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128話 ファウ

 さっそく手に入れた苗を植えたいな。


「オルトー」

「ム?」

「これ、新しくもらった苗木と種な。梨と柿と、トマトと――」


 オルトにアイテムを渡している時、俺はある物を思い出した。いや、すっかり忘れてたよ。


「そうだ、オリーブトレントの苗!」

「ム?」

「モンスなのか苗木なのか良く分からないんだけど……。畑に植えればいいのかね?」


 取り出して鑑定しても、モンスターには思えない。


「ムムー?」

「これなんだけど」

「ム!」


 胸をドンと叩く、お得意の任せとけポーズだ。どうやら普通に植えるといいらしい。


「なあ、このトレント、普通にモンスターに育つのか?」

「ム?」

「動けるようになると連れて行けるんだけど」

「ムー?」


 オルトは俺の言葉に首を傾げている。育てることは出来るが、どう育つかは分かっていないらしい。仕方ない。これは成長を待つしかなさそうだな。


 まあ、畑の管理はオルトに任せておけば大丈夫だろう。梨や柿が収穫できる日が楽しみだぜ。


「さて、次は卵のための孵卵器だな」


 大量ポイントを費やして手に入れた土竜の卵である。ここは良い孵卵器を使いたい。となると、以前ソーヤ君に作ってもらった属性付加生産技能孵卵器だな。いや、せっかくの竜なんだし、戦闘技能孵卵器の方が良かったかね?


「置き場所は納屋で良いよな。前の卵も置いてあるし、最早納屋って言うか孵卵室?」


 俺はまずソーヤ君に連絡を取ってみることにした。


「ソーヤ君、いてくれよ~」


 そう願いながら連絡してみると、始まりの町に居てくれた。というか、同じイベントに参加していたらしい。サーバー順位は6位だったようだ。


 俺は獣魔ギルドに向かい、戦闘技能孵卵器を購入してソーヤ君の露店に向かった。


「やあソーヤ君」

「あ、お久しぶりですユートさん」


 イベントはどうだったのか聞いてみると、ソーヤ君たちのサーバーは守護獣の解放までは成功したものの、神聖樹が1本邪悪樹化してしまい、最終的には村の防壁までグラシャラボラスに攻め込まれてしまったらしい。


 神聖樹の復活はどうしたのか聞いたら、村長が育樹持ちのファーマーだった様だ。彼を神聖樹まで連れて行くと復活させてくれるらしい。2本目の神聖樹は敵が強くて村長を連れて行けなかったらしいが。


「ええ? じゃあユートさん、サーバーポイントが10000超えてたんですか?」

「ああ、ソーヤ君は?」

「僕は3280でした。個人ポイントは2400ですね。新しい錬金道具をもらっちゃいましたよ」


 やはり俺のサーバーポイントは相当多かったか。まあ、これでも1位だし、当たり前か。でも、あまり自慢しないでおこう。どうせあの順位発表でばれてはいるが、必要以上の妬みをかいたくないのだ。


 俺は前回と同じ様に、孵卵器とアイアンインゴット、そして風結晶を手渡した。土竜だから土結晶でもいいかと思ったんだが、うちは風属性持ちがいない。ここは一番不足している風にしておこう。土と風で相性はどうかと思うが、威力が下がったりはしないはずだし。


 因みに、今回もお金は払っていない。かわりにソーヤ君の雑草を乾燥させてハーブティーを作っておいた。


「どうぞ」

「おお! 前よりも品質が高いな!」

「新しい道具もありますし、錬金のレベルも上がりましたからねー」


名称:風属性付加戦闘技能孵卵器

レア度:4 品質:★7

効果:孵卵器。誕生するモンスターの初期ステータスがランダムで+5。初期スキルにランダムで戦闘技能が追加。初期スキルに風属性スキル、風耐性が追加。



 初期ステータスのボーナスが前回の+4から+5に上がっている。これは良い効果だ。早速使おう! 俺はソーヤ君に礼を言って、畑に急いだ。


「ただいまー」

「ムムー」

「お、これがトレントの苗か?」

「ム」

「ふーむ。普通に苗木だな」


 やはりモンスター的な要素は全くない。だが、俺のテイムモンスターのリストには、オリーブトレントという文字がしっかりと載っている。どうなっちまうんだろうな。モンスターになるのか、木になるのか。サクラみたいな樹精になったりするのか。


「おっと、先に孵卵器を設置しちゃおう」


 畑を見てたらキリがないからな。


「オルトとサクラの卵はまだ孵化しないよな?」


 クママの卵はもう少し時間が掛かったし。だが、納屋に入った俺は思いがけない物を目にする。


「おいおいおいおい、もうヒビが入ってるじゃないか!」


 もう少しでヒビが卵を一周するだろう。クママの時の事を考えたら、もう生まれる寸前だ。早くね? というか、オルト達を呼ばないと!


「おーい、オルト! サクラ! 卵が孵るぞ! 仕事は後でいいから、こっちこい!」


 俺の言葉が聞こえた様で、オルト達が慌てた顔でこっちに駆けてくる。クママもリックも一緒だな。まあ、自分たちの卵じゃなくても新しい仲間だからね。


「ムム!」

「――!」


 オルトとサクラが卵の前に陣取り、キラキラした目で見つめている。クママとリックもその後ろで卵をのぞき込んでいた。


 一緒に卵を見守りつつ、俺は土竜の卵を孵卵器に設置する。その直後だった。卵が強い光を放ち、俺たちの顔を照らす。もう2回目だからね、慌てないぞ! 眩しいは眩しいけど。そのまま光は強さを増し、最後には激しい閃光を放った。


 光が収まると、殻も孵卵器も光の粒になって消えて行く。これもクママの時と一緒だ。


「おお、可愛いな!」


 思わずそう言ってしまった。


「ヤー♪」


 そこに居たのは、小さな小さな女の子だった。いわゆる妖精的な外見である。ただ、羽はないが。フワフワのクセの付いた背中まである赤い髪と、エルフの様な長い耳。


 着ているのは、体にフィットした青い半袖半ズボンの服(へそ出し)と、ポンチョの様な茶色いマントだ。アンデスとかの民族衣装風だね。


 まるで動くフィギュアって感じだが、そのニパッと花が咲いたような笑顔は、人形にはありえない温かみを感じさせてくれる。


 名付けをするようにアナウンスが聞こえたので、名前がない様だ。ユニーク個体の両親から生まれても、ユニークになるとは限らないらしい。


 掌を上にして差し出してみると、妖精はその掌にピョンと飛び乗る。近くで見てみると、やはり可愛い少女だ。


「名前を付けてやらないとな!」

「ヤー♪」 

「羽はないけど、妖精みたいだしな……。可愛い奴で……。よし、お前の名前はファウだ!」

「ヤー♪」



名前:ファウ 種族:ピクシー 基礎Lv1

契約者:ユート

HP:15/15 MP:25/25 

腕力4 体力4 敏捷10

器用12 知力9 精神8

スキル:演奏、回復、隠れ身、歌唱、聞き耳、採取、跳躍、火耐性、火魔召喚、夜目、錬金

装備:妖精のリュート、妖精の衣



 武器は持っていないが、楽器を装備している。しかもスキルは演奏に歌唱だ。もしかして吟遊詩人みたいな戦い方をするんだろうか? 吟遊詩人の歌は本人が戦闘に加われない代わりに、全体へのバフ、デバフを可能にする。非常に役立ってくれるだろう。


 回復もあるし、小さいと侮ることはできないな。火魔召喚はどんな能力なんだ? 字面からすると、火に関係する使い魔みたいなのを呼び出す能力だとは思うが。


 どんな能力か尋ねてみると、ファウが火魔召喚を使ってくれた。いわゆる鬼火的な火の玉がファウの前にポンと出現する。ファウが命令する通りに動く様だ。これは面白い。それにファウの演奏中でも攻撃できるってことだし、相性も良さそうだな。


 あと、生産技能孵卵器のおかげで、錬金もある。何が嬉しいって、これで生産作業の助手が出来た事だ。いい従魔を引いたぞ!


「よろしくな、ファウ!」

「ヤー♪」

「ムーム! ムーム!」

「クーマ! クーマ!」

「キューキュ! キューキュ!」


 オルト達が、俺とファウの周りを奇妙な動きで回り始めた。祝いの舞と言ったところか。すると、ファウが俺の肩に腰かけ、ポロロンとリュートを爪弾き始めた。


 賑やかな酒場か何かでかかっていそうな、軽快な音楽だ。その音に合わせてファウが歌い出した。会話は出来なくても、歌うことはできるようだ。良く通る声で「ランラ~♪」と歌い続けている。


 オルトたちも楽しくなってきたのか、ピョンピョンと飛び跳ねる様な激しい踊りになって来た。サクラは体を揺らしながら手拍子だ。


 ただでさえ賑やかだったのに、さらに賑やかになりそうだな。まあ、嫌いじゃないけどね。


「おいおい、俺も交ぜろよ」

「ムッムー!」

「キューキュキュー!」

「クマクマー!」

「――♪」

「ラ~ラランラ~♪」


もうすでにお買い上げいただいた方がいるみたいですが、

「出遅れテイマーのその日ぐらし」の書籍版が23日発売予定です。

そちらもよろしくお願いいたします。

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