13話 特殊クエスト
「オルト、畑はどうだ?」
「ム? ムッム」
「暇そうだな」
畑に戻るとすでに種まきまで終わっているようだ。緑マーカーを確認すると、何が植えられているか判別できた。
「ムー?」
「お、これか? さっき買ったローブだ」
オルトが俺の装備しているローブが気になるのか、裾を掴んで首を傾げている。
「いいだろ?」
「ム」
「で、畑はもう大丈夫か?」
「ム!」
シュタッと手を上げるオルト。うむ、可愛いやつめ。
「じゃあ、ついてこい」
オルトと共に獣魔ギルドに向かった。特殊クエストをクリアするためだ。
「ムッムー、ムッムー」
「ご機嫌だな」
「ムゥ」
お出かけが楽しいのか、オルトは鼻歌交じりでスキップしている。
「ほれ、これ食っとけ。どうだ? うまいか?」
「ムー……」
蜜団子はあまり美味しくはなさそうだ。俺の食べてる携帯食よりはましだろう。その内もっと美味い物を食わせてやるから。
『使役のレベルが上がりました』
お、なんかスキルレベルが上がったぞ。モンスターと一緒に行動しているだけで、使役の熟練度が上がるみたいだ。
「ここが獣魔ギルドだ」
「ムー」
「クエスト掲示板に行くぞー」
そして、特殊クエストをまとめて消化する。
「バーバラさん、俺のモンスを連れてきましたよ」
「あらー! ノームさんですね! しかもユニーク個体じゃないですか! ふむふむ、レアスキルの育樹、exスキルの栽培促成exも覚えているようですね~」
バーバラさんは喜色満面でオルトを観察している。時おり頭を撫でたりしているが、オルトが嫌がっている様子はないのでそのままにしておく。美少女のバーバラさんがにやけた顔でオルトを撫でまわす絵面はちょっと引いてしまうものがあるが。
「ふぅ。堪能しました! クエスト達成を受理しますね」
特殊クエスト
内容:Lv5のモンスターをバーバラに見せる
報酬:500G
期限:なし
特殊クエスト
内容:ユニークモンスターをバーバラに見せる
報酬:3000G
期限:なし
特殊クエスト
内容:レアスキルもしくはexスキルを覚えたモンスターを、バーバラに見せる
報酬:5000G
期限:なし
『クエスト達成を確認しました。報酬が支払われます』
『基礎レベルがLv4に上がりました。ボーナスポイントを2点取得しました』
『職業レベルがLv4に上がりました』
Lvが上がったな。さすが特殊クエストだ。所持金も11350Gに増えたし。でも、すぐに達成できそうな特殊クエストはもうないんだよな。初期ボーナスで即達成できるのもこれが最後だろう。
名前:ユート 種族:ハーフリング 基礎Lv4
職業:テイマー 職業Lv4
HP:20/20 MP:29/29
腕力:2 体力:3 敏捷:5
器用:7 知力:7 精神:6
スキル:採取:Lv2、使役:Lv3、従魔術:Lv5、調合:Lv2、杖:Lv1、テイム:Lv1、逃げ足:Lv1、農耕:Lv1、料理:Lv1、錬金:Lv1
装備:杉の杖、アズライトのローブ、硬革の靴、獣使いの腕輪、ブロンズのネックレス
所持金:12850G
所持ボーナスポイント:4
称号:白銀の先駆者
所属ギルド:冒険者ギルド:獣魔ギルド:農業ギルド
使役モンスター(1/3):ノーム
また腕力は上がらなかったな。やはり腕力は上がり辛いみたいだ。種族特性だから仕方ないけど。
『従魔オルトのレベルが上がりました』
「ムー!」
「オルトのレベルも上がったか!」
名前:オルト 種族:ノーム 基礎Lv6
契約者:ユート
HP:24/24 MP:29/29
腕力7 体力5 敏捷5
器用10 知力12 精神9
スキル:育樹、株分、幸運、重棒術、土魔術、農耕、採掘、夜目、栽培促成ex
装備:土霊のクワ、土霊のマフラー、土霊の衣
俺とオルトのレべルが上がった上、大金も手に入った。マジで特殊依頼は美味しいぜ。
「このお金で何買おうかな? うーん……オルトは何がいいと思う?」
なんてね。オルトが答えてくれるはずもないか。そう思っていたら、オルトが何か訴えている。
「ムッムム」
「なんだ?」
両手を前にそろえて、何度も振り上げて振り下ろすジェスチャー。
「餅つき?」
違うか。オルトが首を横に振っている。
「連続パワーボム」
「ムー」
「剣道の打ち込み?」
「ムー」
なんだ? 何かを訴えたいのだろうが……。
「お、今度は何だ」
埒が明かないと思ったのだろう。オルトが違うジェスチャーを始める。
「ボタンを押して……」
「ムー」
「違う? じゃあ、何か穴をあけてる?」
「ムム!」
そう、それ! とでも言うかのように、オルトは俺をビシッと指差す。なぜジョジョ立ち風なんだ?
「穴をあけて、何かを撒く? ああ、種まきか!」
「ムー!」
「じゃあ、さっきのジェスチャーはクワを振ってたのか?」
「ム!」
という事は、オルトが訴えていることは……。
「畑が欲しいのか?」
「ムッムー!」
このおねだり上手さん! 安い買い物じゃないんだぜ? でも、キラキラした瞳で見上げてくるオルトを見ていたら、ダメとは言えない雰囲気だ。くそ、運営め! こうやって俺に金を使わせる気だな!
「あのな、オルト……」
「ム……」
俺が何を言いたいのか分かったのか、オルトはシュンと下を向く。うん、うちのオルトは超かわいいな! それに、よく考えてみたら、畑は悪くないかもしれない。ポーションを大量調合して売りさばけば、資金稼ぎになるし。スキルのLv上げにもなる。取り戻すのは時間がかかるかもしれないが、難しくはないと思う。
「うーん」
「ム?」
「畑欲しいのか?」
「ム!」
「そうか」
「ムー……」
「じゃあ、買っちゃうか?」
「ム?」
「オルトがいれば、色々育てられるし」
「ムム!」
「よし、買っちゃおう!」
「ムー!」
「くすくす」
獣魔ギルドを出ようとしていたら、誰かに笑われた。
振り向くと、金髪のエルフ少女が口元を押さえて楽しげに笑っている。従魔を2体連れたテイマープレイヤーだ。その視線は明らかに俺を見ていた。
うーむ、少し騒ぎ過ぎたか。ちょっと恥ずかしいぞ。これ以上目立つ前に、さっさと行こう。
「ねえ、あなた面白いね」
「はい?」
逃げるのに失敗した。少女が自らトテトテと近づいてきたのだ。
「だって、畑って結構高いのにあんな乗りで買う事決めちゃうし。ねえ? 小遊三、先生?」
「ボー」
「クエッ!」
軽自動車くらいある陸亀の魔獣は小遊三。少女の肩に止まっている白頭鷲に似た魔獣は先生と言うらしい。なんか独特のネーミングセンスだな。
「いや、必要だと思ったんで」
「ふふ。モンスとあんな掛け合いする人初めて見たし」
「そうですか?」
うーん。悪い感じじゃないな。単に、楽しそうだから話しかけてきたんだろう。アリッサさんにちょっと似ている。この少女の方が、幼い雰囲気だけどな。
「うん。さっすが白銀の先駆者だね、やることが一味違うよ」
なん、だと……? この娘、なんて言った? 白銀の先駆者とか聞こえたが。うん、聞き間違いかな?
「えーと、なんですって? もう一度お願いします」
「だから、さすが白銀の先駆者だって言ったの!」
「な、なんで俺の称号を……」
そりゃあ俺の髪は銀色だけど、それだけで俺の正体が分かるか? あてずっぽうかとも思ったが、確信を持っている感じだった。
もしかしてアリッサさんか? 俺の情報を売っているのだろうか。ここだけの話にするって言ってたのに! やばい、このままだと俺の正体が一気に広がってしまう。
「あの、どこで知りました?」
「え? 露店で女の子に教えてもらって――」
うん、決定だ。くそ! 情報屋の商売人魂を侮ってた! こんな簡単に個人情報を流出させられるとは。
「すいません、これで失礼しますね。いくぞオルト」
「ムー」
「あ、ちょっと!」
「また今度!」
とりあえずアリッサさんを口止めしないと。




