138話 水霊門
泉から立ち上る光の柱。
こ、これは水の精霊様降臨か?
だが、俺の前に現れたのは精霊様ではなく、巨大な門であった。
石でできた、古代遺跡の入り口にでも設置されてそうな、神秘的な雰囲気たっぷりの門である。門の表面には波に似た複雑な紋章が彫られ、神秘さを高めることに一役かっている。高さは5メートルくらいはあるだろう。
そんな門が、いきなり目の前に出現したのだ。
「えっと……」
閉じられた門扉を見てどうしようかと思ったが、すぐに石の扉がゴゴゴゴと開き始めた。良かった。自力じゃ絶対に開けられないからな。その直後、ワールドアナウンスが鳴り響く。
《精霊門の1つが解放されました》
『水霊門を開放したユートさんにはボーナスとして、スキルスクロールをランダムで贈呈いたします』
これが精霊門だったとは。昨日、ワールドアナウンスが流れたのも精霊門関係だったはずだ。
多分、俺が2番目ってことなんだろう。昨日は火の日。俺の曜日と結晶連動説が本当だとしたら、火霊門が開かれたはずだった。
となると、土霊門が土の日。風霊門は……何の日だ? 風の日なんかないし。月、木、金、日のどれかだとは思うが……。分からん。
「あと、スキルスクロールをくれるって言ってたな」
インベントリを確認すると、プレゼントボックスが入っていた。開くとランダムでスキルスクロールが出てくるようだ。
「よし、早速開けてみよう! 何が出るかな、何が出るかな、テレテテッテーテレレレー♪」
開くと、出現したのは『水中探査』のスキルだ。うーん、知らんな。このゲームはスキルの数が膨大なので、興味のないスキルまでは覚えてられないのだ。
「とりあえず使っちゃうか。ほうほう、面白いスキルだな」
自分の魔力をエコーの様に放ち、水中をスキャンするスキルだった。情報が3Dマップとして、俺のステータスウィンドウに表示されている。
レベルが上がれば精度も範囲もあがるらしい。面白いは面白いけど、俺にはあまり使い所が無いかもしれない。多分、水中で活動できる種族なんかには必須のスキルなんだろう。
「とりあえず、門に入ってみるか……。ちょっと怖いな」
何せ、開いた門の先が見えなかった。暗くて見えないという訳ではなく、まるで水の中であるかのように、青い光がユラユラと揺れ動いているのだ。
ただ、これで入らないという選択肢は当然ない。
「よし、いくぞみんな!」
「ムム!」
「キキュ!」
「クマー!」
「――♪」
「ヤー!」
オルトとクママとリックが右手を突き上げてやる気を見せる。サクラはいつも通り笑顔だね。ファウは場を盛り上げる様な音楽を奏で始めた。○イレーツ・オブ・カリビアンのテーマソングの様に、冒険感満載の曲である。
「おおう、なんかヌルッとする……。ええい、男は度胸!」
俺は意を決して、門の中の青い光に飛び込んだ。体が水の様な物に包まれる感触があったと思ったら、次の瞬間には大きな広間の様な場所に出る。
石造りの神殿の様に見える場所だった。薄暗い部屋の四方には不思議な青い光を放つ玉が浮かび、部屋を神秘的に照らしている。
「えーっと――」
「ようこそいらっしゃいました。解放者よ」
「ええ? 誰?」
「私はウンディーネの長。貴方を歓迎いたします」
部屋の中に瞬間移動して来たかのようにいきなり現れたのは、ウェーブのかかった水色の髪をポニーテールにした1人の美しい女性であった。
着ている服は踊り子の様な薄手の衣装で、どこか大樹の精霊様に似ている気がする。あっちが緑なら、こちらは水色だ。
「ここは、何なんですか?」
「この場所はウンディーネの隠れ里。選ばれし者だけが訪れることが出来る、聖なる地です」
「なるほど、だから水霊門なのか」
「こちらへどうぞ、ご案内させていただきます」
「あ、はい」
ウンディーネさんが踵を返して歩き出したので、俺たちは慌ててその後について行った。ウンディーネさんは広間から続く通路を進んでいく。
狭い通路を抜けたその先には、先程までの石造りの薄暗いダンジョンの様な場所ではなく、天井も壁も床も、全てが白い大理石の様な物で造られた、美しい空間が広がっていた。ヨーロッパの町中にある噴水広場的なイメージだろうか? 多分、東京ドームより広いと思う。
壁や通路、天井、果ては階段や空中通路にまで滝や水路が縦横に設置され、水が止めどなく流れ続けている。さすが水の精霊の住処っていう感じだ。
そして、そこにはウンディーネさんによく似た美しい少女たちが大勢いた。普通に語り合う者も多いが、中には店の様な物を営んでいる者さえいる。
「ここは我ら水精霊の街。門を潜りし人間であれば、自由に行動することを許可します」
「あ、ありがとうございます」
これは面白そうな場所だ。早速いろいろ調べたい。
「あの、幾つか質問があるんですが」
「何でしょうか? 答えられる範囲でお教えしましょう」
「えーとですね、またここに来ようと思ったら、水の日に水結晶を捧げなくてはいけないんですか?」
「いえ、日と結晶を一致させなくてはいけないのは最初だけです。一度入った者であれば、いつでも門をくぐることができます」
今のは重要な情報だ。やはり水の日に水結晶が必要だったらしい。
「俺と一緒であれば、誰でもここに来れますか?」
「いいえ、資格者のみしか入れません。自力で門をくぐらなくては、資格者以外は弾かれるでしょう」
他人を連れてくることはできないと。
「あと、あの扉は何でしょう? すごく大きいんですけど」
「あの先は、水霊の試練となっております。我らとは違い、狂ってしまった哀れな同胞たちが封じられております」
「それって、ウンディーネが敵として出現するって事?」
「はい。あなた方に分かりやすく言えば、ダンジョンでしょうか」
「狂った精霊を倒したら、皆さんに怒られるんでしょうか?」
「いいえ。狂った精霊は、消滅させてやるのが慈悲です。元に戻せれば良いですが……」
敵として現れたウンディーネを倒しても、文句は言われないらしい。
あと何か聞きたいことはあるか? だいたい聞いたと思うけど……。
「あ、もう一つ。あそこに魚がいるのが見えますけど、ここで釣りをしてもいいですか?」
「構いませんよ」
精霊の住処の魚だ。何か面白いのが居るかもしれん。これも面白そうだ。
「では、私は入り口に戻ります。また何か聞きたいことがあれば、尋ねてください」
「わかりました。色々と説明ありがとうございました」
ウンディーネさんが頭を下げて去っていく。よし、さっそく探検だ!
次回は17日更新です




