137話 羽音の森の泉
村を出発してから1時間。
実は俺はマップデータを見ながらある場所を目指していた。
「さて、もう直ぐ例の場所だな」
ほぼ全てのデータが出そろっていると言われている第2エリアだったが、1つだけ謎が残っていた。
それが、東西南北の各第2エリアにある、不自然なオブジェクトの存在である。
例えば、爪の樹海には風が通り抜ける時に音が鳴る、穴の空いた大岩があるし、角の樹海には何をしても火が消えない樹木程の高さの巨大な松明がある。牙の森には、高さ3メートル程の板状の岩が6枚、円を描くように設置された小さいストーンヘンジのような場所があるそうだ。
そして、俺たちがいる羽音の森には、周辺に色とりどりの花が咲き乱れる、綺麗で深い泉があった。
最初の頃は、何か謎があるはずだと様々なプレイヤーがこの場所を訪れ、謎解きに挑戦したらしい。何かを捧げるのではないかと、各自が推理したアイテムを持って来てみたり、魔術をぶつけてみたり、色々だ。だが、その謎を解けた者は1人もいなかった。そしていつしか、単なるファンタジー感を演出するための風景の一部なのではないかと言われる様になってしまったのだ。
アリッサさん的には、やはり謎があると思っているようだが、どうやってもその謎にはたどり着けなかったらしい。
何故か知らないが、アリッサさんにここに行くように強く勧められた。見ておいて損はないから、ぜひ行ってほしいと言う。まあ、アリッサさんがそこまで言うなら、行ってみようという事で、謎の泉を目指しているのだ。
最短ルートからはかなり外れてしまうが、今の俺たちなら多少の無理は出来るからな。珍しい風景も見てみたいし。そうやって羽音の森を進んでいると、少しだけ森が開けた場所に出た。
「あった。あれだ」
直径10メートル程の円形の広場になっている。その中心に、聞いていた通りの花に囲まれた美しい泉が存在していた。
「ふむ……。確かに単なる風景の一部とは思えないな。神秘的な感じがするし、何か謎がありそうだ。皆も調べてくれよ」
俺がそういうと、うちの子たちが一斉に泉に駆け寄っていく。
「ムム?」
「キュー?」
「ヤー?」
オルトとリック、ファウは泉を覗き込み、パチャパチャと水を触っている。
「クマ?」
「――?」
クママとサクラは、泉の周辺を歩いて何かないかと探していた。俺も、まずは周辺の探索からだな。
「うーん……」
一周回ってみたんだが、やはり何も分からなかった。まあ、水仙の花と球根を発見できたので、少しは成果があったけど。肝心の泉に関しては何も分からない。
「釣りでもしてみるか?」
そう思って泉の淵に立ってみると――。
「ええ? なにこれ?」
いきなり泉が光り輝いたのだ。最初は太陽光が反射したのかと思ったが、明らかに泉自体が淡い光を放っている。
突然の現象に驚いていると、何やら声が聞こえてきた。
『水霊の祭壇に水結晶を捧げますか?』
水霊の祭壇っていうのは、ここのことか? 水結晶を捧げる? えーっと、どういうことだ?
「……捧げるってことは、水結晶はなくなっちゃうって事だろうな」
水結晶か。他の物だったら問題ないんだが。孵卵器にも使えるし、売ったら50000Gだぞ? 意味不明な場所に捧げろって言われてもな……。
それでも俺が悩むのには、1つの理由があった。
「水霊の祭壇って言ってたよな? オルトの装備の名前には土霊って付いてるが……」
もしかして何か関係するのではなかろうか? ノームが土霊だとすると、水霊? ウンディーネの様なモンスターが出現するか?
ただ売ったら50000Gなんだよな~。
「うーん……でも、この機会を逃したらどうなるか分からないし」
精霊様の祭壇の件もある。木の精霊様に会うには、木の日に祭壇に行かなくてはならない。だったら水霊の祭壇は水の日? 偶然にも今日はゲーム内で1月18日で、水の日なのだ。
水の日に、水結晶持ってこの祭壇に来るのが条件だとすると、これを逃がしたらあと1週間も待たなくてはならない。
ただ、今のはあくまでも俺の推察だ。もしかしたら全然違う条件で、奇跡的にその条件を満たしただけという可能性だって高い。
Yes/Noの選択肢は未だに出たままだ。
未だかつて誰も解き明かしていない泉の謎。これはロマンだよな~。
「うーん。行っちゃうか」
水結晶は激レアではあるが、勿体ないという気持ち以上に、この祭壇への好奇心が強い。
「よし、捧げます!」
『では、水結晶を泉に投げ入れてください』
指示通りに水結晶を取り出して、泉へと投げ入れる。すると、さらに強い光が泉から天へと向かって凄まじい勢いで立ち上った。
「派手な演出キター!」
次回は14日、その次は17日予定です。




