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14話 はいギルティ

最初に投稿した14話が非常に不評だったため、書き直しました。

 南の小広場に急ぐ。


 称号なんて貰ってしまったんだし、多少目立つのは仕方ない。それに、いつかはトッププレイヤーになって有名になりたいなーという人並みの野望はあったのだ。


 だが、今回貰った称号の情報を自分から広げて名を売ろうという気は全くなかった。


「アリッサさん!」


アリッサさんの露店を発見した俺は、その勢いのまま露店に突撃する。


「おやユートくん。2時間ぶり?」

「俺の情報を売ってるでしょ!」

「売ってないよ?」

「嘘だ! だって、俺の称号のこと知ってる人がいましたよ! その人、露店で女性から教えてもらったって」

「でも、露店をやってる女性なんて、たくさんいるよ?」


 そう言われれば、そうだが。


「情報屋にもルールっていうか、最低限のマナーはあるの。特に、お客さんの個人情報は、絶対に売らない。誓って売っているのは称号の情報だけよ? 結構売れ筋なんだから」

「でも、俺の情報を知ってて、誰かに教えるような人、他にいないじゃないですか!」

「本当にそうかな?」

「え? どういうことですか?」

「運がいいよ君。つい数分前に仕入れたばかりの最新情報なんだけど。あなたの称号を人に教えてる女性プレイヤーの情報、欲しい?」

「ほ、欲しいです。売ってください」

「じゃあ、500Gね」

「わかりました。はい。それで? 誰なんですか?」

「まあまあ、これでも飲んで落ち着いて。サービスしとくから。こっちはモンスターちゃんに上げてね。気に入ったら買いに来てよ」

「ハチミツニンジンジュース?」

「あなたにピッタリよ? モンスにもあげられる料理アイテムだから」

「へえ……美味い! めっちゃ美味しいですね!」

「でしょー」

「これってどうやって――いや、そうじゃなくて。早く情報を!」


 俺はジュースをインベントリにしまい込み、アリッサさんを急かした。こうしてる間にも、俺の恥ずかし情報が拡散していってるかもしれないのだ。


「中央広場にも露店があるのは知ってる?」

「まあ、見たことは有ります」

「そこの露店、ミレイの薬屋が情報の発信源みたい」

「ミレイの薬屋ですね?」

「桃色の髪の、犬獣人の女の子のやってるお店よ」

「わかりました。行ってみます」

「またきてねー」


 再びダッシュで向かった中央広場には、たくさんの露店があった。だが、プレイヤーズショップは数える程しかない。


 青マーカーを頼りに、一軒一軒覗いていくと、目当ての店は簡単に見つかった。


 なにせ、でかい声で「白銀の先駆者の情報有りますよ~」と叫んでいたからだ。


 それに釣られてか、数人のプレイヤーが露店の前にいた。少女が何か見せると、男たちが豪快に笑う。俺の話か? 俺のことを嘲笑っているのか? クソ、なんてことしてくれてるんだ!


 今すぐ怒鳴りこみたいが、今出て行っては笑い物にされるかもしれない。我慢だ、俺。そして、男たちが消えたタイミングを見計らい、俺は行動を開始する。目立たないよう、焦らずゆっくりとだ。


「白銀の先駆者の情報有りますよ~。噂の面白称号獲得者の正体教えますよ! ミレイの薬屋をよろしく!」


 お、面白称号だと? はい、ギルティ。


「おい!」

「いらっしゃいま……――」


 少女は俺の顔を見ると、青い顔で口をつぐむ。凄いなLJO、顔色まで変わるなんて。


 おっと、今は感心してる場合じゃないな。


「俺が誰かわかってるみたいだな?」

「あは」

「俺は全く笑えないんだが?」

「な、何のこと? あたししらなーい」

「悪あがきは無駄だぞ。全部聞いてたんだからな。あと、今隠したスクショを見せてみろ」

「うう」


 いかにも困った顔で、涙目になるミレイ。可愛いが、今の俺には通用せんよ。


「やっぱり俺のスクショか」


 ミレイが客に見せていたのは、死に戻った直後の俺のスクリーンショットだった。


「とりあえずGMコールするからな」


 どう考えてもマナー違反だし。さて、どういう行動に出るか。逆切れでもするか? だとしたら容赦しないが。


「ごめんなさい!」


 素直に謝られた。意外だが、それくらいで許してやるつもりはない。


「自分がやったことがマナー違反だって知ってるよな?」

「はい……」

「どれくらいの人数に教えた?」

「50人くらい?」

「な! ふざけんなよ」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」

「どうしてこんなことしたんだ!」

「私まだ駆け出しの商人なんだけど、スタートダッシュしたくて。何か商品を売る方法がないか考えて、買ってくれた人に特別な情報を教えれば売れないかなーって」


 まあ、気持ちは分からなくはないが……。いやいや、なにを共感してるんだ。それに、肝心なことをまだ聞いていない。


「どうやって俺の情報を知った?」

「私、昨日からずっとこの場所で露店開いてたの。全然お客さんも来ないし、暇で暇で。広場を観察してたんだ。ここからだと、帰還の石碑が良く見えるでしょ?」


 帰還の石碑は、死んだ際に戻ってくるための目印だ。大きな町にはこの石碑が存在し、登録しておけばその町に死に戻れる。


「それで、一番最初に死に戻ってきたあなたを覚えてたの。その後も2回も死に戻ってきたから、凄い記憶に残ってたし」


 それで、称号獲得者の発表を見て、俺のことだと分かったのか。まあ、そうだよな。初日から3回も死に戻ってたら、目立つよな。


「いやー、でも思った以上に盛況でさ。みんな、噂の面白称号の所持者が誰なのか、気になってたみたいよ」

「面白……」

「そんな間抜けなやつがいるのかって、みんな大笑いでさ~。本当ですよねーっていうと、皆追加で薬草とか買っていってくれて、大儲け!」

「……」

「あっ」

「やっぱりGMコールを」

「ごめんなさい! もうしないから! GMコールなんてされたら、暫くログインできなくなっちゃう!」

「それで済めばいいな」

「アカバンはいやー!」

「自業自得だろうが!」

「うう」


 泣いたって許さん。周辺の奴らの視線が集まっているが、俺は悪くないもんね。


「で、でも、名前とかは教えてないよ!」

「知らないからだろうが!」

「も、もう。嫌だなー、そんなに怒らないでよー。ね? ね?」


 今度は色仕掛けか。ただ、フレンド登録をしていないプレイヤー同士は肉体的に接触ができないからな。俺の腕に自分の腕を絡めようとして、悪戦苦闘している。


「ちっ。触れないのを忘れてたわ」


 おいおい、聞こえてないつもりか? 素が出てるぞ。


 触れることができないと分かったら、今度は胸の前で手を組んだまま、出来る限り俺に近づいて上目遣いで見上げてきやがった。


「ゆるして? お願い」


 くそっ。かわいい……。いやいや、何を考えてる俺。これはアバターだ。所詮はいじりたい放題の虚構に過ぎんのだ! それにこの小首の傾げ方、完璧に研究してやがる!


(これはアバター。これはアバター。これはアバター。それに性格も最悪)


 よし、精神統一完了。もう色仕掛けには騙されんぞ!


 俺が再び睨むと、色仕掛けに失敗したと悟ったのだろう。今度は何やらアイテムを抱えると、俺に押し付けてきた。


『ミレイから、アイテム譲渡の申請がありました。許可しますか?』

「これで何とか!」

「いやいや」

「ほら! 許可を押して! ね?」


 ふむ。今度は懐柔か。だが、こんな物貰うつもりはないぞ。そもそも内容がショボい。薬草とかそんなのばかりだし。高いアイテムは一つも入っていない。


 ここでアイテムを渡して有耶無耶にして、普通に商売を続ける気満々だ。全く反省の色が見えていない。


「じゃ、じゃあ、迷惑料支払うから! それで、なんとか! お願いします! それに、ほら。これもこれもあげるから!」

 

 俺の冷めた視線を感じたのだろう。ミレイが焦った顔で縋り付いてくる。またアイテムの譲渡申請だ。本気で反省しているようにも見えるが……。


「だが断る!」

「な、なんでよ! 嘘でしょ? ちょっとネタを放り込んでみたかっただけよね?」

「いや、まじで」


 もうこれ以上付き合うのも疲れるし、GMコールしちゃおう。俺がそう告げると、ミレイの態度が突然豹変した。


「止めなさいよ! ちょっとした情報を雑談がてら人に話しただけじゃない! 掲示板と何が違うっていうのよ!」

「いや、違うから」


 うわー、怖! 舐められないように平静を装っているが、ぶっちゃけ逃げたい。喚きたてるミレイはそれくらい迫力があった。まあ、これでGMコールに全く罪悪感を覚えずに済みそうだが。むしろBANされちまえ。


「自分の利益のために他人の個人情報を面白おかしく吹聴するのと、掲示板で語り合うのは全然違うだろ」

「こ、この野郎、下手に出てれば――」


 そして、ミレイの動きが止まった。


「え?」


 般若のような形相で固まったせいで、まるで悪鬼の彫像のような姿だ。怖い。これが女性の本当の姿なのだろうか。女性不信になりそうだ。


 だが、いったい何が起きた? 周囲を見渡しても、止まっているのはミレイだけだ。フリーズ? 処理落ち? いや、最新ゲーム機でそんなことある訳ないか。ミレイの本体で何か起きたとか?


 俺が困惑していると、今度は目の前に何者かが現れた。なんかスーツにネクタイ姿の、ファンタジー世界に似つかわしくないアバターだ。


「初めまして。ユート様」

「は、はあ。初めまして?」

「申し遅れました。私、LJO運営部の者です」

「え? 運営?」


 なんと運営アバターだった。彼が語るには、一時間ほど前に匿名でGMコールがあったらしい。他人の個人情報を悪意ある形で吹聴する悪質なマナー違反のプレイヤーがいると。


 そこで運営側が調べたところ真実であったと分かり、ミレイのアカウントが一旦凍結されたらしい。このままアカウントが削除されることは既に決定しているそうだ。


「調査中、ユート様と問題プレイヤーが接触中と判明したため、こうやって直接お詫びに参りました」


 いや、そこまでされるとむしろ恐縮するっていうか、落ち着かないんだけど。まあ、向こうはそれが狙いなのかもしれないが。


 ミレイが悪いんであって運営のせいじゃないんだし、彼女のアカウントを削除してくれたらそれで構わない。このゲームは複アカ禁止だし、運営から削除された人間は一定期間アカウント再設定ができない措置が取られる。ミレイの本体はしばらくこのゲームに復帰できないだろう。


「では、失礼いたします」

「あ、ちょっと待って!」

「はい?」

「なんか譲渡申請とかいう画面が出たままなんだけど!」

「ああ、それはお受け取り下さい。どうせ相手はアカウント削除されますし。お詫びの品という事で」


 そうして運営アバターは去って行ったのだった。ミレイからの譲渡申請画面を残して。


「え? いいの?」


 貰って良いなら貰っちゃうよ? 許可を押すと、インベントリにアイテムが増えた。薬草に陽命草。さらに水軽石に探し求めていた赤テング茸。そして謎のお香だ。


「このアイテムだけ謎だな」


 鑑定してみる。


名称:引き寄せ香・赤(始まりの町)

レア度:3 品質:★5

効果: モンスター誘因効果:ユニーク:効果時間25分

この香を焚くと周辺のモンスターをおびき寄せる。色によって効果が違う。赤はユニークモンスターを引き寄せる。また、町の指定がある場合、その町の隣接フィールドでしか使うことができない。香は使い捨て。


「面白いな」


 色々と使い道がありそうだ。特にテイマーにとっては悪くないアイテムだろう。まあ、今の俺には宝の持ち腐れだけどね。その内使って、ユニークモンスターをテイムしてみせるさ。


 とりあえずこれで一件落着か? あとは、すでに知っている人間から広まらないことを祈るだけだ。



初期の構想では1回ミレイを見逃し、数話後に再び悪さをしたミレイをGMコールでBANするという流れだったのですが、ミレイの人気は最低なようですし。再度登場しても誰得? という感じなので、ここで退場という事になりました。

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― 新着の感想 ―
ほのぼのした作風だしストレスになるミレイの即退場はすごく好感持てる
掲示板に載せる←まだセーフ スクショ撮って姿と一緒に売る←アウトに決まってんだろ頭沸いてんのか
仮にこれだけで垢バンならば可哀想ではある。 これを嫌がるならソロゲーやるしかないレベルでどうでもいいことだけど・・・主人公がこれ程この個人情報に固執する様子は何かの伏線の可能性なのだろうか
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