉を交わすが、特にイベントなんかはなさそうだった。狂った水霊を解放したことで何かあるかと思ったんだけどな。いや、それでイベントが起きたらテイマーが優遇され過ぎか。
水霊の街を出発してから1時間。
「あれがボスだな」
俺たちは羽音の森のフィールドボス、岩石巨人へとたどり着いていた。その姿は3メートルを超える石の巨人で、とても弱そうには見えない。
実際、まともに戦えばかなりの強敵で、初期は第2エリアのフィールドボス中で最強とも言われていたらしい。
まあ、それも戦い方が確立されるまでだったわけだが。
「じゃあ、行くか」
「ムー!」
俺たちは意気揚々とボスエリアへと足を踏み入れた。
「ゴゴゴゴゴ!」
ボスエリアに侵入した俺たちを発見した岩石巨人は、俺たちに向かって突進してくる。あまり速くはないが、あの石の腕でぶん殴られたら、俺程度は即死のはずだ。
だが、俺たちは何もせずに一斉に散開した。モンス達にはすでに戦い方を教えてあるからな。放って置いても大丈夫だ。
「ゴゴゴゴ!」
「遅い遅い!」
「ゴゴォ!」
「こっちこっち!」
「ムッムー!」
「フムー!」
俺たちは一切攻撃をせず、岩石巨人の拳を躱し続けた。すると、岩石巨人は突然その動きを止める。そのままクラウチングスタートの体勢を取った。
「来た来た! クママ! 気を付けろ!」
「クックマ!」
力を溜めこむ様に数秒間止まった岩石巨人は、直後にアメフト選手の様なタックルを繰り出してくる。結構速いが、予想してれば躱すことは難しくない。
そして、タックルを回避された岩石巨人はつんのめる様に倒れ込んだ。倒れた時の衝撃のせいなのか、上半身と下半身の間に隙間が生まれ、その隙間から青く光るボールの様な物が露出している。
「みんな! 総攻撃!」
「ヤー!」
「キュキュー!」
「クマクマー!」
「――!」
これがこのボスとの戦い方だった。攻撃を一切せずに逃げ回っていると、その時点でHPが最も高い者に対して、タックルを仕掛けてくる。現状ではクママだな。
そして、タックルを避けられてしまうと一定時間倒れ込んで動かなくなり、その際に弱点であるコアが露出するのだ。そこに攻撃を叩きこみ、起き上がったら再び逃げ続ける。
ある程度攻撃を避ける技術さえあれば、無傷で勝利できる相手だった。
難点は時間がかかる事だな。幾らコアが弱点だと言っても、俺たち程度の攻撃力では総攻撃で1割程度しか削れない。つまり、10回は繰り返す必要があり、戦闘に1時間近くかかってしまった。
それでも俺たちはこの作業を根気よく続け、ノーダメージでボスを突破したのだった。
「皆、お疲れー。これで第3エリアに行けるぞー」
「ムッムムムー!」
「キュッキュー!」
「クックマクックマー!」
「フムー♪」
うちの子たちは輪になってマイムマイムらしきものを踊っている。ファウが加わってから、皆の歓喜の舞がより派手になった気がするな。事あるごとに踊っている。どこのパリピだ!
まあ、楽しそうだからいいけどね。