136話 学生たち
セーフティーゾーンを出発した後、俺たちは第2エリアの村にたどり着いていた。
村と言っても、宿と道具屋、鍛冶屋などがあるだけで民家も何もない、セーフティーゾーンに毛が生えた程度の物だが。
まあ、休憩できるのは有り難いね。
俺は道具屋で掘り出し物が無いか探していた。ハーブの種とかないかと思ったんだが、特に目ぼしい物はない。
「屋台もないし、本当にセーフティーゾーンに毛が生えたレベルなんだな」
他に用事もないので、もう出ようかな~と思っていた時だった。
「あれ? 白銀さんじゃないですか!」
「こんにちは!」
「ツヨシとタカユキか」
赤髪短髪剣士のツヨシと、青髪真ん中分け槍士のタカユキだった。
以前、精霊様の祭壇に行くための地下道で助けてあげた2人組だ。俺が誰かを助けるなんて珍しいので、よく覚えている。
「東の町に向かってるんですか?」
「ああ、そうなんだ。2人は?」
「俺たちは、第2エリアで素材集めです。羽音の森は蟲系のモンスターが多いですから」
「軽い防具を作るにはうってつけなんですよ」
見た感じ2人とも回避メインの軽戦士みたいだしな。軽い防具は必須だろう。
「まだ2人でプレイしてるのか?」
「いえ、他のクラスメイト達と一緒です。俺たち2人だけじゃまだ第2エリアはきついですから」
「本当は第4エリアまで進んでるんですけど、レベリングに付き合ってくれてて」
そうやって2人と話をしていると、彼らの仲間だと思われるプレイヤーが近寄って来た。
「ツヨシくん、タカユキくん、知り合い?」
「おう。以前お世話になった人だ!」
「いや、そんなお世話って程でもないだろ。1回助けただけだ」
「それで、あの時に助けてもらって、俺たちも色々と勉強になりましたから」
うーん、さすが現役高校生。真っすぐだね。おじさんには爽やかすぎる。
「こいつらが、俺たちのパーティメンバーです」
「あ、どうもヒナコです」
「セルリアンです」
「イワンです」
ツヨシたちのクラスメイトなだけあって、礼儀正しくて爽やかだった。俺に対してきっちりと頭を下げている。きっとエスカレーター式の良い私立学校に違いない(偏見)。
「俺はテイマーのユートです」
「ええ? や、やっぱり……。ち、ちょっと待ってもらえます?」
「はあ? いいけど」
俺が自己紹介すると、何やら後から来た3人が、ツヨシとタカユキを囲んでヒソヒソと話をし始めた。
「――なんで――」
「――知り合いなら――」
「――どこで――」
どうしたんだろうか? 声は少ししか聞こえないが、3人がツヨシたちを詰問しているらしい。
待つこと3分。
「お、お待たせしました~」
「突然すいません」
「いや、別にいいけど、何かあった?」
「いやいや、気にしないでください!」
「ちょっと説教――じゃなくて確認を取っただけですから」
ヒナコとセルリアンの女性コンビが、何かを誤魔化す様にオホホホと笑う。その後ろでは、何故か落ち込んだ様子のツヨシとタカユキの肩を、イワンがポンポンと慰めるように叩いていた。
「本当に大丈夫か?」
「は、はい! ダイジョウブデスカラ!」
「オキニナサラズ!」
まあいいか。きっとクラスメイトならではのノリなんだろう。俺も高校の時は、クラスメイトと馬鹿やったもんだ。
「それでその……白銀さんですよね?」
「そのモンスちゃん、動画で見たし」
どうやら俺の事を知ってるらしい。
「まあ、そう呼ばれることもあるな」
「きゃー! やっぱり!」
「ここでお会いできるなんて!」
黄色い声を上げる少女たちの視線はうちの子たちに向いている。ヒナコはリック、セルリアンはサクラのファンらしいな。それにしても動画?
「動画って何だ?」
もしかして、俺たちを隠し撮りした動画でも出回ってるのかと思ったら、違っていた。なんと公式動画に俺や、うちの子たちが映っていたらしい。
武闘大会の動画だけ見て、まだ俺たちが参加した方の動画は見てなかったな。だって、武闘大会の動画は、プレイヤーたちが自分でアップした動画とかも合わせると100本近くて、まだそちらも見終わってなかったのだ。あとで村の動画も見てみよう。
そう思って公式ページを確認していたら、イワンが話しかけて来た。魔術師っぽい格好だな。
「あの、俺もテイマーなんです」
「え? そうなの?」
なんとお仲間だった。でも、モンスはどうしたんだ?
「はい、今日は皆とパーティを組むんで、こいつしか連れてきてないんですけど。挨拶しろスネイク」
「シュー」
イワンのローブの中からニュッと顔を出したのは、大きな頭をした大蛇であった。多分、全長2メートルくらいはあるんじゃなかろうか。
イワンのモンスだと分かっていても、タッチするのには少し勇気がいる大きさだった。その大蛇が、俺の肩のファウやリックに顔を近づけて、舌をチロチロと出している。
挨拶し合っていると分かっていても、例えファウが笑顔だったとしても、不安になる光景だ。
「スネークが進化したのか?」
「はい。Lv20で、スネークから進化したヴァイパーです」
「うーん、こういうのも格好良いな」
「強いですよ。攻撃力も、隠密性もありますから。水の中も行けますし」
「ほほう。それは頼りになる」
俺たちは互いのモンスの情報を色々と交換していく。いやー、やっぱりテイマーとの話は勉強になるね。
とりあえずイワンとは別れる前にフレンドコードを交換しておいた。テイマー仲間は貴重だからね。
あと、珍しくアリッサさんからメールが来ていた。
なんでも、お得意様だけに送られてきたお知らせメールのようで、昨日の『精霊門』に関して非常に有用な情報を入手したので、興味がある方はお早めにどうぞと書かれていた。
俺なんかをお得意扱いしてくれるのは嬉しいけど、今すぐは無理だな。始まりの町に戻った時に顔を出してみよう。
「とりあえずは、第2エリアを攻略しないとな」




