141話 亀と水霊
水中の宝箱を開いた後、俺たちは次の部屋に向かった。なんか妙に疲れたけど、まだ最初の部屋だからね。
薄暗い通路を進む。そして、次の部屋に入った直後だった。
「ゴアア」
「うお! まじか」
作りが最初の部屋とほぼ同じだったんだが、なんと水中からモンスターが飛び出してきた。恐ろしい登場の仕方だな。
これじゃ、部屋の手前から中をのぞいて、敵が居たら逃げると言う方法が使えないじゃないか。水中探査はまだレベルが低いから、そこまで遠くは調べられんし。まあ、入り口で使ってみればどうにかなるか?
「初めて見るモンスターだな」
名前はポンドタートル。小型の亀のモンスターだ。ただ、飛び出してきたときの身のこなしを見るに、亀でもそれなりに速く動けそうだった。
初見の魔獣なので、まずはやることがある。
「うーん……。テイムは不可のモンスターか」
テイムに指定できないという事は、従魔にすることができないか、サモナー専用のモンスターってことだろう。ならば倒すしかない。
「一匹なら、とりあえず戦ってみよう。みんな、頼むぞ!」
「ムム!」
小さい外見とは裏腹に、この亀がかなり強い。攻撃方法は突進と、口から吐く水鉄砲が主なのだが、どちらもこちらのHPを半減させる威力があった。
しかも亀なだけあって硬い。特に甲羅に隠れられると、攻撃が全然きかなかった。その間に微妙にHPを回復されてしまうのだ。
こういう物理防御力が高い相手には魔術なんだが……。水属性の亀に対して俺の水魔術は半減どころか8割減だし、ファウの火魔召喚もあまり効かない。
唯一、樹魔術は弱点属性なんだが、未だ低レベルの俺の樹魔術ではアクアボールとどっこいのダメージしか出なかった。そもそもLv1で覚えている樹魔術の攻撃魔術が、ウッドウィップという地面から木の蔓を生やして攻撃する術なんだが、ダメージが低い代わりに相手を拘束する術なのだ。これではダメージはあまり期待できない。
サクラの樹魔術とリックの木実弾はかなりのダメージを出してるんだけどな。
それでも、サクラの樹魔術で麻痺らせ、最後はリックの投げた青どんぐりが止めを刺す。20分近くかかった。雑魚戦では最長記録だ。
「ふー、戦いづらい相手だったな」
「キュー」
レベルが上というのもあるが、やはり防御力が高い相手はうちのパーティーと相性が悪いようだった。
この先どうしよう。もしこの亀が複数現れたらかなり危険だ。3匹以上なら勝ち目はないと思う。
「その場合は速攻で逃げればいいか」
「ムム」
とりあえずこの部屋を探索してみると、地上部分には何もない。だが、やはり水の中には何かがあった。
潜ってみると、それは水草だ。せっかく見つけたんだし、今は育てられなくてもとりあえず採取しておく。
名称:空気草
レア度:3 品質:★4
効果:口に含むと、潜水時間が伸びる
これって、どう考えても水中呼吸薬の材料だよな。できるだけ採取しておこう。あと、小さすぎて水中探査には引っかからなかったが、ビギニシジミもゲットできた。エビもいたが、速過ぎて全く捕まえられない。こっちは諦めよう。
さらに水中を探索するが、さすがにこの部屋には宝箱はないな。ただ、水中にはやはり通路があり、前の部屋とも水の中で繋がっているようだった。勿論、奥にも続いている。
水草を採っていると、ザブンという水音が聞こえたので上を見上げると、リックが水中に飛び込んできているのが見えた。おいおい、大丈夫か?
心配して見ていたんだが、潜水して水草を引き抜くと、そのまま急いで水面に上昇していく。全く泳げないことはないが、得意ではないってことなんだろう。まあ、採取の手は多い方がいいし、ここは頑張ってもらいましょう。
水草とシジミをあらかた採取し終えた俺たちは、次の部屋に向かう。すると、そこには恐ろしい形相の鬼女が待ち構えていた。
「こ、怖っ!」
水色の髪に、シースルーの羽衣。ウンディーネの特徴だ。だが、顔が鬼と見間違うほどに恐ろしい。
つり上がった眉に、大きく見開かれた白目。頬はこけ、その顔には深いしわが幾重にも刻まれている。さらに口は堅く結ばれ、その奥からは歯ぎしりの音が今にも聞こえて来そうだった。
山姥とか、そう言った類とそっくりな顔である。名前は狂った水霊。これが狂った精霊という事なんだろう。ホラーが苦手な人は、夢に見そうだな。
どうやら1体だけらしい。しかもこちらには気づいていない。先制攻撃のチャンスだ。
「よし、いくぞ!」
「――!」
俺たちは一斉に狂った水霊に襲いかかった。少しでもダメージを与えるように、俺も樹魔術を使っておく。おお? 結構効いた。5%くらいは削れたんじゃないか?
そして俺は思い出した。以前ゲットした大樹の精霊の加護の効果だ。
称号:大樹の精霊の加護
効果:樹木系、精霊系モンスターとの戦闘の際に与ダメージ上昇、被ダメージ減少
とは言え、今のままじゃ微々たるものだ。結局じり貧である。
とりあえずテイムしてみると、こちらはテイムが効いた。こうなったら、テイムできることを信じて、テイムを使い続けるしかない。
狂った水霊も亀に劣らずウザかった。物理防御力では亀に負けるものの、水魔術の攻撃力がハンパないのだ。称号の効果があっても、直撃したら6割近くHPを持っていかれた。
「ファウは絶対に食らうなよ!」
「ヤー!」
最悪、他の子たちを盾にしても良い。ファウのレベルでは、当たれば即死が確定だ。
「テイム! やっぱ効かないな!」
俺よりも格が高いモンスターなんだろう。一向にテイムが成功する気配はない。時おり回復を織り交ぜつつも、もう20回は使ったはずなんだが。
結局、テイムすることなく、クママの一撃が水霊のHPを削りきる。まあ、命が大事だし、テイム狙いで耐えることはしなくていいだろう。というか、怖くてできない。次はもうテイムは諦めて、俺も攻撃に回るか……。
「ムム!」
「どうしたオルト?」
「ムー!」
戦闘終了後、オルトが何やら水中を指差している。俺はオルトの隣で一緒に水中をのぞいてみた。
「あれは……採掘ポイントか!」
「ムッムー!」
「あ、オルト!」
ザブン!
オルトが飛び込んだ。見守っていると、オルトは不格好ながら泳いでる。そして、水中にある採掘ポイントへとたどり着いた。壁にできた亀裂の様な場所だ。その前で何度かクワを振るう。
そして、勢いよく水から上がって来た。全身びしょ濡れのまま、土下座するような恰好で息をゼーゼーと荒げている。やはり、水中は得意ではないらしい。泳げないと言うよりは、呼吸が続かないんだろう。
採掘の成果を確かめてみると、驚きの素材が入手できていた。
「水鉱石が採れてる! もしかして、水鉱石の採掘率が高いのか?」
俺も行ってみよう。オルトをサクラに任せて、俺も水中に飛び込んだ。そして、買ったばかりの水霊のピッケルを使って採掘を行う。
ピッケルの効果か、水中でも抵抗なく振ることができる。
上に戻って確認してみると、水鉱石が3つ、錫鉱石が1つ採取できていた。やはり水鉱石が大量に採掘できるらしい。
「やった、良い場所を見つけた。他に採掘ポイントはないか?」
そう思って部屋の中を水中探査で探ってみたが、この1ヶ所だけらしい。これは他の部屋もぜひ探してみなくては。
「じゃあ、慎重に次の部屋にいくぞ」
狂った水霊が複数いたら、絶対に逃げる。亀との組み合わせでも逃げる。戦うのは1体の時だけだ。
「レッツゴー!」




